マイナス金利解除でどう変わる不動産投資?【プロが教える不動産投資コラム】
日銀がマイナス金利の解除を決定した事が連日大きく報道されています。マイナス金利の意義や解除に至った要件、また今後の経済や不動産市場に与える影響について検証してみたいと思います。
マイナス金利が解除
日銀の植田総裁は2024年3月の金融政策決定会合において、マイナス金利の解除を決定しました。長期に渡った「大規模金融緩和」政策の転換となる出来事です。金融正常化に向けて第一歩を踏み出したと言えます。
欧米の主要国ではインフレによる金利上昇が続いていますが、日本でも17年ぶりの金利上昇となり、ついにマイナス金利の終了となりました。「金融政策の大きな転換点」とされています。2013年から始まったアベノミクスの中心とも言える「異次元の金融政策」もついに転換を迎えたとも言えるのではないでしょうか。
今回解除となったマイナス金利とは
では、マイナス金利とは何でしょうか。これは2016年に銀行が日銀に預ける当座預金の利子がマイナス0.1%とされ「マイナス金利」となった事です。
銀行などが日銀にお金を預けると、利息がつくのではなく逆に利息を取られてしまうので、銀行は資金を日銀に預けないで企業や個人などの融資に回すようにして、景気の活性化を狙った政策です。また短期金利水準の誘導目標ともなります。
今後はこの金利を0%から0.1%程度に調整する、いわゆる「ゼロ金利」政策となります。これは「マイナス金利」以前の政策に戻ったと言えますので、依然として低金利は継続していると考えられます。
また長期金利は2023年7月には1%超えが容認されていましたが、今後は金利の操作を廃止し急激な金利上昇などに対応する緩やかな金利政策となります。
日銀の金融緩和政策とは
金利は私達の生活はもちろん、日本の経済や企業の収益などにも大きな影響を与えます。このため日銀の金利操作によって景気が上がり過ぎたり下がり過ぎたりした場合に調整が行われます。
さて過去を振り返って見ると、1990年頃のバブル経済が崩壊以降はデフレ経済が続いていました。このため景気回復のために金利を下げて企業や個人のお金の動きを良くするために低金利政策などが実施されてきました。
世の中に行きわたるお金の量を増やしたり、金利の上昇幅を抑えるために様々な政策などが「金融緩和政策」と呼ばれるものです。
その規模はかつてない程大きく、そのため「大規模金融緩和」となっていました。2008年には「ゼロ金利」政策が開始され、2016年には「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」として長・短期金利の操作をする「YCC(イールドカーブ・コントロール)」や、その後には「マイナス金利」などが金融政策の中心とされました。
物価安定目標とは
日銀の大規模金融緩和政策の目的は景気の回復にありますが、この目安として消費者物価の前年比2%上昇という「物価安定の目標」を導入しています。
総務省の発表した「消費者物価指数(総合)」を見ると、2022年には年平均2.5%、2023年には3.2%の上昇となり「2%の消費者物価上昇」の条件はクリアされていました。
しかしこれは円安による輸入物価の上昇など外的要因が強い、いわゆる「コストプッシュ・インフレ」となっていました。
このため景気の正常な回復とは言い難く、賃金の上昇⇒需要の増加⇒物価の上昇という「ディマンドプル・インフレ(景気循環型のインフレ)」が見られた時が日銀の言うところの「物価安定の目標」に近づいたと言えます。
◼︎消費者物価指数(前年比)の推移
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
前年比 | -0.2% | 2.5% | 3.2% |
賃金の動向は
金利の動向に際して最も注目されていたのは「賃金の動向」です。昨年来、岸田総理の要請もあり大企業を中心に賃金水準は上昇が続いてきました。
連合の発表した2024年の春闘賃上げ率の回答は2024年3月21日時点で5.25%となっています。2023年の同時点での3.76%から大きく上昇しています。
日銀の植田総裁は利上げのタイミングの目安として「賃上げ」を挙げており、今回の賃金上昇が利上げの大きなきっかけとなりました。
ETF(上場投資信託)の買い入れの停止も発表
こうした「金融緩和政策」では日銀によるETFやJ-REIT(不動産投資信託)などの買い入れなども実施されていました。
これは日銀が豊富な資金によって投資信託を通じて株式を購入する事で市中のお金の流れを良くして景気回復を狙う政策です。日銀によるETFの買い入れは2010年から続けられ、現在まで約37兆円(簿価ベース)にまで大きくなっています。こうした買い入れについても停止となりました。
日銀の保有するETFは株価の上昇などによって含み益が増大し、2024年2月末時点で34.2兆円にもなり「巨額埋蔵金」とも言われています。
こうした含み益の有益な利用法も検討されていますが、所有額が膨大なので日銀のETF売却は市場にも大きな影響が出ると予想されるため、今後の方針については慎重に協議されています。
不動産投資市場への影響は
では、マイナス金利の解除が不動産投資市場に与える影響を見てみましょう。
不動産投資ローンにおいては変動型を利用している方が多いと思いますが、変動型金利は短期金利に連動して動きます。今回日銀の短期金利水準はマイナス0.1%から0~0.1%へと変わりましたが、その幅は約0.1%であり、依然として「歴史的な低金利圏」にあると言えます。
賃金動向を見通してみると、2024年の春闘では大企業を中心に高い上昇を見せていますが、物価上昇率も高く実質賃金はマイナスが続いています。さらに中小企業などには賃金上昇の余裕がないケースも多く、実感として国民全体が所得上昇を実感するにはまだ時間がかかると考えられます。このため引き続き緩やかな金融緩和政策は継続されますので、著しい金利上昇の可能性は低いと考えられます。
しかし、金利上昇時には株価上昇や賃金の上昇、企業収益の向上などの景気上昇の要素が多く、投資不動産では潜在需要の顕在化や賃料の上昇なども見込まれる可能性もあります。
◼︎実質賃金(変動率)の推移
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
変動率 | 0.6% | △1.0% | △2.5% |
今後の金利上昇への備えは
このように今回のマイナス金利の解除は、金融政策の転換点となりましたが、今後大きな金利のボラティリティ(変動幅)の大きな上昇の可能性は低いと言えます。
また、金利の大幅な上昇は市場に大きな影響がるので、植田総裁からは事前に金利上昇の可能性について示唆もあり、今のところ大きな混乱はないようです。また4月から実施する大手銀行の住宅ローンでは金利を引き上げたケースはありませんでした。
但し今後は長期的に見れば金利上昇の可能性もあります。変動型ローンの金利は上昇する可能性もありますが、金利が上昇しても返済額は5年間変わらない「5年ルール」と、返済額が上昇しても上限は25%までとなる「125%ルール」がありますので返済額は大きく上昇しない仕組みが作られています。
金利が上昇した分は返済額が変わらなくても利息と元金の割合が変更となりますが、利息が増えた分は経費として計上できます。
インフレ・金利上昇時代を迎えるにあたって、今後は余裕を持った資金計画を立てる事も重要ですが、インフレの恩恵を受けやすい立地・クオリティを持った物件を選定する事や、将来的にもマンション経営のパートナーとなる会社選びがますます重要となってくるのではないでしょうか。