新NISAで「貯蓄から投資」にシフトしている人はどのくらいいるのか
2024年は「新NISA元年」。投資で得られた値上がり益・配当金・分配金にかかる税金がゼロにできるNISAの制度が大きく改正されて、使い勝手がよくなりました。では、新NISAで実際に投資をスタートさせた人はどのくらいいるのでしょうか。また「貯蓄から投資」へ、お金はシフトしているのでしょうか。データをもとに解説します。
「貯蓄から投資」とはどういうこと?
「貯蓄から投資へ」というスローガンを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。その歴史は古く、2001年の小泉純一郎内閣(当時)にまでさかのぼります。当時、活気のなかった証券市場、さらには日本経済を立て直すには、個人の貯蓄を投資に回してもらうことが大切だと考えられたためです。「証券市場の構造改革」が必要として、個人投資家の証券市場への信頼度アップや、魅力ある投資信託作りなどが進められました。
2003年には株の売買益・配当金・株式投資信託から得られる利益にかかる税金を20%から10%にする軽減税率が導入されました。当初は5年間の予定だったこの軽減税率は延長が行われ、2013年まで続きました。
2014年、軽減税率が廃止される代わりにNISA(一般NISA)が登場。年間120万円まで(厳密には、2014年と2015年は年間100万円まで)の投資で得られた値上がり益・配当金・分配金にかかる税金がゼロになる制度でした。その後2016年にはジュニアNISA、2018年にはつみたてNISAが登場し、それぞれ年80万円・年40万円までの投資で得られた利益を非課税にすることができるようになりました。
つみたてNISAでは、金融庁の基準を満たす商品にのみ積立投資が可能。いずれも長期投資でお金が増やせることが見込める、保有中の手数料(信託報酬)の安い投資信託が揃っていました。この流れは新NISAの「つみたて投資枠」でも同じで、専門的な知識がなくても商品を選びやすくなっています。
さらに近年はネット環境やスマホの普及によって、投資しやすい環境が整ってきました。いつでもどこでも金融機関のウェブサイトやアプリなどを用いて情報を確認し、さっと売買することができるようになっています。売買時の手数料も安くなりましたし、新NISAならば無料という金融機関もあります。
このように、日本では投資しやすい環境が整ってきたのですが、残念ながらこれまでの20年以上にわたって、日本では「貯蓄から投資へ」が根付いてきませんでした。
<日米欧の家計の金融資産構成>
日本銀行「資金循環の日米欧比較」(2024年)より
グラフは2024年3月末時点の日本・米国・ユーロエリア(欧州)の家計に占める金融資産の割合です。日本の金融資産は50%以上が「現金・預金」。「株式等」「投資信託」「債務証券(債券)」といった金融商品は合計しても20%ほどとなっています。
これと正反対なのが米国で、金融商品の割合が60%近くある一方で、現金・預金はわずかに11.7%しかないのです。また、ユーロエリアは日本と米国の中間くらいの構成になっています。
日本人は昔から貯蓄好きで、これでもずいぶん金融商品への投資が進んだ印象があるほどです。しかし、かれこれ20年以上も「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げていたにもかかわらず、貯蓄から投資へのシフトはあまり進んでこなかった印象です。
「貯蓄から投資」にシフトしている?
