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トランプ関税で株大暴落… 何が起きた? やってはいけないことは

米トランプ大統領の政策・言動・行動は予測がつかないことから、しばしば「トランプリスク」などと呼ばれます。その名のとおり、米トランプ大統領の2期目がスタートした2025年1月以降、市場はトランプリスクに翻弄されています。特に、2025年4月に発表されたトランプ関税は、株価の大暴落を招きました。

今回は、トランプ関税を中心とした米トランプ大統領の動向を紹介します。また、トランプ関税の発表による株価の暴落の様子を確認したうえで、株価暴落時にやってはいけないこと・やるべきことを考えてみましょう。

■トランプ関税、何が起きている?

米トランプ大統領のスローガンといえば「Make America great again」(アメリカを再び偉大に)。その名のとおり、2025年1月20日にトランプ氏が大統領に就任すると、バイデン前政権の政策を一気に転換させ、「米国第一主義」を打ち出しました。

就任初日から「パリ協定からの離脱」「WHO(世界保健機関)からの脱退」「メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更」などさまざまな大統領令に署名したというニュースは、驚きをもって報じられました。

トランプ大統領は自らを「タリフマン」(関税男)と自称しています。米国の輸入品に関税をかけることで、自国の産業が保護できて、自国の製品が売れて、米国企業が強くなり、「Make America great again」が実現できるとトランプ大統領は考えているようです。

その考えどおり、トランプ大統領は2月には中国に10%、3月にはカナダとメキシコに25%、中国に追加で10%の関税を課すと発表しました。「史上最悪の麻薬」と呼ばれるフェンタニルの米国流入問題や、米国への不法移民問題などが関税引き上げの理由とされています。

さらに、鉄鋼やアルミニウムにも全世界規模で25%の関税をかけることも発表しました。こちらは米国の鉄鋼産業やアルミニウム産業を保護するのが目的です。

そして4月2日、米トランプ大統領は世界の貿易相手国に対して関税を導入すると発表しました。第1弾として、すべての輸入品に一律で10%の関税(ベースライン関税)を課し、第2弾では米国との貿易赤字額が大きい国や地域に対して関税率を上乗せする「相互関税」を導入するという内容でした。相互関税の税率は国や地域により異なり、EU(欧州連合)は20%、日本は24%、中国は先の20%に加えて34%。特に高い国々は東南アジアに多く、スリランカ44%、ベトナム46%、カンボジア49%などとなっていました。後述しますが、これを受けて株価は大きく下落しました。

ベースライン関税は発動されたものの、4月9日から発動する予定だった相互関税は9日になって90日間の発動停止が発表されました。金融市場の動向を抑えるための措置だと見られます。これを受けて、株価はじわじわと戻す展開になりました。

米国の関税導入に対して報復関税を導入することを発表した中国との間では、「報復」によって米国が中国に145%、中国が米国に125%もの高い関税を課すことになっていました。これではとても貿易は成り立たないでしょうが、関税の税率はそれほどまで高まっている状態です。しかし5月12日になって、米中双方が115%の相互関税を90日間にわたって引き下げることに合意したと発表されました。

トランプ関税は一部を除いてひとまず発動が見送られた形です。90日間の停止期間中に米国と各国間で関税に関する協議が行われています。日本も特に自動車に関税がかけられてしまうと影響が大きいので、関税を引き下げる交渉を行なっていますが、難航している模様です。

本稿執筆時点(2025年5月18日)では、まだその協議の最終的な結果はわかりませんが、実質的に関税が少ない(課されない)となれば株価の上昇要因、関税が多い(たくさん課される)となれば株価の下落要因になると考えられます。

■関税発表で株価はどう動いたのか

ここまでの流れを踏まえて、実際に株価がどのように動いたのか、S&P500と日経平均株価で確認してみましょう。

<2025年のS&500の値動き(2025年1月〜5月16日)>

(株)Money&You作成

S&P500はトランプ大統領就任後しばらく、堅調な値動きを見せていました。しかし、2月の関税の発表以降は米中貿易摩擦をはじめとする景気減速が懸念されて、やや値下がりしています。そして4月2日の相互関税の導入発表で大きく下げる展開になりました。S&P500は3月28日の 終値5580ポイントから4月8日の終値4982ポイントまで、10日間ほどで598ドル・10.7%も下落しています。

しかし、4月9日の相互関税の90日停止で値を戻しはじめ、5月12日の米中相互関税の懸念が落ち着いてからは4月2日の暴落前の水準を回復。5月16日時点では5958ポイントとなっています。

<2025年の日経平均株価の値動き(2025年1月〜5月16日)>

(株)Money&You作成

日経平均株価もS&P500と同様の値動きをしていることがわかります。ただ米国よりもトランプ関税によるショックは大きく、3月28日の終値3万7120円から4月7日 終値3万1137円までの10日間で5983円・16.1%の下落となっています。

