今後のマンション価格にも影響! どうなる建築費?【プロが教える不動産投資コラム】
近年では多くの分野で価格が上昇していますが、建築費も高くなりつつあり様々な所で影響が出てきています。こうした建築費の上昇がマンション価格やマンションの資産価値へ与える影響などについて述べてみたいと思います。
中野サンプラザの建替えが見直しに
JR中央・総武線「中野」駅前にある「中野サンプラザ」の建替えが見直しとなる事が既に報道されています。「中野サンプラザ」及び周辺を建て替えて高さ262メートルの超高層ビルなどからなる複合施設「NAKANOサンプラザシティ(仮称)」を建設する計画でした。
「中野サンプラザ」は筆者の事務所のすぐ近くに位置します。2023年7月に営業を停止しましたが、現在も建物自体はそのまま残っています。2024年10月には事業主である野村不動産から施工認可の取り消しがありましたが、その理由として「建設費の上昇」が挙げられています。
当初の事業費は2639億円を見込んでいましたが、工事費が900億円超の増額となる見込みから工事計画の取り下げとなりました。900億と言えば工事費が30%以上も増える事になります。建築費の上昇はこのような大規模なプロジェクト程その影響が大きくなっているようです。
筆者の事務所と近い事もあり中野サンプラザには多くの思い出があります。飲食・ボーリング・多くのコンサートなど筆者の大切な場所の一つでした。中野区では解体しないで使い続けた場合の収支も試算する方向である事も最近報道されており、今後の行方が気になる所です。
建築費上昇の要因「気候変動」
こうした建築費上昇の要因の一つとして、地球温暖化による世界的な気候変動が挙げられます。
今この原稿を執筆している2024年11月にはフィリピンに台風が4つも発生しています。テレビで見た映像では大変な暴風などで900万人が被災するなど大きな被害が出ているようです。日本でも9月には奄美大島で台風による大きな被害が出ています。
こうした気候変動は地球温暖化の影響とも言われています。日本でもこれまでと比べて線状降水帯と言われる大雨が降ったりと水害の被害も大きくなってきています。
以前関東でも内陸部のタワーマンションが浸水で電気設備が停止してしまったニュースもありました。こうした災害は公的なインフラもダメージを受けます。気候変動への備えは日本のみならず世界的にも急務となっており、世界規模の資材不足や人材不足となっています。
地球温暖化の対策として、今後途上国には1,000兆円が必要との報道もあります。温室効果ガス削減のための研究開発や新たな建築の仕組みの創出がますます大切な時代となってきます。
建設・物流業界の人手不足
人手不足は様々な業界で問題となっていますが、とりわけ建設業界には大きな影響を与えています。今年から建設業界にも残業の規制が開始される「2024年問題」が始まっています。
これは「物流の2024年問題」とも言われ、建設・物流業界などでの残業規制が猶予されていましたが、2024年からは上限規制が適用される問題です。
人手不足は建設工事の工期が延びる要因ともなり、工期が延びると建築費もそれだけ上昇します。東京を始め大都市などを中心として大規模な再開発も進行しています。
こうした再開発は全国で同時多発的に進められており、資材・人手不足の要因ともなっています。
こうした事から建設現場ではDXなどのテクノロジーも導入されていますが、人手不足の根本的な解決策とはならず、また政府による賃金上昇の推進も進んでおり、今後も人件費上昇が建築費全般に影響を与える可能性があります。
工期の延長から発生する問題は
日本ではインフレが加速しており建築材料の値上がりも続いています。通常建築費は当然ですが建築を始める前にその見積り金額を算出します。
しかし現在のように建築資材の値上がりが続いていると、実際に工事が始まり生コンなどの資材を出荷する時点になると見積り時よりも価格が上昇している場合が多くなってきています。特に工期の長い大規模物件ほど資材価格が変動する可能性があります。
こうした工期の延長による建築資材費の値上がりは、資材業者の負担となっている事も多く、今後は見直しも急務となってきています。
また首都圏の大規模物件の工期は10年で3割伸びたと言われており、工期延長により事業主の土地の税負担も含めて建築費全体のコストが増加してきます。
ワンルームマンションのように比較的小・中規模の場合でも、大型物件程ではありませんがこうした影響を受ける可能性もあります。
クオリティ・スペック(設備等)の上昇
電化製品や車の性能が年々上がっているように、マンションのクオリティも上がってきています。これも建築費上昇の要因の一つとなっています。
また先に挙げた地球温暖化にも関連していますが、2025年4月からは「省エネ基準適合義務化」が始まります。
来年の4月からマンションも含む全ての住宅に「省エネ基準」が適用される事になります。環境には優しいですが、当然の事ながら建築費は上昇となります。
こうした省エネマンションは従来のマンションよりも断熱などにより冷暖房効果も高まり暮らしやすい住まいとなります。差別化も図れますので、建築費がかかる分、資産価値は上昇すると考えられますので前向きの「コストアップ」と言えます
トランプ大統領就任が日本の建築費に与える影響とは?
米国では大統領選挙が2024年11月に実施され、トランプ氏が次期大統領に決定しました。トランプ氏の大統領就任は来年の1月20日からとなっています。
トランプ氏の就任で、米国ではインフレが加速する可能性があります。米国では高い物価上昇率が続き、金利引き上げなどの政策が取られていましたが、現在は物価上昇も落ちつき、金利の引き上げも見送られ、逆に利下げ傾向となっています。
トランプ氏は米国景気の刺激、国内産業保護のために関税の引き上げ、移民の規制などの政策を掲げています。
米国に輸入される関税を一律10%または20%、中国からの輸入品には60%の関税を課すと公約しています。これが実施されれば米国の物価は大きく上昇し、全世界にも大きな影響を与えると考えられます。
米国のインフレは世界に物価を引き上げる可能性もあり、その結果日本への輸入資材も価格が上昇します。
依然米国経済は好調ですが、インフレの先には消費低迷のシナリオもあり、一本調子のインフレは予想しづらいです。また為替もある程度円安ドル高の状況が続くと考えられ、日本への輸入資材価格も高止まりする可能性があると考えられます。
マンション価格と資産価値の関係は
今後も日本では官民あらゆる場面で多くの建築需要が見込まれています。直近もさる事ながら、すこし先の話ですが2050年には日本の民間インフラ投資は約240兆円と現在の4倍以上になるとの試算もあります。こうした建築需要に加え資材の値上がりや人材不足のため建築費は今後も上昇する可能性も高くなっています。
建築費の上昇から新築マンション価格は上昇傾向にあると言えます。東京都内のファミリーマンションは駅から5分以内ではここ10年で2倍になっているとの報道もあります。
但し投資用マンションはファミリーマンションとは異なり、賃料や利回りを基に価格が設定されているため、それほど大きな価格の上昇は一部の物件を除いて少ない状況です。
しかし今後は賃金の上昇や法人賃貸需要の増加等の影響で賃料が上がる可能性を秘めています。賃料が上がればマンションの資産価値も上がるという構図です。
もちろん現在流通している中古ワンルームマンションにおいても優良な物件は多々ありますが、現在建築費が上昇しているマンションはそれだけクオリティも高く、将来的にも安心な物件と言えます。