
雇用保険「改正」7つのポイントどう変わる?
失業した人の生活や雇用の安定を目指す雇用保険は、これまでも何度か改正が行われています。2024年5月に成立した雇用保険法の改正によって、2025年から2028年にかけて、順次さまざまな改正が行われます。今回は、すでに改正になったものも含めて、雇用保険改正のポイントを紹介します。
そもそも雇用保険ってどんな保険?
雇用保険は、失業した人などに、再就職のための援助などを行う保険です。
雇用保険の給付の代表は失業給付(雇用保険の基本手当。以下「失業給付」)です。失業すると収入が途絶え、生活が一気に苦しくなり、仕事を探そうにも探せなくなってしまいます。そこで、失業給付をはじめとする必要な給付を行うことで生活を支え、次の仕事を探してもらうようにしているのです。
また、雇用保険では仕事に必要なスキルを身につけるときや、育児・介護などで仕事ができないときなどにも給付を行い、働く人の生活を支えます。
本稿執筆時点(2025年4月8日)の雇用保険の加入条件は、下記3つの条件をすべて満たした人となっています。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
- 学生でない(一部例外あり)
この条件を満たしているならば、正社員・パート・アルバイト・派遣など、雇用形態にかかわらず、すべて雇用保険に加入します。また、会社(事業主)は、1人でも条件を満たす労働者を雇っているならば、雇っている人を雇用保険に加入させる義務があります。
雇用保険改正の7つのポイント
国は、働き方が多様化する時代に対応したセーフティネットを構築し、新たな価値を生み出すことのできる人材を育成する「人への投資」を強化したいと考えています。そこで、雇用保険の対象拡大や教育訓練、リスキリング(学び直し)、育児休業給付などの充実を盛り込んだ「雇用保険法等の一部を改正する法律」を2024年5月に成立させました。
ここからは、今回の雇用保険の改正のポイントを7つ紹介します。本稿執筆時点ですでに施行されているものも紹介していきます。
◼︎教育訓練給付金の給付率アップ(2024年10月1日〜)
教育訓練給付金は、働く人の資格取得やスキルアップを支援する給付金。在職中の人や退職した人が、厚生労働大臣指定の教育訓練講座を受講・修了すると、受講費用の一部が支給されます。
教育訓練給付金の給付率は、教育訓練講座の内容・レベルに応じて3種類あります。2024年9月までは下記3点でした。
・専門実践教育訓練…70%(年間上限56万円)
・特定一般教育訓練…40%(上限20万円)
・一般教育訓練…20%(上限10万円)
2024年10月からは、専門実践教育訓練と特定一般教育訓練の上限が10%ずつアップしています。
・専門実践教育訓練…80%(年間上限64万円)
・特定一般教育訓練…50%(上限25万円
・一般教育訓練…20%(上限10万円)
上限まで受け取る条件は、以下のとおりです。
◼︎専門実践教育訓練
・教育訓練経費の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6か月ごとに支給
・資格取得・訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用…+20%
・訓練修了後の賃金が受講開始前と比較して5%以上上昇…+10%
◼︎特定一般教育訓練
・教育訓練経費の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給
・資格取得・訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用…+10%
◼︎一般教育訓練
・教育訓練経費の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給
◼︎失業給付の給付制限期間が2ヶ月から1ヶ月に短縮(2025年4月1日〜)
冒頭で紹介した失業給付(雇用保険の基本手当)の給付制限期間が短くなりました。
失業給付には、大きく分けて会社都合退職と自己都合退職の2つがあります。会社都合退職には、会社が倒産した・リストラにあったといった理由の退職(特定受給資格者)や、法令違反・労働契約の更新をしない・心身の病気などやむを得ない理由の退職(特定理由資格者)の人が該当します。それ以外の都合による退職は自己都合退職となります。
失業給付をもらうには、ハローワークで求職の申し込みをしたあと、7日間の待機期間を設ける必要があります。その後、自己都合退職の場合にはこれまで、さらに原則2ヶ月間の「給付制限」期間を過ごしたあとに失業の認定を受け、失業の状態にあると認められる必要がありました。
2025年4月1日からは、給付制限の期間が2ヶ月から1ヶ月に短縮されました。また、離職期間中や離職日前1年以内に自ら就職に役立つ教育訓練を行った場合、給付制限が解除されるようになりました。これにより、自己都合退職であってもより早く失業給付が受け取れるようになりました。
<自己都合退職の失業給付の受給手続きの流れ>

ただし、過去5年以内に2回を超える自己都合退職を行なった場合は、給付制限が3ヶ月になります。こちらは法改正の前も後も変更なく「3ヶ月」となっています。
◼︎育児休業給付金の拡充(2025年4月1日〜)
育児休業給付金は、育休中の収入減少を補うために国から支給される給付金。原則、子どもが1歳になるまでの間受け取れますが、夫婦とも育休を取得する「パパ・ママ育休プラス」を活用すれば、子どもが1歳2ヶ月になるまで育休が取得できます。
育児休業給付金の金額は、下記になっています。
・6ヶ月(180日目)まで:給料(休業開始時賃金日額×支給日数)の67%
・181日目以降:給料(休業開始時賃金日額×支給日数)の50%
2025年4月1日からは、男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に14日以上の育休を取得する場合には、最大で28日間、休業開始時賃金日額の13%分にあたる「出生後休業支援給付金」が支給されます。
育児休業給付金と出生後休業支援給付を合計すると給付率は80%になります。しかも、育児休業給付金と出生後休業支援給付金はどちらも非課税ですので、一時期ではありますが、「手取り10割」が実現します。
<育児休業給付の給付イメージ>

