基準地価で見る最新地価動向【プロが教える不動産投資コラム】
政府は9月28日に緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置の同時解除を決定しました。また29日には自民党総裁選挙において岸田新総裁が誕生しました。これらの要因により新たな経済活動の第一歩が踏み出せる事には安堵感があります。
こうした中、国及び国民にとって大切な資産である土地に関して、国土交通省から新型コロナ後第2回目の「都道府県地価調査」が発表されました。これは通称「基準地価」と呼ばれ「公示地価」と並んで重要な地価の指標となります。
マンション価格と地価の関係は
マンション価格は地価と密接な関係があります。物件にもよりますが、マンション価格の約半分は土地価で構成格されます。地価が上昇しマンション用地価格が上昇すればマンションも上昇する訳です。 また新規のマンション価格が上昇すると、周辺の中古マンション価格にも波及し中古相場も上昇するケースが多く見られます。
①全国の地価の概要は
近年の地価はアベノミクス・スガノミクスによる金融緩和政策などにより上昇が続いてきました。特にインバウンドの増加で都心部の商業地などは大きな上昇を見せていました。
しかし新型コロナの影響で2020年の年頭から地価は下落または上昇率の縮小が見られてきました。
2021年の基準地価では、全国平均では2年連続の下落となりました。但し用途別に見ると住宅地では下落地点の下落幅が縮小、商業地は下落幅が拡大、工業地は4年連続の上昇となるなど温度差があります。
②東京の住宅地は上昇が続く
今回の東京都の地価を用途別に見てみると、住宅地では地価の上昇率は縮小しているものの上昇となり、9年連続の上昇となりました。但し横ばい地点は増加しています。
東京都区部では平均で0.5%の上昇となりました。都心5区は1.1%の上昇となり平均より上昇率が高くなっています。
地価変動率は「港区赤坂一丁目」や「千代田区六番町」など都心の高級住宅地などで高い上昇率となりました。これは新型コロナ禍においても根強い住宅需要があったからだと言えます。
多摩地区などでは、利便性の高いエリアでは上昇率が高く「吉祥寺」周辺などが上昇していますが、斜面造成地や駅から遠いエリア、人口減・高齢化が進むエリアなどでは大きな下落が見られました。このように同じ住宅地においても二極化の傾向があった事が分かります。
③東京都の商業地は都心部がわずかに下落
商業地の地価は都心部を中心に下落地点が増加、繁華街やオフィス街などで地価の下落が大きくなっています。
都心以外では再開発などが進行しているエリアでは地価上昇が持続しています。
都区部全体では0.3%のマイナスとなりましたが、区によって上昇地点と下落地点に分かれています。都心5区は平均で1.3%の下落となり、その他の区では0.2%の上昇となっています。
最も上昇率が高かった区は中野区と杉並区で0.6%の上昇、次いで墨田区と江東区の0.5%上昇となっています。
上昇率が高かった地点は大田区の「池上」駅前や中野区の「中野」駅北口前、足立区「北千住」駅前などいずれも駅近くの商店街などの地点が高い上昇率となりました。
いずれも単身者向けのワンルームマンションの人気が高いエリアでもあります。
基準地価 地価変動率の推移
住宅地 | 商業地 | |||
2020年 | 2021年 | 2020年 | 2021年 | |
東京都 | 0.2% | 0.2% | 1.4% | △0.3% |
東京都区部 | 1.4% | 0.5% | 1.8% | △0.3% |
区部都心部 | 2.0% | 1.0% | 1.9% | △0.9% |
区部南西部 | 1.0% | 0.5% | 1.9% | 0.3% |
区部北東部 | 1.5% | 0.4% | 1.8% | 0.2% |
多 摩 地 域 | △0.8% | 0.0% | △0.3% | 0.0% |
区部南西部:品川区、目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区、練馬区
区部北東部:墨田区、江東区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区
<国土交通省「令和3年都道府県地価調査」>
