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建築費上昇の4大要因|2025年も続くインフレ・円安・人手不足の行方と不動産価格へのインパクト

「建築費の上昇はいつまで続くのか?」

いま最も検索されているこの問いに対し、2025年時点の最新データは厳しい現実を示しています。

資材価格の上昇、円安の深刻化、慢性的な人手不足に加え、大規模インフラの老朽化によって建築需要はさらに拡大。結果として建築費指数は10年で約30%の上昇を記録しました。この動きはマンション価格や再開発計画にも直撃し、不動産投資の常識を大きく塗り替えつつあります。

投資判断に直結する「建築費高騰の真因と今後の影響」をデータで読み解きます。

建築費の上昇の要因と影響は

建築費の上昇が続いています。国土交通省が発表した建設工事デフレーターによると2015年を100とする建設工事費指数は2024年度(暫定)には128.9となり、最新のデータである2025年8月には130.9まで上昇しています。

さらにマンションなどに多く用いられる構造である鉄筋RC住宅では2024年度には130.5、2025年8月には132.3と建設総合指数よりも高くなっています。ここ10年で約30%上昇している事になります。

建築費指数の推移(2015年=100)

建築総合住宅 鉄筋RC
2015年度100.0100.0
2016年度100.3100.2
2017年度102.3102.5
2018年度105.6106.2
2019年度108.0108.6
2020年度108.0108.4
2021年度113.3114.3
2022年度120.3122.1
2023年度(暫定)123.4125.0
2024年度(暫定)128.9130.5
2025年8月130.9132.3
<国土交通省「建設工事費デフレーター(2015年度基準)」>

建築費上昇の要因

建築費上昇の要因1:「企業物価の上昇」

建築費の上昇の要因として物価の上昇が挙げられます。特に企業間で取引される物の価格である企業物価指数が大きく上昇しています。2020年を100とする指数では2024年に122.8、2025年10月には127.5となっています。5年間に30%近く上昇しています。

世界的なインフレや需要の増加、供給不足もあり建築資材が値上がりしており、鉄鋼、木材、セメントなどの価格が上昇している他、ガソリン価格の上昇などから輸送費なども上昇しています。

企業物価指数の推移(指数は2020年平均=100)

2022年2023年2024年2025年10月
指数114.9119.9122.8127.5
前年比9.8%4.4%2.4%2.7%
<総務省「企業物価指数(2025年10月速報)」>

建築費上昇の要因2:「円安」

円は2007年当時1ドル=120円前後でしたが、2012年頃には円高が進行しなんと80円前後となりました。その後円安となり2015年には120円台に、2021年頃まで100~110円台で推移していました。さらに円安が加速し2022年には150円前後となり、その後一時円高に進みましたが2023年頃から急速な円安が続き一時160円台となりました。

つまり円の高かった2012年頃と比べて、現在は円の価値が約半分となっています。という事は輸入品の価格が倍となっている訳です。

高市政権においてはアベノミクスを継承する金融緩和政策が基本路線となっていますので、過去のような円高水準に戻る可能性は低いと考えられます。

建築費上昇の要因3:「建築需要の増加」

東京をはじめとする大都市などでは多くの再開発やマンション建設などが進み、建築需要も増加しています。高市政権の政策の中で「国土強靭化」も含まれており、国内のインフラ整備なども進む可能性があります。また日本では高度成長期以降に建設された大型の公共インフラの多くが築50年以上を迎えており、こうしたインフラの補修についても需要が多くなってきています。道路の陥没などによる事故が発生するなど地下埋蔵物の老朽化・破損も問題となっています。

新たな建築需要に加えてこうした多くのインフラ補修の需要などから建築需要は今後も高まると考えられます。

建設後50年以上経過する社会資本の割合

2030年3月2040年3月
道路橋約73万橋(橋長2m以上約54%約75%
トンネル約1万2千本約35%約52%
河川管理施設約2万8千施設約42%約65%
水道管路総延長:約74万km約21%約41%
下水道管渠総延長:約49万km約16%約34%
港湾施設 約6万2千施設約44%約68%
<国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」>