また、育児休業給付の支給額は育休の取得者増に伴って年々増加しています。今後の支払いで困ることのないよう、国庫負担割合を増やす、保険料率を引き上げるといった財政基盤の強化も行われています。
◼︎就業手当の廃止(2025年4月1日〜)
就業手当は、失業給付の受給資格のある人が雇用期間1年未満の非正規雇用契約で働くことが決まった場合にもらえる手当です。ちなみに、雇用期間1年以上の雇用契約で働くことが決まった場合には「再就職手当」がもらえます。ただ、就業手当は2025年3月いっぱいで廃止されました。
また、再就職手当をもらった人が再就職先で6ヶ月以上働いたものの、給与が離職前よりも少なかった人がもらえる「就職促進定着手当」のもらえる金額も2025年4月より「基本手当日額×40%(または30%)×支給残日数」から「基本手当日額×20%×支給残日数」に減額されました。
人手不足で労働人口が減るなかにあって、1年未満の短期的な仕事についたり、賃金が減ってしまう仕事についたりするよりも、長く働ける仕事、スキルアップによって高い賃金がもらえる仕事についてもらった方がいいですよね。それに何より、制度の利用者があまりおらず、人気がなかったこともあり、廃止・減額となったというわけです。
◼︎高年齢雇用継続給付の給付率が15%→10%に(2025年4月1日〜)
高年齢雇用継続給付は、下記の条件を満たした場合にもらえる給付金です。
・60歳以上65歳未満
・雇用保険の被保険者期間が5年以上
・60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に低下
高年齢雇用継続給付には、失業給付を受け取らずに再雇用された場合の「高年齢雇用継続基本給付金」と、失業給付を一部受取って再就職した場合の「高年齢再就職給付金」の2つがあります。
<2つの高年齢雇用継続給付>

2025年3月までは、最高で賃金額の15%(賃金額が60歳到達時の61%以下になった場合)を受け取ることができました。しかし2025年4月からは、最高で賃金額の10%(賃金額が60歳到達時の64%以下になった場合)となります。
たとえば、60歳到達時の賃金月額が50万円、60歳以降の賃金が30万円になってしまったという場合、賃金低下率は60%です。このとき、2025年3月までは月4万5000円もらえたのですが、2025年4月からは月3万円に減ってしまいました。
そもそも高年齢雇用継続給付は、65歳まで働くことを援助するために設けられた制度です。しかし近年、60歳以降も働く高齢者が多数を占めるようになってきたため、給付を縮小したというわけです。なお、高年齢雇用継続給付は2030年4月以降廃止される予定です。
◼︎教育訓練休暇給付金の新設(2025年10月1日〜)
教育訓練休暇給付金は、仕事に関する教育訓練を受けるために休暇を取得したときに給付金がもらえる制度です。
教育訓練休暇給付金の対象者は雇用保険被保険者。被保険者期間が5年以上あることが条件になっています。また、教育訓練のための休暇(無給)を取得することも条件です。
教育訓練休暇給付金の給付額は、仕事を退職したときにもらえる失業給付の金額と同じです。被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかもらうことができます。
<教育訓練休暇給付金>

教育訓練休暇給付金を活用すれば、教育訓練による休暇中に給付を受けられます。これによって、働く人のリスキリングや、企業内の人材育成に役立つことでしょう。ただ、そもそも教育訓練休暇の導入そのものに慎重な企業も多く、どの程度制度が浸透するかは未知数です。
◼︎雇用保険の適用対象拡大(2028年10月1日〜)
現状、雇用保険の加入条件は、下記だとお話ししました。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用見込みがある
・学生でない(一部例外あり)
このうち、「1週間の所定労働時間が20時間以上」の要件は、2028年10月1日より「1週間の所定労働時間が10時間以上」となります。この改正により、パート・アルバイトなどの短時間労働者・非正規雇用者が雇用保険に加入することになります。
雇用保険に加入することで、失業給付、育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付といった雇用保険からの給付金などが受け取れるようになるのはメリットといえます。一方、雇用保険の保険料を支払う必要が生じます。2025年度の雇用保険の保険料は一般の事業の場合0.55%(これとは別に事業主が0.9%負担)。給与が月6万円の人の雇用保険の保険料は6万円×0.55%=月330円となります。
雇用保険のさまざまな改正を紹介しました。より多くの人が働きやすくなる、給付金がもらえるなどのメリットがある一方、新たな保険料の支払いが必要になることなど、注意しておきたいこともあります。
今回の改正点や今後の改正内容をぜひ一度チェックして、使える制度は使い、もしものときにどんな保障があるのかを確認しておくことをおすすめします。
執筆:高山一恵
(株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
(株)Money&You取締役。中央大学商学部客員講師。一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。NHK「日曜討論」「クローズアップ現代」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「マンガと図解 はじめての資産運用」(宝島社)など書籍100冊、累計180万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。
X(旧Twitter):@takayamakazue