経済における需給関係がもたらす不動産投資への影響とは?【プロが教える不動産投資コラム】
今回のコラムでは、私達の生活を取り巻くあらゆる物・サービス価格が値上がりしている中で、その現況と今後の不動産業界に与える影響について述べて見たいと思います。
物価上昇が続いています
現在、私達の生活周辺で値上がりしているのは、ガス・電気・水道代、生鮮食品及びサービス商品など非常に多岐に渡っています。
ここで読者の方にクイズですが、総務省が発表した2024年の消費者物価では、果たして電気代は前年に比べてどのくらい上昇しているでしょうか。答えはなんと前年比15%も上昇しているそうです。
日銀が今年7月に政策金利を0.25%まで上げた事により株式市場は大きく下落しましたが、これは行き過ぎた円安を是正する事が一つの目的でした。
その結果、輸入資材などは円安のピーク時と比べると若干の落ち着きを見せているようですが、まだまだ物価上昇に歯止めがかかるという状況ではありません。
1年後の物価と生活防衛
日銀は「生活意識に関するアンケート調査」を2024年10月10日に発表しました。この中で国民に1年後の物価がどの程度上昇するのかを予想してもらいましたが、その答えはなんと平均で10%という事でした。
年間に300万円消費する方は30万円アップ、500万円消費する方は50万円アップという事で、単純に考えて物価が10%上がるという事は約1ヵ月分の給料が消える事を意味します。
という事で世の中全体にインフレの状況が色濃くなってくる訳です。
問題はそこでただ手をこまねいて傍観するのではなく、具体的な生活防衛策が求められる訳です。身近な所ではポイ活、ふるさと納税、また比較的安全で長期的な目線でできる資産運用などなんらかのアクションが必要です。
物価が下がるデフレの時代でしたら何もしなくてもただ銀行などに預金しておけば良かったのですが、今後は何もしない事が「マイナス要因」、つまり金融資産の価値の目減りに結び付くという時代になったという事です。
インバウンド増加の影響は
訪日外国人が今年も一段と増えてきており先般の中国の国慶節の時期には多くの中国人の方々が来日されました。東京・大阪・名古屋・福岡・札幌・沖縄などを中心に幅広いエリアなどに人気があるようです。
そこで起きている事はまさにホテル不足です。多くの需要があるにも関わらず新規のホテルの供給が追い付かない現状では、今後ますます一泊当たりの料金が上がっていきます。
筆者も名古屋・大阪のビジネスホテルには出張でよく利用しますが、まず予約という高いハードルを経た後の一泊当たりの料金の値上がりには驚くばかりです。平日で従来の1.5倍、週末ともなれば2倍という感覚です。ホテル業界もマンション業界と同様で、用地の取得、高い建築費、高い人件費が大きな課題となっているようです。
東京の主要部で進む再開発
また日本全国で同時多発的に展開されている駅周辺の再開発にも影響が及びつつあります。
東京だけ見ても100年に1回と言われる渋谷駅周辺の大規模再開発、品川駅、田町、浜松町の再開発、さらに東京駅を中心とした、これまた国際金融特区構想も基となる大規模再開発、これ以外にも池袋・新宿を始めまさに枚挙にいとまがないという状況下に置かれています。
その結果、資材の手当、工事現場で働く人の手当が上手くいかず、計画が頓挫するケースも出始めています。
建築費の上昇は巨大プロジェクトにも影響
その典型例が中野駅前の中野サンプラザを中心とする再開発事業です。
1度は野村不動産を中心とする事業体に決定しましたが、当プロジェクトから撤退するとの表明がありました。読者の皆様方は建築費というとこれから建築するものが対象と思われがちですが、最近問題となっているのはズバリ建物の「解体コスト」です。
巨大な建物は莫大なコストがかかります、つい最近話題となった国立の積水ハウスの新築マンションの解体見積り額はなんと10億円にもなるそうです。
このようにホテル業界及び再開発関係業界においても需要が多いにも関わらず、様々な要因が足かせとなり、供給の妨げとなっている現状が垣間見える訳です。
筆者の考えとしては一気呵成に多くのエリアで開発が進むのではなく、ここは国土交通省が国全体の計画的な推進プロジェクトをある程度コントロールするシステムも必要な時代になったのではないでしょうか。
都心部のオフィス賃料と需要の関係は
都心部のオフィス需要も非常に旺盛になってきました。その背景にはアフターコロナにおいて在宅勤務率が減り、出社率が高まっている事、また業績好調企業によるオフィス床面積の増床やよりアクセスの良いエリアへの移転の需要などが押し上げています。
この結果マーケット全体を見ても空室率が低下していますが、この先も従来のペースで新しいオフィスが供給できるかと言うと、そこにもまた?マークが付きます。
つまり一定の利回りをオフィスで確保できる建築コストを考慮すると厳しい状況が予想されるからです。
しかしオフィスの供給が減って需要が増えるという事はその先に当然の事ながら「オフィス賃料の上昇」が予想されます。
大手企業の莫大な内部留保がありますので、オフィス賃料は多少のコストアップはあったとしてもその影響は軽微かと考えます。そして賃料の上昇が予想されるという事はその周辺の地価の上昇にもつながる訳です。
またこのような状況になってくると小規模・中規模程度の貸オフィスの需要も増大してきます。
緊迫度を増す国際情勢
国際情勢を見てみると、ロシア・ウクライナ、さらにイラン・イスラエルといった情勢が緊迫度を増しています。世界経済を回すためには石油の安定供給が求められますが、現在、ホルムズ海峡においては石油運搬船が情勢の緊迫化により2割も減っています。
また先般米国の船舶業界において、そこで働く方々によるストライキが敢行され賃金が大幅に上昇したそうです。それらの要因も相まって今後、石油価格の上昇も予想されます。
国内において一旦は落ち着いた円安がエネルギー価格の上昇により打ち消される可能性も大きくなっていう訳です。このように国際的な石油の需要と供給の関係は日本経済においても大きな影響を与えます。
とりわけ、住宅業界は輸送費や石油を原料とした素材関係などを利用した設備・スペックなどを中心に影響を多く受けます。
インフレに対応した行動がキーワードに
ここでもやはりキーワードとなるのが、「インフレ」です。今後私達はインフレを前提とした行動パターンが求められる時代に入ったと言っても過言ではありません。
こうした時代の資産運用においてもまず大切な考え方としては「資産の保全」です。
多少金利が上がったからと言って、ただ銀行にお金を寝かしておくだけでは確実にその価値は目減りしていきます。NISA、iDeCo・不動産クラウドファンディングを始め資産運用のメニューは非常に潤沢な時代となってきました。
そのような中で、投資用のワンルームマンション業界においても首都圏の新規供給が前年比20%も減少しましたが、逆に需要は増加しているという典型的な業界とも言えます。
ワンルームマンションであればどこでもいいという訳ではありません。
将来の資産性、入居率・換金性などを考慮して優良な不動産を一つ二つ確保すれば、世の中の経済状況が多少変動しても安定した経済生活が送れると考えます。