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新NISAで「円安」が加速するのはどうして?

円高・円安とは、「外国の通貨(ドルなど)から見て、円の価値が高くなったか安くなったか」を表す言葉。このところニュースでは「円安が止まらない」などと報じられていましたが、2024年8月に入って急激に円高になるなど、大きく変化しています。

さて、2024年といえば、改正された「新NISA」がスタートした年でもあるのですが、2024年7月までの円安は新NISAによって加速したと考えられます。今回は、新NISAで円安が加速した理由を一緒に確認していきましょう。

為替レートはどのように動いている?

ニュースで「本日の為替レートは…」などと紹介しているのを見たことがあるでしょう。為替レートとは、たとえば円とドルのように、異なる2つの通貨(為替)を交換するときに用いる交換比率のことです。

為替の取引は世界中のさまざまな場所で平日24時間行われているため、為替レートも平日24時間、絶えず変動しています。朝のニュースと夜のニュースで為替レートがずいぶん違うこともあるのは、そのためです。

為替レートには、シーソーのような関係があります。先の円とドルの例でいうと、円高とドル安、円安とドル高はセットで起こります。円とドルを比べて、円が欲しい人が多ければ円高(ドル安)、ドルが欲しい人が多ければ円安(ドル高)になります。

2020年からの米国のドルと円の為替レートの推移は、次のようになっています。

<米ドルと円の為替レートの推移(2020年〜)>

(株)Money&You作成

2020年ごろの為替レートは、若干の上下こそありますが、おおむね1ドル=100円〜110円台と安定して推移していました。しかし2022年に入ると、徐々に円安方向に変動。2024年6月には、1ドル=160円を超える場面もありました。2020年と比べると、50円以上も変動しています。ただ、直近の2024年7月か8月にかけては、円高が急激に進んでいます。

今回は、新NISAで円安が加速するのはどうしてかという話ですので、新NISAがスタートした2024年1月からに絞ったグラフを見てみましょう。

<米ドルと円の為替レートの推移(2024年〜)>

(株)Money&You作成

2024年1月に新NISAがスタートしたとき、為替レートは1ドル=140円ほどでした。その後前後しながらも、おおむね7月までは円安傾向が続いています。

為替レートはさまざまな要因で変動しますが、中でも大きいのは円とドルの金利差によるものです。金利の低い日本円と金利の高い米ドルならば、金利の高い米ドルで運用したいと考える人が多いでしょう。そのため、円の通貨価値が下がり、米ドルの通貨価値が上がる(=円安ドル高)ことが起こるのです。

グラフの途中に記載した「マイナス金利の解除」「為替介入」「利上げ」は、どれも円高になる要因です。

マイナス金利の解除

マイナス金利は、日銀が金融政策のために利用する金利(政策金利)をマイナスにすることです。日銀は、長らく政策金利をマイナス0.1%に据え置いてきました。企業や個人がお金を借りやすくすることで、景気を回復しようと考えていたのです。

しかし2024年3月19日、日銀は長らくマイナスに据え置いてきた政策金利を引き上げることを発表。政策金利はマイナス0.1%から「0〜0.1%程度」に引き上げられました。

日本円の金利が上がるということは、米ドルをはじめとする外貨との金利の差が縮小することでもあります。そのため、円高の要因となります。

ただ、金利差が縮小したといっても、米国の政策金利は5.25%〜5.5%ですから、まだまだ差があります。そのため、円安の傾向にほとんど変わりはありませんでした。

為替介入

為替介入は、通貨当局(日本の場合、日銀)が外国為替を売買することです。日銀は2024年4月末〜5月と6月末〜7月にかけて為替介入を実施しています。円を買ってドルを売ると為替レートは円高に進みますが、こちらも効果は限定的で、一時的に円高になる場面はあっても、その後再び円安になっています。

利上げ

マイナス金利の解除と同様、政策金利を引き上げることを利上げといいます。2024年7月31日、日銀は政策金利を0.1%程度から0.25%に引き上げることを発表しました。これにより、米国との金利の差が縮小するので、利上げは円高の要因です。

この利上げに続く2024年8月2日・5日、日本株は大暴落。日経平均株価はわずか2営業日で6667円も下落しました。特に8月5日の暴落は1987年の「ブラックマンデー」の下落幅を超えて過去最大の値下がり(−4451.28円)を記録。米国の景気の先行き懸念が強まったことに加えて、利上げによって円高が進んだことから、株が大きく売られたのがその要因とされています。為替レートも一時1ドル=141円まで円高になる場面がありました。

ただ、翌8月6日には一転して株価は急激に回復し、為替レートも本稿執筆時点(2024年8月7日)で1ドル=145円となっています。これから再び円安に戻るのか、さらなる円高になるのかはわからない状況です。

新NISAで円安になるのはどうして?

