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外貨建て保険「高利率で人気」なのに解約が増えているのはどうして?

資産づくりのための金融商品はさまざまにありますが、その中でも、外貨建て保険は高利率で人気と言われていました。

ところが、2024年4月3日に金融庁から公表された調査結果によると、購入後4年以内に約6割が解約されていることがわかりました。

外貨建て保険は、高利率で人気のはずですが、なぜ、解約が増えているのでしょうか。

そもそも外貨建て保険とは?

まずは、外貨建て保険のしくみについて、詳しく見ていきましょう。

外貨建て保険は「外貨建て」の名のとおり、米ドルやユーロなどの外貨で保険料を払い、外貨で保険金を受け取る保険です。

とはいえ、契約者みずからが、保険料支払いの際に、日本円から外貨に両替をするわけではありません。外貨建て保険では、その時の為替レートによって計算された保険料を日本円で支払うことになります。

外貨建て保険の保険料は月払いや年払いもできますが、主流は一時払いです。

一時払いのメリットは、利回りの良さと、為替レートによる保険料のアップダウンを避けられることにあります。

たとえば、一時払いの保険料が5万ドルだとすると、1ドル=150円なら750万円の支払いです。

もし、円安が進んで1ドル=160円になると、保険料は日本円で800万円。

逆に円高になって1ドル=140円なら、保険料は700万円と、かなりの違いがあります。

円安基調の時期であれば、円高になるのを待ってから契約したほうがおトクなように感じるかもしれません。しかし、為替レートはあくまで相対的なもので、日々上下します。

また、外貨建て保険の保険金もまた、為替レートによって計算された日本円で受け取ることになります。保険金を受け取る時期とくらべる視点も大切です。

仮に、外貨建て保険から受け取れる保険金が6万ドルとすると、1ドル=150円なら900万円ですが、円安の1ドル=160円なら960万円、円高の1ドル=140円なら840万円です。

保険金を受け取る時の為替相場を考えると、保険料の支払い時のレートだけで、一概に損得判断はできないのではないでしょうか。

このように、為替相場は長期の予想が難しいことが難点です。

しかし、外貨建て保険のメリットは運用利率の高さにもあります。

掛け捨てではない貯蓄型の保険は、契約期間中に解約した場合に解約返戻金を受け取ることが可能です。

保険会社は、契約者から受け取った保険料を運用して増やし、将来の支払いに備えます。外貨建て保険では、その運用を外貨で行うことで高利回りの運用が可能になっています。

運用された資金は解約返戻金に反映されるため、途中で解約して解約返戻金を受け取った場合にも、メリットを得ることができるのです。

そのため、外貨建て一時払い終身保険や、外貨建て変額個人年金保険は、貯蓄性の高い金融商品として人気があります。

その外貨建て保険に、解約が多いのはなぜなのでしょうか。

外貨建て保険はなぜ解約が相次いでいる?

金融庁の資料「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2023事務年度中間報告)」によれば、外貨建て保険は、契約から4年間で約6割が解約しているとのことです。

保険は長期間の契約が前提になっていることがほとんどですが、短期で半数以上が解約しているのは何か問題があるはず、と検証されています。

外貨建て保険の解約が相次いでいる理由として考えられるのは「保険の販売側の利益優先」にあるようです。

「目標設定型」で自動的に利益確定し円建ての商品に移行

外貨建て保険のなかには、「目標設定型」といわれる変額年金保険があります。ターゲット型ともよばれています。

ターゲット型の変額年金保険では、払い込んだ保険料は保険会社が運用して年金原資を作ります。その年金原資が、一定期間(多くは1〜3年)以降にあらかじめ設定した目標に達成すると、外貨建てから円建てに移行される仕組みです。目標の多くは、もともと必要とされる年金原資の110%や120%に設定されます。

外貨建て保険の運用は特別勘定(契約者から預かった保険料を管理・運用する勘定。運用のリスクは契約者が負う)で行われます。そのためハイリターンが期待できると同時にハイリスクでもあります。必ず増えるとは限らず、逆に損失が出る可能性もあります。

ですから目標に達成した後は、円建てに移行して一般勘定(運用の成果にかかわらず保険金額が保証されている勘定。運用のリスクは保険会社が負う)で運用することで、リスクをおさえることができます。

老後資金を形成する目的の個人年金保険としては合理的といえますが、利益を優先したい顧客であれば、満足できないこともあるでしょう。外貨建てから円建てに自動的に移行してしまうのであれば、高利回りのメリットはなくなってしまうため、解約するのではないかと思われます。

同種の保険を再び買わせて保険会社が販売手数料を二重取り

ターゲット型の保険を解約して利益が確定したところで、同種の保険を再度購入させる手法をとる保険会社や販売代理店もあるようです。

特別勘定の運用がうまくいったので、また同じように利益を得ようと持ち掛けるのでしょうか。

たしかに、一般勘定でローリスクの運用をする商品にしておくより、特別勘定で運用する保険に乗り換えたら、さらに利益が出るかもしれません。

しかし、保険をいったん解約してから、わざわざ別契約をすることのメリットは、実は販売する側にもあります。

それは、保険を販売することで販売側が受け取れる、販売手数料です。

販売手数料は、販売初年度には高く、2年目以降は低くなってしまうことも多くあります。金融庁の資料によれば、初年度は5.5%、2年目以降は0.1%などです。したがって、保険の販売側にとっては、アフターフォローをしっかりして保険を長く続けてもらうより、解約して新しい保険に入ってもらうほうが利益につながるわけです。

