資産が増える期間を一瞬で計算できる5つの「法則」
資産運用でお金を増やすなら欠かせないのが「複利効果」を生かすことです。しかし、複利の計算は複雑で、なんとなくイメージしにくいのも事実。おおよその数でいいので、パッと計算できれば楽なのに…という方にぜひ知っていただきたいのが、複利効果を生かして資産が増える期間を一瞬で計算する「法則」です。今回は、そんな便利な法則を5つ、紹介します。
複利効果とは
利息の計算方法には、単利と複利の2種類があります。
単利は利息や運用益を元本に組み入れないで計算する方法です。単利の場合、利息は常に元本部分に対してのみつきます。それに対して複利は、利息や運用益を元本に組み入れて計算する方法です。複利の場合、元本に組み入れた利息や運用益に対しても利息や運用益がついていきます。
たとえば、年利1%の銀行預金に100万円を預けたとします。このときの元本+利息の合計額(税金は考慮しない)は
【単利】100万円→101万円→102万円→103万円…
→毎年1万円ずつ増加
【複利】100万円→101万円→102万100円→103万301円…
→毎年1万円+利息についた利息分が増加
となります。
預ける期間が長くなればなるほど、銀行のお金の総額は複利のほうがだんだん多くなっていくことがわかります。
もっとも、銀行の普通預金の金利は年0.001%(大手銀行、2023年7月時点)などと、極めて低い状態です。そこで、投資した場合も考えてみましょう。
単利と複利の商品にそれぞれ毎月3万円ずつ、30年間にわたって投資をし続けたとします。このとき、資産を年3%ずつ増やすことができたとすると、資産の総額は次のようになります。
毎月3万円ずつ30年間投資し、年利3%の場合
(株)Money&You作成
投資の元本は30年間の合計で1,080万円です。それに対して、単利の場合は1,567万円、さらに複利ならば1,753万円に資産が増やせている計算になります。
グラフからもわかるように、はじめは単利も複利もあまり差がないのですが、年数を追うごとに単利と複利の差が徐々についていきます。そして、30年が過ぎると複利の方が資産を190万円近く増やせていることがわかります。もちろん、単利であっても元本をただそのまま貯金しているよりはお金を増やせています。ちなみに、個人向け国債や個人向け社債は「単利」の商品です。利子を元本に組み込んでいくことはできません。
複利効果を活用したほうがいいのは明らかですね。
物理学者アインシュタインも「複利は人類最大の発明である」と語ったといわれています。複利の力を利用すれば、加速度的にお金を増やすことができるのです。
複利効果を簡易計算するための5つの「法則」
複利効果を生かすことでお金が大きく増やせるとはいうものの、お金がどのくらいのスピードで増えるのか、イメージが湧きにくいですよね。
なにせ、複利運用した場合の資産の増え方の計算式は「元本×{(1+年利)}運用期間の累乗」。これをパッと計算するのは大変です。
そこで利用していただきたいのが今回紹介する5つの法則です。これらの法則を利用して英さんすると、一括投資・積立投資をした場合にお金が1.5倍・2倍・3倍になるまでの年数が一瞬で計算できます。
72の法則【一括投資でお金が2倍になる年数】
もっともよく知られているのは、72の法則でしょう。72の法則は、一括投資した場合に、複利効果でお金が2倍になるまでの年数を計算できる法則です。
「72の法則」の公式
72÷金利(%)=一括投資でお金が2倍になる期間(年)
72の法則の公式はとても簡単。72を金利で割るだけです。たとえば、一度に投資した100万円が倍の200万円になるまでの期間は、金利の違いによって、次のように変わります。
・1%で運用した場合:72÷1=72 約72年
・2%で運用した場合:72÷2=36 約36年
・3%で運用した場合:72÷3=24 約24年
・4%で運用した場合:72÷4=18 約18年
・5%で運用した場合:72÷5=14.4 約14.4年
・6%で運用した場合:72÷6=12 約12年
・7%で運用した場合:72÷7=10.3 約10.3年
・8%で運用した場合:72÷8=9 約9年
72の法則の公式を変形すれば、「○年でお金を2倍にするのに必要な金利」もわかります。たとえば、一括投資した100万円を年で2倍の200万円にするには、72÷20年=3.6%で運用すればいいというわけです。
銀行の普通預金の金利は年0.001%とお話ししました。銀行の普通預金だけでお金を2倍にするには、72÷0.001=72,000ですから、7万2000年かかることがわかります。もし永遠に生きられるならば、その達成の瞬間が見られるかもしれませんが、もちろんそんなことはありえません。お金を増やしたいなら、銀行に預けるよりも投資した方がいい、ということがわかります。
126の法則【積立投資でお金が2倍になる年数】
72の法則はあくまで「一括投資」した場合の公式です。今はつみたてNISAやiDeCoといった税制優遇のある制度を利用して、積立投資をしている人も多いでしょう。そうやって堅実にお金を増やすために知りたいのは、積立投資をしたときにお金が2倍になるまでの期間でしょう。それがわかるのが126の法則と呼ばれるもの。慶應義塾大学理工学部の枇々木規雄(ひびき・のりお)教授が提案した法則です。
「126の法則」の公式
126÷金利(%)=積立投資でお金が2倍になる期間(年)
126の法則の公式の使い方は、72の法則と同じです。126を金利で割れば、積立投資でお金が2倍になる期間がわかります。
・1%で運用した場合:126÷1=126 約126年
