年金の「財政検証」と将来への備えを考える【プロが教える不動産投資コラム】
厚生労働省から将来の年金に関してのシミュレーションが発表されました。年金は将来のバランスを維持するために定期的に見直しが行われます。このシミュレーションの結果から将来の年金と不動産投資について述べてみたいと思います。
私達の生活 将来の見通しは
私達は日頃50m先を見つめながら日々暮らしているというのが実態で、先々の事はせいぜい半年後、長くても1年後を視野に入れるという生活をしている方が多いのではないでしょうか。
しかし、現在ドジャースで大活躍している大谷選手のように幼少の頃から目標年次計画を作り、それを確実に実践しているという驚異的な方もいらっしゃいますが、世の中では極めて稀有な存在と思います。
先の事は分からないと言ってしまえば身も蓋もありませんが、国は国民の老後の生活を最低限保証するという国家としての義務を背負っています。政府がただ国民に対して「老後の生活設計はどうぞ国に任せて下さい」と言われても、そこには当然の事ながら根拠が求められます。
年金は5年毎に見直し
そこで政府は長期の年金財政計画を策定すると共に、時代によって経済状況、労働市場動向、金融動向、様々な市場が変化していく中で5年おきに計画の修正を図り長期の目標が完遂できるよう調整するのがこの見直しの目的となります。
例えば企業においても長期計画、中期計画、年度計画、四半期ごとの計画、これらを株主や金融機関に開示して経営の健全度を示す訳です。
現在特に20代30代の若い方から見れば年金不安は常に共通認識として世の中に浸透しています。
しかし、それを放置しておくと、年金加入者の減少も含め年金制度の根幹を揺るがす事にもなりかねないので、一定の信頼があるという事を国民に示したい訳です。
将来の年金の給付割合は
それでは今回発表されたシミュレーションについて見てみましょう。
将来の年金については、現役世代の平均収入を100%として、夫婦2人のモデル世帯が2060年度に受け取る年金額を「所得代替率」として表しています。
但し、様々な経済変動によってそのシミュレーションは変わってきますので、概ね経済成長率や賃金上昇率などの予想を勘案して4つの経済条件が設定されています。
設定では最も経済成長率の高い「高成長実現ケース(実質経済成長1.6%)」で所得代替率は56.9%、次に成長率の高い「成長型経済移行・継続ケース(実質経済成長1.1%)」では所得代替率57.6%、次は「過去30年投影ケース(実質経済成長△0.1%)」で所得代替率50.4%となります。
最後に「1人当たりゼロ成長ケース(実質経済成長△0.7%)」では所得代替率は50.1%となっています。
所得代替率の予測
ケース | 実質経済成長率 | 所得代替率 | 物価上昇率 | 賃金上昇率 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 高成長実現ケース | 1.6% | 56.9% | 2.0% | 2.0% |
2 | 成長型経済移行・継続ケース | 1.1% | 57.6% | 2.0% | 1.5% |
3 | 過去30年投影ケース | △0.1% | 50.4% | 0.8% | 0.5% |
4 | 1人当たりゼロ成長ケース | △0.7% | 50.1% | 0.4% | 0.1% |
将来的には50%以上を確保
このように将来的には夫婦二人世帯では現役世代の収入の50%以上は確保できる見通しとなっています。
また、同じシミュレーションでも年代別の所得代替率が変わって、意外な所では現在20歳前後の若年層は現在の30代40代の方と比べて年金不安が和らぐそうです。
その理由としては昭和22年から24年生まれのいわゆる団塊の世代の方を含め、今後ボリュームゾーンである高齢者が先々他界されていくと、年金を支える生産労働人口と年金受給者のバランスが好転するからです。これは現在の年金制度は現在働いている人達が支える、いわゆる賦課方式となっているからです。
老後は本当に安心なのでしょうか