相互関税は結局のところいったん停止されたとはいえ、10%のベースとなる関税は引き続きかかりますし、基幹産業である自動車をはじめ、多くの貿易をしている米国との間で関税がかかるとなれば、景気に水を差すのは当然です。

米中の追加関税の引き下げ後、株価は回復にむかってはいますが、5月16日終値で3万7753円と、暴落前の水準より多少高い程度となっています。

■暴落でやってはいけないこと

「トランプショック」に限らず、市場はときに暴落します。暴落が起こり、資産がマイナスになっているのを見ると、このままでいいのか不安になってしまうかもしれません。しかし、だからといって次のような行動は絶対にやってはいけません。

●慌てて資産を売却する

暴落があったときにもっともやってはいけないことは、「慌てて売却する」ことです。なぜなら、暴落に慌てて売却してしまうと、その時点で利益(または損失)が確定し、その後の資産回復・上昇の恩恵を一切受けられなくなるからです。

実際、4月2日の時点で売却してしまっていたら、大きく損してしまったことでしょう。売らずにしばらく様子を見ていれば、1か月ほどで元の水準に戻っていたはずです。もちろん、必ず元の水準に戻る保証はできません。しかし、過去を振り返っても下がり続けた相場はありません。

過去の大暴落と言われた事象を見ても、数か月から数年で元の水準に戻っています。

<暴落から回復するまでの期間の目安(S&P500)>

(株)Money&You作成

リーマンショックでさえも5年で回復していますし、近年のコロナショックなら半年、ウクライナショックなら2年で回復しています。これを知っておけば、暴落があっても回復を待ちやすいでしょう。いずれ元の水準に戻り、値上がりしていくと考えられます。

●積立投資をやめる

市場が将来的に値上がりする可能性が高いならば、積立投資もやめないほうがいいでしょう。

本来「絶対に値上がりする」のであれば、早いタイミングで一括投資した方が利益も大きくなりますし、合理的です。しかし、相場に絶対はありませんし、短期的には今回のような暴落も起こりえます。一括投資してすぐに今回のトランプショックのような暴落が万が一起きたら、市場の回復をただ待つことしかできません。これは精神的な負担も大きいでしょう。

積立投資をしていれば、精神的な負担を和らげることができます。積立投資をすると、「ドルコスト平均法」の効果を味方につけることができるからです。

ドルコスト平均法とは、定期的に定額購入する方法です。金融商品の価格は長期的に右肩上がりでも、短期的には上下に変動しながら推移します。よって、金融商品の価格が安いときにはたくさん購入し、価格が高いときには少しだけ購入することになります。これにより、自然と平均購入単価が下がり、価格が上昇したときに利益を得やすくできます。つまり、今回の暴落でさえも、積立投資ならば「チャンス」に変えることができるのです。

積立投資ならば、今が安い・高いといった感情に左右されず淡々と資産形成できます。これが資産を増やす秘訣なのですから、暴落があっても積立投資をやめないようにしましょう。

●積立金額を減らす

すでに積立投資をしているという方も多いでしょう。でも「暴落で怖かったから」といって積立金額を減らすのもおすすめしません。ドルコスト平均法は、定期的に「定額」購入するからこそ、金融商品の価格が安いときにたくさん購入でき、平均購入単価を下げることができるのです。暴落によってせっかく安く買えるのに、積立金額を減らしてしまえば、平均購入単価が下げられなくなってしまいます。

もちろん、何らかの事情で家計が苦しくなって、積立金額を減らさざるを得ないという場合もあるでしょう。そうしたときには、積立金額を減らすのもやむを得ません。しかし、「市場の暴落の影響で家計が苦しくなった」という人は、まずいないのではないでしょうか。暴落があったからといって、積立金額を減らさないようにしましょう。

「トランプリスク」は不確実性が高く、何が起こるかわからないところがあります。今回紹介した関税の問題の他にも、米国はロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナの問題、さらにはグリーンランドやパナマの領有といった国際政治・地政学的な問題も抱えており、それらが市場に影響を及ぼすこともあると考えられます。

しかし、市場がどうなろうと、資産形成の鉄則は長期・積立・分散投資。たとえ暴落があったとしても、淡々と投資を続けていくことが何よりも大切です。

今後もたびたび暴落があることは間違いありません。そして、いつ暴落があるかは誰にもわかりません。そういうと、やっぱり「暴落は怖い」と思われるかもしれません。しかし、対処法を知っていれば、恐れることはありません。いつか来る大暴落に備えて、対処法を押さえておきましょう。

頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)

X(旧Twitter)→ @yorifujitaiki

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