観光とホテル稼働率と不動産投資【プロが教える不動産投資コラム】
2022年も10月になると肌寒い日が続き秋の気配を感じます。秋は旅行のシーズンとしても知られますが、観光やホテル業界などが地価に与える影響も大きいものがあります。
筆者も最近久々に屋根のないはとバスに乗って都内を観光しましたが、改めて様々な発見もありました。旅行をする方が増えてホテル需要が多くなれば当然地価にも影響があります。特に高級ホテルは都心の一等地に建設される事も多く、オフィスや商業施設の土地需要と競業する事になります。また周辺のブランド力を押し上げる効果もあり、周辺の商業施設の売り上げや周辺の就業人口が増加するなどの効果も期待されます。
今回のコラムではこうした都心の高級ホテル動向と今後の観光動向と不動産投資について検証してみたいと思います。
ホテル稼働率と地価の関係は
コロナ以前は宿泊者の増加は地価に大きな影響を与えてきました。インバウンドが大きく増加した2019年頃にかけて、宿泊者が増加しホテルの需要が大幅に増加し、新規にホテルを建設するための土地需要が増加して地価が大きく上昇しました。
都心型ホテルは交通利便性の高い都心の一等地に建設される事が多く、商業施設やオフィスビルなどと競業しますので地価の上昇も拍車がかかります。
大阪が地価上昇率が1位となった時はインバウンドの数も多く、例えば2017年の公示地価では大阪府の商業地地価上昇率が全国トップとなり、地点別でも1~5位までを大阪が占めました。「道頓堀1丁目」の調査地点では地価上昇率がなんと41.3%と大きく上昇しました。
この時の客室稼働率は80%以上と高い水準にあり、大阪府の客室稼働率は2014年頃から80%を超える状態が続きホテル需要が非常に高まっていました。
また東京「浅草」は世界的な観光地としても知られており、2019年には東京圏の商業地の上昇率ランキングの1~3位を占め、浅草一丁目の地点では地価上昇率34.7%と大きく上昇しました。
インバウンドの増加などによる過去に大きく地価が上昇した例:大阪
地点 | 用途 | 上昇率 | |
---|---|---|---|
2017年公示地価 | 大阪市中央区道頓堀1-6-10 | 商業地 | 41.3% |
2017年公示地価 | 大阪市中央区宗右衛門町7-2 | 商業地 | 35.1% |
2017年公示地価 | 大阪市北区小松原町4-5 | 商業地 | 34.8% |
2017年公示地価 | 大阪市中央区心斎橋筋2丁目39番1 | 商業地 | 33.0% |
2017年公示地価 | 大阪市北区茶屋町12-6 | 商業地 | 30.6% |
客室稼働率の推移
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
大阪府 | 81.0% | 84.8% | 83.3% | 82.4% | 79.6% | 79.0% | 27.8% | 26.7% |
インバウンドの増加などによる過去に大きく地価が上昇した例:浅草
地点 | 用途 | 変動率 | |
---|---|---|---|
2019年公示地価 | 浅草1-1-2(弘隆ビル) | 商業地 | 34.7% |
2019年公示地価 | 浅草2-34-11(二天門浅草ビル) | 商業地 | 24.9% |
2019年公示地価 | 西浅草2-13-10(蔵田フラッツ西浅) | 商業地 | 24.8% |
ホテルの稼働率は上昇傾向に
新型コロナで縮小していたホテル稼働率が上昇傾向にあります。観光庁の発表した「宿泊旅行統計調査」によると、2022年8月の宿泊施設の稼働率は全国で50.1%となり、また宿泊者数は4,672万人泊で前年同月比49.3%の増加です。コロナ発生前の2019年の8月と比較しても26.1%の減少となっています。
外国人の訪日は新型コロナによってその数が制限されていますが、国内では緊急事態宣言など行動の制限もなく宿泊数が増加しています。2022年7月には前年同月比31.9%の増加でしたが、8月はさらに増加しています。
宿泊者数動向
2022年8月 延べ宿泊者数 | 2021年8月比 | 2019年8月比 | |
---|---|---|---|
全体 | 4,672万人泊 | +49.3% | ▲26.1% |
日本人 | 4,595万人泊 | +49.8% | ▲14.5% |
外国人 | 77万人泊 | +25.2% | ▲91.9% |
2022年7月 延べ宿泊者数 | 2021年7月比 | 2019年7月比 | |
---|---|---|---|
全体 | 3,982万人泊 | +31.9% | ▲23.1% |
日本人 | 3,913万人泊 | +33.0% | ▲4.5% |
外国人 | 70万人泊 | +11.3% | ▲93.6% |
客室稼働率の推移
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
---|---|---|---|---|---|
全国 | 60.5% | 61.2% | 62.7% | 34.3% | 34.3% |
東京都 | 80.0% | 80.0% | 79.5% | 33.6% | 36.0% |
国内の宿泊はビジネスを中心に回復基調に
