1. HOME
  2. プロが教える不動産投資
  3. 最新!建築コストとマンション投資との相関関係【プロが教える不動産投資コラム】

最新!建築コストとマンション投資との相関関係【プロが教える不動産投資コラム】

この数年マンション価格が上昇傾向にありますが、その要因の一つとして「建築費」の上昇が挙げられます。マンション価格のうち「建築費」は「土地の価格」に並んで大きな割合を占めます。さらに「建築費」と言っても「建築素材費」「人件費」「運送費」を始め多くの要素があります。

今回は、こうした建築費の現状と今後の動向について考察していきます。

建築費指数は上昇傾向に

建築費を表す指標に建築費の指数があります。これは建築費の推移を指数で表したものです。国土交通省が2024年5月31日に発表した「建設工事デフレーター」によると、2015年を100とする指数で、マンションなどの鉄筋コンクリート造の住宅の建築費は2024年3月には126.7と大きく上昇しています。

つまり今後は同じ建物を建設する場合でも建築費の上昇が物件価格を押し上げる事になります。

建設工事費デフレーター(2015年度基準)
(鉄筋RC)

指数
2023年平均124.1 
2024年1月124.6 
2024年2月125.0 
2024年3月126.7 
<国土交通省「建設工事費デフレーター」>

※2023年平均はオフィス野中算出

建築素材費の動向は

インフレによる物価上昇などの要因もあり、建築素材費も上昇しています。企業間で取引される物の価格の指数を表す「企業物価指数」も上昇傾向にあります。

日本銀行の発表した「企業物価指数(速報)」によると、2024年4月の企業物価は2020年を100とする指数で121.2と上昇しています。

中でも「鉄鋼」が153.5、コンクリートやガラスなどの「窯業・土石製品」が128.5、「非鉄金属」が169.6などマンションの建築素材となる価格も上昇しています。平均よりも高い上昇率となり建設資材の上昇の要因となっています。

国内企業物価指数の推移
(2020年=100)

2020年2021年2022年2023年2024年
4月
指数100104.6114.9119.7121.2
<日本銀行「企業物価指数」>

円安も企業物価上昇の要因に

こうした企業物価指数の上昇の要因は、円安による輸入物価の上昇も挙げられます。

日本では長らく低金利政策を実施してきましたが、米国では逆に金利の引き上げが行われており、こうした日米の金利差拡大もあり円安が常態化しています。

日銀では2024年4月にはマイナス金利政策の解除を決定し、金利は徐々に上昇傾向にありますが、依然として円安は続いている状態となり2024年5月の後半には1ドル156円と円安が続いています。

建築費の大きな割合を占める人件費は上昇傾向に

建築費の中で「人件費」も重要な要素となっています。岸田総理の推進で賃料水準は全体的に上昇にありますが建築業ではどうでしょうか。

国土交通省が発表した公共工事の労務単価(人件費)について見てみると、2015年度に約16,600円/日であった人件費は2024年度には23,600円/日と大きく上昇し、約1.4倍となっている事になります。前年度と比べて5.9%の引き上げとなり、2013年度から12年連続の引き上げとなりました。

こうした人件費の上昇には、現場で働く若い人が減っているだけではなく「高齢化による熟練工職人の不足」などの要因も挙げられます。さらに「建設業の2024年問題」も人件費上昇の要因となっています。

これはいままで延長されていた建設・運輸業などの残業規制が実施されるものです。建設業界だけでなく、トラックの運転手などにもこの規制がかかりますので、輸送費などが上昇する事も考えられます。こうした人手不足は工期延長にもつながり、建築費にも大きな影響を与えます。

また日銀の発表した「企業向けサービス価格指数」も2024年4月には、2015年を100とする指数で111.9に上昇しました。企業向けサービス価格は輸送費や情報技術料など企業間のサービスの価格ですが、人件費の上昇などが価格に反映されて上昇傾向となっています。

企業向けサービス価格の上昇も建築費などの上昇の要因につながる可能性もあります。

公共工事設計労務単価の推移

年度2015201620172018201920202021202220232024
単価16,67817,70418,07818,63219,39220,21420,40921,08422,22723,600
<国土交通省「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について」>

(単位:/日 円)

再開発やインバウンドの増加による建築需要の増加

東京を始めとした大都市圏を中心として、大規模な再開発が多くのエリアで進行しています。また高度経済成長期に建設された多くの社会インフラなどが大規模な補修の時期を迎えるなど建築需要は多方面で高まっています。

国土交通省の発表した「建設工事受注動態統計調査」によると、2023年の公示受注額が約17兆2092億円で前年比4.0%の上昇となりました。

建設工事受注額は3年連続の増加となり、建設工事需要が増加している事が分かります。

また建築工事の中ではオフィス・庁舎、娯楽施設・店舗等の商業施設が増加しています。インバウンドの増加による商業・店舗の需要が増加しており、今後もホテル建設の増加なども予想されます。

建設工事受注額の推移

2021年2022年2023年
受注額15兆7838億円16兆5482億円17兆2092億円
前年比10.2%4.8%4.0%
<国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告(大手50社調査)(令和5年12月分、令和5年計)について」>

※数値は概算

マンションのクオリティや法令・規制の変化

家電業界・自動車業界等も年々クオリティのバージョンアップが続いていますが、マンション業界においても構造・スペック等において著しい進化を遂げています。

世界的な共通課題である地球温暖化等の環境変化に配慮したZEH-M(ゼッチマンション)も普及してきています。断熱性が高く室内を快適な温度に保ちやすいのでエアコンなどの電気代なども少なくて済みます。電気代につきましては既に報道されている通り、6月から大幅な上昇となるようです。こうした省エネ住宅は政府も推進しており、2025年4月からは全ての新築住宅に「省エネ適合基準」が義務付けられます。このような規制により建築費は上昇すると考えられますが、マンションのクオリティがさらに高まる事により長期的な視点で見ると資産価値も維持しやすくなりプラス要因と考えられます。

今後の建築費の動向は

人手不足に対応するための省人化を進めるために、中小企業に向けた政府の支援案が検討されていますが、この対象を建設や物流に広げる事が新聞で報道されています。

しかし少子高齢化で人手不足は今後も進行する可能性があります。物価上昇と人手不足が建築費の押し上げの要因となる中で建築需要が増加するという状況が続いています。

さらに国際的に見ても日本の賃金水準が低く、今後賃金水準は上昇傾向が続くと考えられます。

建築費は世界情勢の影響も受けます。近年は世界的な異常気象、さらにウクライナを始めとする紛争などでエネルギー価格や素材価格などが上昇してきています。世界的な人口増加はエネルギーや食糧の需要増、さらに建築需要の増加にもつながります。特にインドを始め人口が大きく増える国や都市においては、中間層及び富裕層の増加により住宅需要も今後大きく増えていく事が予想されます。

こうした影響は日本にも及び、世界的な素材需要の増加が日本の建築費を押し上げる要因となります。

建築費の上昇は投資用マンション価格の上昇にも繋がり、利回りを確保するために立地の遠隔化や面積の狭小化なども進む可能性があります。今後は都心周辺部の交通利便性の高い立地の需要もますます高くなり、地価上昇が都心から準都心部などへ波及が進む事も考えられます。

但しマンション価格の上昇は周辺のマンション相場の上昇にもなり、既存のマンションの資産価値を引き上げる効果もあると考えられます。

関連記事

【はじめよう、お金のこと】72ってなに?