④商業地の地価は下落であるが下落幅は少ない
地価の動きというと短期的な視点で見られがちですが、中・長期的な視点から洞察する事も大切です。
たとえば東京都の商業地の地価は短期的な視点で見ると
- インバウンドの大幅な減少
- 新型コロナによる外出規制・行動規制による特に飲食店を中心とするサービス業のダメージ
などにより地価が下落しました。
但し東京都の商業地は平均で見ると非常に「このコロナ禍においても底堅い」という事が分かります。東京都区部の商業地地価は、下の表にあるように2021年は0.3%のマイナスとなりましたが、過去には大きく上昇が続いていました。中期的に見ると、過去5年間の上昇分からすると、2021年に若干のマイナスとなっても、地価は高い水準にある事が分かります。
基準地価 東京都の商業地 地価変動率の推移
2016 | 2017 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
東京都 | 4.2% | 5.0% | 6.0% | 7.0% | 1.4% | △0.3% |
東京都区部 | 4.9% | 5.9% | 7.2% | 8.4% | 1.8% | △0.3% |
<国土交通省「令和3年都道府県地価調査」>
⑤長期的に東京都の商業地は高止まり状態
さらに長期的に見てみましょう。アベノミク発足以降の2013年頃の地価と2021年の平均価格を比較してみると、東京都区部の平均価格は2013年の167万6,300円から259万3,100円と約1.54倍、東京都では約1.53倍も上昇しています。長期的に見ても実質的には下がっていないと言えます。
このように地価が大きく上昇しており、さらに建築の上昇などの要因もありマンション価格も上昇しています。
アベノミク発足直後との地価の差は? 東京都の基準地価平均価格の推移
2013年 | 2021年 | 倍率 | |
東京都区部 | 1,676,300円 | 2,593,100円 | 1.54倍 |
東京都 | 1,378,000円 | 2,113,500円 | 1.53倍 |
<東京都「東京都基準地価格」>
地価の動きは用途・エリアによって大きく異なる
商業地においては例えば都内ですと、神田や中野エリアもそうですが、飲食店を中心としたビルにおいてはテナントの看板が外された店舗も散見されます。つまりこの新型コロナにより廃業を余儀なくされた店舗が多いのも事実です。
しかし9月後半には急激な感染者数の減少となり、10月以降は緊急事態宣言が解除され徐々に飲食店を中心としたサービス業も復活の兆しを見せてくるのではないでしょうか。
その先にはテナント需要の増大により商業地の地価の底打ち、または上昇トレンドとなる可能性も秘めています。
また同じ商業地の中でも居住用の住宅、例えば単身者向けのワンルームマンションの土地の需要はこのコロナ禍においても衰える兆しもありませんでした。つまり同じ商業地の中でも影響を受けた土地と受けない土地の格差があったという事です。
ファンドの動きも地価に影響
最近の投資系不動産業界においては土地の取得段階からファンドが参入するケースも見られます。ファンドは潤沢な資金を有していますので、駅に近いマンション用地は積極的に購入する姿勢を示しています。
これは都心部で大規模に進行している再開発や新線計画により東京のポテンシャル・将来性が高く評価されている事も要因で、潜在的な土地需要も大きいと考えられます。
今後の地価動向は
コロナにおいては第六波も懸念されていますが、経口薬の治験開始や「抗体カクテル療法」の承認など感染後重症化しない医療体制も確立されつつあり、従来とは異なる様相を呈してくるのではないでしょうか。
また自民党においても新総裁により衆議院選挙に向けて新たな経済対策(住宅政策を含む)も期待されます。
新政権の下でも「金融緩和政策」が続くと予想されますので、引き続き土地を含めた不動産取引の環境は好調に推移すると思われます。
このコロナ禍においても名古屋圏の商業地の地価が全国でも数少ない上昇拠点となりましたが、その背景には大規模な再開発が期待されているという背景があります。 東京においても新型コロナという「極めて特殊な要因」が除外されれば、日本有数の再開発事業の規模を誇る東京の地価は反転する可能性を帯びていると考えます。