2022年の7月の日本人宿泊者数はコロナ発生前の2019年7月と比較してもわずか4.5%減とその影響は少なくなってきています。
2022年8月の客室稼働率は50.1%でした。コロナ発生前の2019年8月は69.4%とまだまだ開きがありますが、これは外国人訪日客の減少が影響していると言えます。
また外国人宿泊者数は2019年と比べて10分の1以下となっています。こうしたインバウンドが回復すれば、観光業を始め都心分の地価や不動産業界も新型コロナ発生前の水準に回復する可能性があります。
客室タイプ別に稼働率を見るとビジネスホテルが最も高く58.0%、次にリゾートホテルが54.9%となっています。2021年平均ではビジネスホテルは44.3と前年の42.8%から上昇しておいり、ビジネスシーンからの宿泊が最も回復している事が分かります。都心型のシティホテルなども回2021年平均の33.6%から今年8月は48.8%と回復してきている事が分かります。
2020年から2021年にかけてはテレワークも浸透し、出張なども少なかった影響でビジネスホテルの稼働率も低かった訳ですが、2022年には回復してきている事が分かります。都心周辺の駅前などにもビジネスホテル需要が増えればワンルームマンション用地とも競合し、地価・マンション価格などが上昇する要因ともなります。
客室タイプ別稼働率(6区分)2022年8月・全国
合計 | 旅館 | リゾート ホテル | ビジネス ホテル | シティ ホテル | 簡易宿所 | 会社・団体の 宿泊所 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
稼働率 | 50.1% | 40.6% | 54.9% | 58.0% | 49.8% | 27.7% | 26.1% |
客室タイプ別稼働率(6区分)の推移・全国
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
---|---|---|---|---|---|
計 | 60.5% | 61.2% | 62.7% | 34.3% | 34.3% |
旅館 | 37.5% | 38.8% | 39.6% | 25.0% | 22.8% |
リゾートホテル | 57.5% | 58.3% | 58.5% | 30.0% | 27.3% |
ビジネスホテル | 75.3% | 75.5% | 75.8% | 42.8% | 44.3% |
シティホテル | 79.5% | 80.2% | 79.5% | 34.1% | 33.6% |
簡易宿所 | 28.0% | 30.2% | 33.4% | 15.5% | 16.6% |
会社・団体の宿泊所 | 29.4% | 28.3% | 28.8% | 18.6% | 12.7% |
- リゾートホテル…ホテルのうち行楽地や保養地に建てられた、主に観光客を対象とするもの
- ビジネスホテル…ホテルのうち主に出張ビジネスマンを対象とするもの
- シティホテル…ホテルのうちリゾートホテル、ビジネスホテル以外の都市部に立地するもの
2022年の全国旅行支援、インバウンド緩和も
2022年10月11日から全国旅行支援が開始されます(東京都内の適用は10月20日から)。これまで「県民割」が実施されてきましたが、今後は「旅行支援」として旅行代金が40%割引になったり、飲食店などで利用できるクーポンが付くなどのキャンペーンも始まり、2022年中は実施される見込みです。
またインバウンドに関しては、同じく10月11日から1日当たりの入国者数の上限撤廃と個人旅行の解禁、ビザなし渡航の解禁などが実施されます。円安の状況もあり海外からの訪日客は今後増加すると予想されます。
今後は国内のみならず海外からの旅行者も増加すると期待されます。岸田総理は今後インバウンドの経済効果を「年間5兆円」を目指すと表明しています。
羽田空港の国際便なども増発される見込みで、利用者の低迷で開業の遅れていた羽田空港の「羽田エアポートガーデン」が2023年1月に開業の予定が発表されました。
今後の動向は
東京五輪終了後も東京の都心部などでは多くのホテルが開業しています。また都心の再開発計画には高級ホテルの入居が含まれているプロジェクトも多く、今後も開業が予定されています。東京駅前の「東京ミッドタウン八重洲」には日本初の「ブルガリホテル東京」が2023年に開業の予定です。東京都港区の「虎ノ門・麻布プロジェクト」では2023年に外資系ホテル「アマン」系のホテルが開業を予定し、「銀座」や「渋谷」駅周辺でもホテルの開業が予定されています。
観光客やビジネス客などの移動・宿泊が増えればホテルや商業施設、運輸業界なども活性化します。総務省の発表した8月の消費者物価では旅行などの支出が伸びています。コロナが収束に向かえば、円安の影響もありインバウンドはコロナ発生前を上回る可能性もあります。
筆者は先日講演で名古屋に行きましたが、「バンテリンドームナゴヤ」ではジャニーズ系のコンサートが開催され、近くのホテルは超満員で価格も高かった気がします。外出制限もなく大規模イベントなども盛んになってきているようです。
このように観光業などの回復が本格化すれば経済効果も大きく地価や就業人口なども拡大すると期待されます。また住宅需要の増加にも寄与する可能性もありますので、今後不動産投資へも良い影響をもたらすと考えられます。