建築費上昇の要因4:「人手不足」

人手不足も建築費上昇の要因となっています。

国土交通省の発表した公共工事設計労務単価を見ると、2020年の19,392円から2025年は24,852円と約5,000円以上、約28%の上昇となりました。

さらに建設業会では2024年4月から残業の規制が始まり人手不足に拍車がかかっています。その影響で工期が長くなり、ますます建築費が高くなる現象も発生しています。

こうした人手不足から外国人労働者も多くなってきていますが、技術はもとより言語・コミュニケーションの向上を計る実習・研修などがますます重要となってきます。

公共工事設計労務単価 全国全職種平均値の推移

2019年2月2020年3月2021年3月2022年3月2023年3月2024年3月2025年3月
労務単価18,63219,39220,40921,08422,22723,60024,852
<国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」>

建築費上昇の影響

1、大型プロジェクトへの影響

こうした建築費の上昇で大きな影響を受けるのは大型の再開発プロジェクトです。

ここでは例として筆者の事務所にも近い「中野サンプラザ」の建替えについて見てみたいと思います。

中野サンプラザは1973年4月に竣工し、1973年6月1日には「全国勤労青少年会館」として開業しました。その後40年近くが経過し老朽化や耐震性も問題などから大型のホールとオフィス、住宅などの超高層ビルからなる「NAKANOサンプラザシティ(仮称)」へと建て替えが計画されており、2023年7月に営業を停止しました。しかし建築費の高騰から当初の事業費は1,810億円から2,639億円に増え、2024年9月には3,500億円にまで増加しました。このため中野区は着工を断念し、2029年度内の完成予定も延期しました。

事業を担当する企業からはタワーマンションを軸とする修正計画案が出されましたが、中野区はこれを拒否、事業者との協定も解除されました。今後の方針はまだ決まっていません。中野駅前にある中野サンプラザは未だに閉鎖されたままです。中野駅前の象徴と言えるこの建物の行方も建築費の上昇の影響を大きく受けていると言えます。

また都内を始め日本中でも多くの大型プロジェクトなどが延期などになっており、建物の老朽化に伴い大きな影響が出ています。

さらに病院などの建替えにも影響が出ています。日本で築40年以上の病院が全国の27%にものぼっています。こうした病院の建替えができずに病院がなくなってしまうケースも出てきているそうです。

2、ファミリーマンション価格への影響

ファミリーマンション価格の上昇が続いています。不動産経済研究所の調べによると2025年9月の東京都区部の新築マンション価格は平均で1億3,764万円となり1億円超えが続いています。建築費の上昇はこうしたマンション価格の上昇のひとつの要因ともなっています。

さらにマンションの基準であるZEH-M(ゼッチマンション)が増えていますが、2025年4月からは省エネ基準適合が義務化されました。これは断熱・省エネ構造でマンション内のエネルギー消費を総合的に抑える構造です。さらに2030年には更に省エネ等級の引き上げも予定されています。建築費のさらなる上昇につながりますが、マンションのグレードも上昇し将来の資産価値の維持にもつながります。

こうしたマンション価格の上昇から金融機関ではローンの融資限度額の上限を拡大する動きも出ています。

3、投資用マンションへの影響は

建築費の上昇やZEH等級の義務化などは投資用マンションの価格上昇にもつながります。投資用マンションは土地代・建築費はもとよりその物件から得られる賃料(収益)に影響を受けます。投資用マンションなどは賃料上昇のカーブが比較的緩やかで収益還元法という観点から見てもファミリーマンションと比べて価格の出遅れ感があります。現状から見ると今後建築費が下がる要因があまり見当たらず、筆者の予想としてはなだらかな上昇が続くと考えます。

建築費の上昇というと、ネガティブな発想につながりやすいですが、ポジティブにとらえる視点も大切です。例えば筆者が勤めていた大京時代のライオンズマンションのワンルームは当時としては構造・スペック共に業界最高水準でした。時代の変化と共にワンルームマンションの構造・スペックも飛躍的に進化してきておりその流れは今後も続きます。

つまりハイクオリティなマンションが出現すれば建築コストは上昇する必然性も高いと考えられます。

今回のコラムが今後の皆様の不動産投資に少しでもお役に立てて頂ければ幸いです。

野中 清志(のなか きよし)
住宅コンサルタント

マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。

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