老後資金は、本来ハイリスクの運用は向いていないはずです。大きなリターンは期待できなくとも、確実につくらなくてはならない資金だからです。そのため、販売側は一般勘定で運用するメリットを契約者に伝える必要があります。また、それでも特別勘定の運用が希望だという場合には、目標を設定し直したらよいはずです。

しかし、そうせずに保険を乗り換えさせることによって、販売手数料で稼いでいるということです。もし販売側が顧客より販売者の利益を優先しているのだとすれば、不適切な販売手法だと言わざるを得ないでしょう。

とはいえ、保険はいったん解約してしまったらもとには戻せません。

契約者側もしっかり情報収集をして、損をさせられないように気を付けなければなりませんね。

外貨建て保険の「元本割れ」に対する苦情も

外貨保険ならではのリスクの説明不足もあります。

外貨保険は米ドルや豪ドル、ユーロといった外貨で保険料と保険金を計算し、運用も外貨で行います。

日本は、ゼロ金利政策こそ2024年3月に解除されたものの、依然として低金利です。

一方、多くの外貨は高金利ですから、運用利率は日本円よりも有利です。

しかし、保険金や解約返戻金は日本円で受け取るので、当然ながら為替変動リスクがあります。

保険料は一時金で5万ドル、2年後に解約、解約返戻金5万5000ドル受け取ったとして、具体的な例で比較してみましょう。

<保険料と解約返戻金>

一時払い保険料:5万ドル

解約返戻金:5万5000ドル

5000ドルも増えたら2年で10%の運用益、日本円での運用と比べると確かに大きな利益です。

しかし、保険料の支払い時点は1ドル=160円の円安、解約返戻金を受け取る時に1ドル=140円の円高だったらどうでしょうか。

<円安→円高の場合>

一時払い保険料(1ドル=160円):5万ドル×160円=800万円

解約返戻金(1ドル=140円):5万5000ドル×140円=770万円

ドルでは10%増なのに、日本円にすると30万円も減っています。

為替相場によってはこうなることもありえると分かっていればよいのですが、「知らなかった」「効いてない」といった苦情は決して少なくありません。

では、逆に保険料の支払い時点は1ドル=140円の円高、解約返戻金を受け取る時に1ドル=160円の円安だったらどうでしょうか。

<円高→円安の場合>

一時払い保険料(1ドル=140円):5万ドル×140円=700万円

解約返戻金(1ドル=160円):5万5000ドル×160円=880万円

ドルでは10%増、日本円にすると為替相場分もあわせて25%増、180万円も増えます。

しかし、この利益はまるまる自分の手元に入るわけではありません。

保険の解約返戻金を一時金で受け取ると、一時所得として所得税の対象ですが、一時払いの年金保険などを契約から5年以内に解約した場合、解約返戻金には20.315%の源泉分離課税がかかります。

投資経験のある人であれば当たり前のように知っていることでも、知らない人からすれば驚くようなカラクリに感じられるのではないでしょうか。

株・債券・為替といった投資関連の言葉を、聞いたことはあっても詳しくは知らない、相場は特に意識していない、という人にとっては、まさかと思うようなことかもしれませんね。

できればお金を増やしたい、とは誰もが思うことでしょうが、リターンとリスクはコインの表と裏のようなもの。別々に考えられるものではありません。

「リターンは大きいほうがよい」という言葉だけをとりあげて、ハイリスク商品を販売することは決して適切ではありません。

「安定的な運用をして資金準備をしたい」、「収益性が小さくてもリスクが小さいことを重視」、「定額運用によって安定的に資金を準備したい」など、真のニーズをくみ取った販売方針が徹底されることが大切です。

外貨建て保険の販売手法は今後どうなる?

保険の乗り換えによって販売手数料を稼ぐ方法は問題視されています。そのため、保険商品を扱う銀行だけではなく、生命保険協会もガイドラインを改定し、今後の販売手法の改善をはかっていく方向です。

外貨建て保険のようなリスクのある商品を販売するにあたっては、それぞれの顧客に合っているかどうか、しっかり見極めることが販売者側に求められています。具体的には、顧客のニーズだけではなく、年齢や投資経験、リスク許容度も含めて考える必要があるということです。顧客の背景を知らなければ、適切な商品を提案できるはずがないからです。

また、運用がうまくいくケースだけを強調するのではなく、損失が出る場合についてもわかりやすく説明しなくてはならないとされています。資料の文字の大きさや表示方法にも注意するべきだと示されています。そして、外貨建て保険以外の、たとえば投資信託などの金融商品との比較ができるように情報提供することが、顧客本位だとしています。

さらに、契約後のフォローアップの重要性が強調されています。

ライフプランは時とともに変化していくものです。仕事や住まい、家族の状況などは常に変化していくことを考えれば、資産形成のあり方、金融商品の選び方に変化があって当然です。

保険商品を売ったら売りっぱなしにせず、丁寧なフォローが販売者に求められています。

顧客側としてできることは、安易に契約しないこと、幅広い情報収集を行うことにつきます。保険を検討しているからといって、保険の販売専門の人からの説明だけでは中立的なアドバイスを受けられない可能性があります。もしも保険で不安な点があるならば、金融商品全般の知識を持っているファイナンシャル・プランナーへの相談をお勧めします。

タケイ啓子

ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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