では、新NISAが始まったことで、貯蓄から投資へのシフトは進んでいるのでしょうか。フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」の結果を元に、その様子を確認してみましょう。
<投資行動の変化(2023年と比較した場合の変化)>
フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」より
注目は「もともと投資をしていなかったが、投資を始めた」人の割合。同調査では正規雇用者と非正規雇用者で分けて集計をしていますが、正規雇用者で9%、非正規雇用者で7%の人が新たに投資を始めたと回答しています。これにより、投資をしている人の割合は全体の48%と、半数に迫る勢いです。
<投資を始めた人の理由>
フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」より
「もともと投資をしていなかったが、投資を始めた」人がなぜ投資を始めたかを聞いた質問では、実に63%の人が「新NISAが始まり、 投資に興味を持ったから」を選んでいます。2024年の新NISAスタートが投資を始めるひとつのきっかけとして役立っていることがわかります。
次いで「インフレが進み、預貯金だけでは資産が目減りしてしまうと思うから」(26%)、「投資に関して知識・情報が増えたから」(24%)、「世の中が投資をする雰囲気になってきたから/友人・知人が始めたから」(19%)となっています。
日本にもかつて、銀行にお金を預けるだけで年5%などと、高い金利がもらえた時代がありました。しかし、そんな時代ははるか昔に終わり、2024年時点では年0.1%などと低水準になっています。これではお金はなかなか増えないどころか、インフレ(物価が上昇し、お金の価値が下がること)が進めば、お金の価値は目減りしてしまいます。それを防ぐには、物価上昇よりもお金を増やすことが必要。投資ならば、物価上昇のスピードよりも早くお金が増やせるかもしれません。
<新NISAに投資するお金の財源は?>
フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」より
新NISAに投資するお金がどんなお金かを、男女別・年収別・年代別・雇用別にまとめたものです。新NISAで投資するお金でもっとも多いのは「給与、ボーナスなどこれから稼ぐお金」です。給与やボーナスなどの一部分を投資に回して増やすというのは、イメージしやすいですね。
注目したいのが次点の「預貯金口座で貯蓄しているお金」です。すでに預貯金で保有しているお金を投資に回すのですから、このお金こそ「貯蓄から投資へ」を表すお金だといえます。男女差や雇用の差はあまりありませんが、年収が高い人ほど、また年代が上がるほど、預貯金から投資にお金を回そうと考える人が多いことがわかります。年収が多ければその分貯蓄を投資に回しやすいですし、年代が上がるほど収入や資産も多いでしょう。その意味では当然ともいえるかもしれませんが、「貯蓄から投資へ」が着実に進んでいる証拠ともいえます。
<新NISAに投資するお金の財源は?(金融資産残高別)>
フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」より
新NISAに投資するお金がどんなお金かを金融資産残高別に並べたグラフでも、金融資産が多くなるにつれ、預貯金から投資にシフトする人の割合が増えていることがわかります。これまで長らく預貯金で寝かせておいたお金を新NISAへの投資に活用する…という様子がわかります。
このように、新NISAをきっかけに貯蓄から投資にシフトしている人は相応にいると考えられます。先に紹介した「資金循環の日米欧比較」は毎年8月末に発表されているので、「貯蓄から投資へ」がどの程度進んでいるのかは現時点ではわかりませんが、次回発表では預貯金の割合が50%を割っているかもしれません。
投資していない人の理由は?
投資をしている人が増えているとはいえ、実際に投資をしている人は約半数でした。では、投資をしていない人はなぜ投資をしていないのでしょうか。
<投資をしていない人の理由>
フィデリティ投信「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート2024年」より
投資をしていない人の理由を、男女別・年収別・年代別にまとめたものです。もっとも目立つのは「資金が減るのが嫌だから」。全体的に多いですが、特に高齢層に目立ちます。確かに、投資には元本保証がありません。場合によっては、お金を減らしてしまうことも考えられます。ただ、上でも紹介したとおり、お金をそのまま預貯金などの形で持っていても、物価上昇によってお金の価値は目減りしてしまう時代です。お金の価値を守りたいのであれば、投資はもはや欠かせないものになっています。投資の王道は「長期・積立・分散」。コツコツと続けることでリスクを抑え、堅実に増やす期待ができます。
「何をすればよいのか分からないから」「色々勉強しなければならないから」も割と多いですね。特に女性に目立ちます。確かに、専門的に取り組むのであれば奥の深い世界です。しかし、新NISAのつみたて投資枠を使って、コツコツと投資信託に投資することであれば、それほどたくさんのことを勉強する必要はありません。しかも、一度積立投資の設定をすれば、あとは自動で投資が進みますので、手間もかかりません。
「投資するだけのまとまった資金が無いから」は年収が比較的少ない層に加え、意外にも資産の多そうな高齢層で多く見られる回答です。生活に困るほどお金がないのは問題ですが、今や投資信託は100円から、株も銘柄によりますが1株単位ならば数百円から数千円で購入できます。何十万円も用意するのは大変ですが、数百円、数千円ならば毎月の家計からお金を出すことができるのではないでしょうか。
新NISAのスタートを機に、「貯蓄から投資」にお金がシフトしつつあることを紹介しました。新NISAは生涯にわたって利用できるお得な投資の制度です。長く活用してお金を増やしていくためにも、早いうちからコツコツと取り組むことをおすすめします。
高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計170万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。