・2%で運用した場合:126÷2=63 約63年
・3%で運用した場合:126÷3=42 約42年
・4%で運用した場合:126÷4=31.5 約31.5年
・5%で運用した場合:126÷5=25.2 約25.2年
・6%で運用した場合:126÷6=21 約21年
・7%で運用した場合:126÷7=18 約18年
・8%で運用した場合:126÷8=15.8 約15.8年
126の法則の計算結果をみると、積立投資をするならできれば年利3%以上は欲しいことがわかります。資産を2倍にしたいといっても、年利1%・2%で投資していたのでは、一生かけても達成できるかどうか(1%ではまず無理)となってしまいます。年利3%で、42年であればまだ現実的なラインでしょうか。
逆に年利7%・8%などと、高い運用利率が実現できれば、20年足らずで資産が倍になります。しかし、リスクとリターンは表裏一体です。高い運用利率を狙うと、その分値下がりのリスクを抱えることは覚えておきましょう。
76の法則・115の法則・190の法則
72の法則・126の法則がわかれば、他はその応用です。76の法則は、積立投資でお金が1.5倍になる年数を表します。
「76の法則」の公式
76÷金利(%)=積立投資でお金が1.5倍になる期間(年)
・1%で運用した場合:76÷1=76 約76年
・2%で運用した場合:76÷2=38 約38年
・3%で運用した場合:76÷3=25.3 約25.3年
・4%で運用した場合:76÷4=19.0 約19年
・5%で運用した場合:76÷5=15.2 約15.2年
・6%で運用した場合:76÷6=12.7 約12.7年
・7%で運用した場合:76÷7=10.9 約10.9年
・8%で運用した場合:76÷8=9.5 約9.5年
積立投資で資産を2倍にするには、年利3%でも42年必要でした。しかし、1.5倍であれば、年利3%の場合約25年。2倍の場合の約6割の期間で達成できます。積立投資のひとつの目標、通過点として押さえておくといいでしょう。
続けて115の法則。115の法則は、一括投資でお金が3倍になる年数を表します。
「115の法則」の公式
115÷金利(%)=一括投資でお金が3倍になる期間(年)
・1%で運用した場合:115÷1=115 約115年
・2%で運用した場合:115÷2=57.5 約57.5年
・3%で運用した場合:115÷3=38.3 約38.3年
・4%で運用した場合:115÷4=28.8 約28.8年
・5%で運用した場合:115÷5=23 約23年
・6%で運用した場合:115÷6=19.2 約19.2年
・7%で運用した場合:115÷7=16.4 約16.4年
・8%で運用した場合:115÷8=14.4 約14.4年
また、190の法則は、積立投資でお金が3倍になる年数を表します。
「190の法則」の公式
190÷金利(%)=積立投資でお金が3倍になる期間(年)
・1%で運用した場合:190÷1=190 約190年
・2%で運用した場合:190÷2=95 約95年
・3%で運用した場合:190÷3=63.3 約63.3年
・4%で運用した場合:190÷4=47.5 約47.5年
・5%で運用した場合:190÷5=38 約38年
・6%で運用した場合:190÷6=31.7 約31.7年
・7%で運用した場合:190÷7=27.1 約27.1年
・8%で運用した場合:190÷8=23.8 約23.8年
利息だけでなく「運用益」も複利効果になることを忘れないようにしよう
投資でお金が3倍に増えるころには、さすがに売りたくなってしまうかもしれません。なにせ、2倍になった時点で半分売れば、投資した金額を回収できます。残りの半分がその後値下がりしてしまう可能性はありますが、すでに投資金額は回収できているので、トータルでは利益が出せるというわけです。これももちろん、一つの考え方です。
しかし、評価益を含めた投資金額は多ければ多いほど、より複利効果を得やすくなります。2024年からはじまる新NISAでは、非課税保有期間が無期限になり、投資可能金額も増加します。30年かけて投資金額が生涯投資枠1800万円に達したとき、評価益を含む資産額が5000万円になったとします。売却をせず、投資を続ければ、「投資金額+評価益」の5000万円が次の運用益を生み出すことができます。
売却してももちろん良いですが、再投資できる金額は生涯投資枠1800万円まで。複利効果を活かすならば、途中で売却せずに続けた方が良いです。
ただ、途中で売却してはいけないということではありません。ライフイベントなどでお金が必要な場合は、気にせず売却してお金を使っていきましょう。
なお、ここまで複利を「味方」につけて、お金を増やす前提で5つの法則を紹介してきました。しかし、複利はお金を借りる場合にはマイナスの影響を及ぼします。
例えば年利10%で金融機関からお金を借りた場合、返済しなければいけない金額が2倍になるまでの期間は「72÷10=7.2年」とわかります。
もちろん、実際は毎月少しずつ返済するので、そのまま7.2年で倍になるわけではありません。しかし、複利は「敵」に回すと大変になるということも押さえておきましょう。
■まとめ
金融庁や金融機関のシミュレーションサイトなどでもこれらの計算はできます。しかし、暗算ですぐにお金が増えるまでの期間が知りたいときには、これらの法則が役立ちます。ぜひ利用してみてください。
頼藤太希(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計100万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。