このシミュレーションは夫婦二人で、会社員の夫と専業主婦という「モデル年金」となっています。今年度は月額22万6,000円で、現役世代の男性の平均手取り収入37万円に対して61.2%となっています。
専業主婦の場合は第3号被保険者制度により年金保険料を納めなくても年金がもらえる仕組みとなっています。「モデル年金」にはこの分も含まれていますので、単身者の場合はさらに少なくなります。
現在の高齢者の世帯種類を見ると、単独世帯が51.6%、夫婦のみ世帯が44.1%となっており、10年前と比較して単独世帯の割合は増加し、夫婦二人世帯の割合は減少しています。
単独世帯が半数を超えており、実際には「モデル年金」に満たない世帯も多くいらっしゃると考えられます。
高齢者世帯の世帯構造の推移
単独世帯 | 夫婦2人世帯 | |
---|---|---|
2013年 | 49.3% | 47.5% |
2023年 | 51.6% | 44.1% |
高齢者世帯の生活意識の状況は
高齢者世帯の生活意識の状況と見ると、「生活が大変苦しい」と感じている割合は26.4%で前年18.1%から増加、「やや苦しい」と感じている割合は32.6%で前年の30.2%から増加しています。また「普通」と感じている割合は36.7%で前年45.1%から減少しています。
また、年金などを受給している世帯では、公的年金が総所得に占める割合が100%の世帯は41.7%であり、なにかしらの公的年金以外の所得を得ている事が分かります。
高齢者世帯では平均所得金額のうち稼働所得は26.1%、財産所得が4.6%となっており、「労働収入・年金収入・資産収入」の3つの所得が重要となってきていると考えられます。この資産収入の中には不動産投資なども含まれます。
将来のために個人でも資産の見直しを
先ほど述べたように年金財政は5年に一度、将来のバランスが取れているか検証されます。個人でも将来の生活がどうなるか、またご自身の資産内容などを預金・不動産・証券など含めて検証してみてはいかがでしょうか。
例えば不動産をお持ちの方で、古いワンルームマンションを数戸所有している場合において、古い物件を売却して新しい物件に買い替えるのも一つの投資戦略です。
つまり「優良資産への集約」を実践するという事です。
従来の利回りは確保できないかもしれませんが、長期的に見れば人生100年時代にふさわしいクオリティの高い資産に集約する事により資産寿命が長くなるメリットがあります。
築年数の経過した投資用マンションをお持ちの場合は、ご自分がリタイヤ後に築何年となるのか、また管理コストはどれ位かかるのか、耐震性能やセキュリティは現在の基準を満たしているかなどの検証も必要となります。
最新の設備仕様を持ったワンルームマンションも多く発売されており、こうした物件と競合する際には、古い物件は空室率が下がるために賃料も低くなる場合もあります。
また立地の面でも、駅から離れた物件をお持ちの方は、駅に近く生活利便性の高い物件に買い替える事により、将来的には空室率も下がり資産寿命の長い物件となります。
若い世代は「時間」を有利に活用。現金からの組み換えも
若い世代の方でもNISAやiDeCoなどの投資も浸透してきています。こうした資産運用の中に「不動産投資」を組み入れるのも将来のために有効な手段となります。
長期で不動産投資ローンを組めば毎月返済額も少なくなりますので、毎月わずかな出費で資産形成が可能となります。
また、現金や預金などの資産をお持ちの方は、不動産投資に切り替える事でインフレ対策にもなります。特に現在のように年に数%ずつ物価が上昇しているという事は、同じ割合で現金の価値が減少していく事になります。不動産は逆に物価の上昇と共に資産価値が上がる事が多く、また定期的な賃料収入が見込まれる事から安定した資産と言えます。
以上、今回のコラムでは国の5年に1回の年金の財政検証と同様に、個人においても皆様がお持ちの資産を一度5年に1回程度棚卸しをして、資産・負債を含めて資産管理チェックを行う事が大切であるという事をお伝えしたかった訳です。
年に1度健康診断をされるよう、数年に1度財産の「健康診断」をする事により、人生100年時代にふさわしい資産形成がより確実になっていくのではないかと考えます。