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年金いくらになる?最新の「モデルケース別」試算はどうなっているのか

老後の年金がいくらもらえるのか、将来の給付水準がどのくらいなのかが気になっている方は多いでしょう。そんななか、厚生労働省は家族形態やライフスタイルの変化を踏まえた年金額のモデルケースを公表しました。今回はそのモデルケースで年金額がどのように試算されているのかをご紹介します。また、経済成長と年金額の関係についても、一緒に確認していきましょう。

長年使われている「モデル年金」とはそもそもなに?

日本の公的年金には、国民年金と厚生年金の2種類があります。国民年金は、20歳から60歳までのすべての人が加入する年金です。それに対して厚生年金は、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する年金です。

国民年金は、20歳から60歳までの40年(480月)にわたって所定の保険料を納めれば、誰でも満額もらうことができます。一方、厚生年金は、基本的に給与が多いほど、また厚生年金に加入している期間が長いほど、もらえる金額が増えます。なお、老後(原則65歳以降)に国民年金からもらえる年金を老齢基礎年金、厚生年金からもらえる年金を老齢厚生年金といいます。

厚生労働省は、毎年1月に翌年度の標準的な年金額を公表しています。

<標準的な年金額>

厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」より

2024年度(令和6年度)の国民年金の満額は2023年度(令和5年)から月額で1,750円増え、6万8000円になっています。これはまだわかりやすいですね。

一方、厚生年金には「満額」はありません。表には「平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻の世帯が受け取る国民年金と厚生年金の合計」が記載されています。つまり「夫の国民年金+妻の国民年金+夫の厚生年金」の金額です。この金額を「モデル年金」といいます。2023年度から2024年度にかけて、モデル年金は22万4482円から23万483円(6万8000円+6万8000円+9万4483円)と、6,001円増加していることがわかります。

モデル年金は、さかのぼること約40年、1985年(昭和60年)から算出され、年金の給付水準を図る指標として使われています。

ただ「男は仕事、女は家庭」が一般的だった昔と違い、今は共働き世帯のほうが多い時代。多様なライフスタイルのある今、専業主婦が前提のモデル年金は時代にそぐわないのではないかという声もあります。

そこで、厚生労働省は2024年11月に、若い世代が将来もらえる年金額をイメージしやすくするために、家族形態やライフスタイルの変化を踏まえた年金額のモデルケースを公表しました。

厚生労働省の5つの年金「モデルケース」で年金額はいくら?

厚生労働省のモデルケースは全部で5つあります。それぞれの年金額は、次のようになっています。

<一人あたりの老齢年金額>

厚生労働省「多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方について」より(株)Money&You作成

モデルケースでは、それぞれの年金の種類ごとに収入はいくらだったかを仮定して、老齢厚生年金と老齢基礎年金の金額を算出しています。以下、簡単に紹介します。

①会社員男性…17万223円

「厚生年金期間中心」とあるので、①は会社員・公務員の男性を想定したものです。会社員の場合、老後の年金は老齢厚生年金だけでなく老齢基礎年金ももらえます。

この男性は約40年間会社勤めをして、収入(賞与含む月額換算。以下同じ)が50.9万円となっています。この場合、年金額の試算結果は17万223円となります。

②自営業男性…6万1188円

「1号期間中心」は、自営業やフリーランスなどの方が該当します。自営業の場合は厚生年金に加入しないので、老後の年金は原則として老齢基礎年金のみとなります。

試算では、7年半ほど会社勤めをしたあとに自営業となり、36.4万円の収入があったと想定。この場合、年金額の試算結果は6万1188円となります。

③会社員女性…12万9654円

会社員の女性も、男性と同様老後に老齢厚生年金と老齢基礎年金がもらえます。出産などで仕事を休む(一時的に退職する)ケースを想定してか、会社勤めは約33年、収入は35.6万円と設定されています。この場合、年金額は12万9654円となっています。基礎年金の加算がもらえるケースもあり、男性より老齢基礎年金が多くなっています。

④自営業女性…5万9509円

自営業の女性も老後の年金は老齢基礎年金のみ。試算では、6年ほど会社勤めをしたあとに自営業となり、25.1万円の収入があったと想定。年金額は5万9509円です。

⑤専業主婦…7万5379円

「3号期間中心」とは、配偶者などに扶養されていることをいいます。ここでは、女性のケースが記載されています。この場合、夫の扶養に入ることで社会保険料を支払う必要がなくなりますが、老齢基礎年金はもらえます。ここでは、6年半ほど会社勤めをし、結婚後に退職、収入は26.3万円あったと想定。その後は専業主婦になった場合が試算されています。年金額は7万5379円です。