新NISAは、投資で得られた利益にかかる税金が一生涯にわたってゼロにできる制度です。積立投資ができる「つみたて投資枠」と一括投資もできる「成長投資枠」の2つの投資枠を使って、1人あたり1800万円(生涯投資枠)の非課税の投資ができます。

新NISAのつみたて投資枠では年間120万円まで投資ができます。金融庁の基準を満たした投資信託やETF(上場投資信託)にじっくりと長期・積立・分散投資することで、お金を堅実に増やす期待ができます。また成長投資枠では、株式・投資信託・ETF・REIT(不動産投資信託)に年間240万円まで投資が可能。積立投資だけでなく一括投資もでき、つみたて投資枠で購入できない商品にも投資ができます。

日本経済新聞の記事によると、2024年1月から6月までの上半期に資金流入額が多かった投資信託のベスト10は、次のようになっています。

<2024年1月〜6月の投資信託資金流入額ランキング>

日本経済新聞の記事をもとに(株)Money&You作成

トップは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」。日本を含む世界の先進国23か国・新興国24か国、約3000もの株式で構成された指標との連動を目指す全世界株型の投資信託です。1本買うだけで世界の株式市場の85%をカバーできます。それでいて、年0.05775%というとても安い信託報酬で、世界中の株式に分散投資できます。投資家にも「オルカン」の愛称でも広く知られています。

また、2位は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」です。米国の代表的な株式指標のひとつ、S&P500に連動することを目指す全米株型の投資信託。S&P500は米国の流動性のある大型株から選ばれた500社で構成されている指標で、米国市場の時価総額の約80%をカバーしています。こちらも信託報酬が年0.09372%とても安くなっています。

2024年1月から6月までのわずか半年間で、2本とも1兆円以上の資金流入があったのですから驚きです。

3位以下にも同様に、全世界株型・全米株型の投資信託が並びます。表のなかでオレンジにしたものが全世界株型、黄色にしたものが全米株型の投資信託です。5位の「HSBCインド・インフラ株式オープン」のみインドに100%投資する投資信託ですが、そのほかは全世界、または米国に投資しています。

なお、全米株型は100%米国に投資していますが、全世界株型もおおむね6割から7割は米国に投資しています。「オルカン」も、組入トップの国は米国で63.5%、ついで日本が5.1%、イギリス3.3%などとなっています(2024年6月の月次レポートより)。したがって、米国の影響を比較的大きく受けます。

これら外国株型の投資信託を買うときには、円を売ってドルなどの外貨を買います。そのため、為替レートが円安になる要因になります。新NISAのスタートによって、資金がこれらの外国株型の投資信託に向かったことによって、円安が進行したのです。

日本経済新聞の記事 によると、家計の「円売り」は2024年1月〜5月の5か月間で5.6兆円。これは2023年の1年間の4.5兆円を大きく上回っています。

新NISAのつみたて投資枠では「毎月○万円」などと設定してこれらの投資信託を購入しているケースが多くあります。また成長投資枠で毎年1月にこれらの投資信託をどんと一括投資する人もいます。こうした買いが今後も続くならば、新NISAは円安を加速する要因になり続けるでしょう。

新NISA「国内投資枠」創設は?

「貯蓄から投資へ」を後押しするために便利に改正された新NISAでは、海外に投資する投資信託が選ばれていること、そしてそれが円安の要因になっていることを紹介しました。せっかく新NISAの制度ができたのに、国内にはあまり投資されていないのが現状です。

NISAの拡充が行われたのは、国が「成長と分配の好循環」を実現したいと考えてのことでした。しかし、肝心の投資が海外に向かうようでは、「成長と分配の好循環」の実現が遠のいてしまうかもしれません。

そこでにわかに話題になったのが、新NISAの「国内投資枠」とでも呼ぶべき制度。文字どおり、国内への投資の利益が非課税になる仕組みです。国内投資枠があれば、国内の株や投資信託などに投資しようという流れができ、家計の円売りによる円安が抑えられるかもしれません。

実際、NISAの制度のモデルとなった英国のISA(アイサ)では、新たに英国株や投資信託への投資に限定した非課税投資枠を設けるとのこと。報道によれば、年間5000ポンドまでの投資の利益が非課税になる予定です。

ただ、現状は国内投資枠を創設したり、新NISAで外国株の投資制限をしたりする考えはないようです。自民党の越智隆雄衆院議員はラジオNIKKEIのニュース番組において「日本ではまずは「貯蓄から投資へ」の習慣を作っていくことが大事なので、外国株への投資制限はしない」という趣旨の発言をしています。

とはいえ、NISAの制度はこれまで何度も変わってきました。

NISAの制度は2014年に始まり、2016年には「ジュニアNISA」、2018年には「つみたてNISA」が登場しました。さらに一度NISAの制度を改正する話が持ち上がったものの取り消しとなり、新たに2024年から旧NISA制度を統廃合する形で「新NISA」が誕生しました。わずか10年の間に、いろいろと制度が変わっています。

今後、国内投資枠のような制度ができてもまったくおかしくはありません。どうなるのか、注目していきましょう。

高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー

一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計160万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

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