また、世帯の年金額はこれらの組み合わせになります。たとえば、

・共働き世帯:①+③=29万9877円

・片働き世帯:①+⑤=24万5602円

・自営業の夫婦:②+④=12万697円

などという具合です。

いずれもあくまでモデルケースでの試算ですので、国民年金・厚生年金の加入期間や厚生年金加入期間の給与などによって、実際の金額は変わります。とはいえ、最初に紹介した「モデル年金」よりも個人の年金額、夫婦の年金額がイメージしやすいのではないでしょうか。

経済成長の有無でも結果が変わる

モデルケースの年金額は上のとおりなのですが、この金額が将来ももらえるかはわからないのが現実。というのも、将来もらえる年金額は今後の経済成長の有無でも変わってくるからです。

厚生労働省の資料にはもうひとつ、2024年に65歳を迎える人の年金額と、2024年に30歳となり2059年に65歳を迎える予定の人の平均年金月額の比較が掲載されています。

仮に、今後の経済成長が、

・プラス1.1%の「成長型経済移行・継続ケース」

・マイナス0.1%の「過去30年投影ケース」

だった場合、2059年に65歳を迎える予定の人の年金額は次の表のように変わると試算されています。

<平均年金月額はどう変わる?(女性)>

厚生労働省「多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方について」より(株)Money&You作成

「会社員・自営業・専業主婦」は、上で紹介した「厚生年金期間中心・1号期間中心・3号期間中心」の人(厳密には、各年金制度への加入期間が20年以上の人)を表します。「中間」は、これらの年金加入期間がすべて20年未満の人です。

女性は今後、会社員・公務員として働く人が増え、自営業や専業主婦が減ると見られています。会社員・公務員だと、厚生年金に加入しますので、もらえる年金額が増えます。

今後経済成長が進む「成長型経済移行・継続ケース」ならば、2024年に65歳の人よりも3万円〜5万円も毎月の年金額が多くなります。しかし、これまでと同様の経済成長となる「過去30年投影ケース」だと、2024年に65歳を迎える人よりも年金額が減ってしまう計算になっています。

<平均年金月額はどう変わる?(男性)>

厚生労働省資料より(株)Money&You作成

男性はすでに約8割が厚生年金に加入していますが、それでも今後、若い人ほど厚生年金に加入する人が増加する見通しです。しかし男性も「成長型経済移行・継続ケース」ならば年金額がこれまでよりもおよそ2万円〜6万円増えますが、「過去30年投影ケース」だと、2024年に65歳を迎える人よりも年金額が減ってしまいます(自営業のみ、試算上は増加していますが、それもわずか2000円です)。

このように見ると、今後経済成長できるかが年金額の大きな鍵になることがわかります。

ただ、「成長型経済移行・継続ケース」を実現できればいいのですが、そう簡単ではありません。

2024年に行われた年金の健康診断「財政検証」では、「成長型経済移行・継続ケース」の実質賃金上昇率(物価上昇を踏まえた賃金の上昇率)を1.5%と見込んでいます。しかし、実際には2024年5月まで26か月でマイナスが続きました。その後は賞与や最低賃金の引き上げによってプラスになった月もありましたが、1.5%の上昇はできていないのが現状です。

また、将来の経済を担う子どもの数も減り続けています。2020年に1.33だった合計特殊出生率(女性が産む子どもの数を示す指標)は、2070年には1.36(中位推計)と見通していますが、2023年には1.20と落ち込んでいます。さらに2024年に生まれる子どもの人数は初めて70万人を割り込むと見られています。人口が減れば、経済も縮小してしまいます。

万が一「成長型経済移行・継続ケース」どころか「過去30年投影ケース」もおぼつかないとなれば、年金額はこれ以上に減ってしまう可能性もあるでしょう。

今から年金を増やす対策を!

今後の年金の給付水準も気になりますが、だからといって慌てるのは禁物。自分の年金額を知って、今から年金を増やす対策練り、実践することが大切です。

自分の年金額は「ねんきん定期便」で確認しましょう。ねんきん定期便は、国民年金や厚生年金に加入している人に、日本年金機構から年に1回、誕生月に届く書類です。大まかにいうと、これまでの保険料の納付の実績や、将来受け取れる年金の金額が記載されています。特に、50歳以降のねんきん定期便には、60歳まで加入した場合の年金額の目安が書かれています。これを見ておけば、だいたい自分の年金額がどのくらいになるかがわかるでしょう。

また、自分でできる「年金を増やす対策」には、次のような方法があります。

・年金を繰り下げ受給する

・60歳以降も厚生年金に加入して働く

・国民年金に任意加入する

・付加年金に加入する

・国民年金基金に加入する

・iDeCoを利用する

・新NISAを利用する

詳しくは以前の記事で紹介していますので、合わせてご覧ください。

年金額のモデルケースと経済成長による年金額の変化を紹介してきました。何かと不安が尽きない老後資金ですが、ただ不安に思っているだけでは解決しません。自分でできる対策をひとつでも講じて、なるべく多くもらえるようにしておくことをおすすめします。

高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー

一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計170万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

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