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少子化対策の給付金の財源は「社会保険」から?検討されている対策をチェック

2023年1月の施政方針演説では、少子化対策が最重要政策として位置づけられました。少子化対策といえば、従来の対策が功を奏さなかった積年の難題。岸田首相は、従来とは次元の異なる少子化対策を実現するとして、改革に取り組む姿勢を強調しています。

首相は2022年の国会の答弁で、「検討」するという言葉が多く、野党から「検討使」と揶揄される場面もありました。しかし、検討も決断も議論もすべて重要であり必要だと演説では述べました。

政策実現に向けてどのような取り組みがなされるのか、検討されている対策を確認していきましょう。

出生数は過去最低を更新か?

厚生労働省が2022年12月に発表した2022年10月分の「人口動態統計速報」が話題を呼んでいます。2022年1~10月の出生数は66万9871人で、前年同期より減っており、80万人を割り込む見通しだというのです。1899年(明治32年)の調査開始以来の最少記録になるかもしれません。私たちの生活の中では、高校の統廃合などで子どもの数が減っているのだと感じることはあっても、出生数がここまで減ってくると「明日の日本は大丈夫なのか」と、心配になってくるでしょう。2022年はウクライナ侵攻が勃発して、外国が攻めてきたときの防衛力が問題になりました。しかし、日本という国が内側からしぼんでしまっては、元も子もありません。

出生数は、2021年には81万人でしたが、2022年には80万人を割り込む公算が大きく、新型コロナの感染拡大が少子化に拍車をかけたと見られています。また、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は2021年に1.30になっています。日本の人口維持には、2.1前後が必要とされるので、出生数の減少が日本の人口減少を加速させることになります。

少子化問題が初めて大きく取り上げられたのは、1990年のことです。前年の1989年の出生率が過去最低の1.57を記録し、「1.57ショック」と呼ばれました。丙午(ひのえうま)だった1966年の出生率1.58を下回ったことが判明し衝撃を受けたのです。1966年当時には、丙午生まれの女性は、気性が強く夫を殺すことがあるという迷信から、産み控えられていました。この1.57ショックを受けて、少子化が問題として認識され、その対策が検討されるようになりました。しかし、過去の対策では、少子化が改善されるまでにはいたっていません。

●出生数及び合計特殊出生率の年次推移

引用:「令和4年版 少子化社会対策白書」内閣府

少子化が問題視される背景には、人口減を加速させ、社会保障や労働、地域社会の担い手を不足させるなど、国力を低下させます。高齢者の割合がさらに高まれば、経済活性の道がますます遠のくことになります。

非正規労働者を対象に子育て給付を検討

少子化対策の一つとして、非正規労働者らを対象として子育て給付を創設する動きがあります。現行では、支援が行き届いていない育児休業明けに短時間勤務を利用する労働者や育児休業を取得できない非正規労働者、自営業者などが対象となる予定です。企業に勤める正社員は育児休業などの法整備がされていますが、非正規労働者においてはまだまだ不十分です。

特に女性は20代後半に正規雇用比率が下がる「L字カーブ」になっており、産後に非正規になる場合が多くなっています。第1子目には正社員であっても、育児と仕事の両立がむずかしく、あえて非正規雇用を選ぶこともあります。若い世代では、正社員であっても収入が増えていません。収入や待遇面で不安定な非正規雇用では、子どもを持つことをあきらめるという話も耳にします。新たな給付制度が上積みされれば、非正規雇用であっても望む子どもの数を持つことができるかもしれません。

この新たな給付制度は、関係省庁会議で3月末までに検討項目に盛り込まれる方向です。2024年度以降の制度導入をめざしており、2024年の通常国会へ新法の提出ができるように検討されています。支給額の財源は、年金と医療、介護、雇用の各社会保険から拠出金を積み立てます。国民1人当たりの月額保険料を総額で数百円程度引き上げ、全世代で支えるしくみを構築したい考えです。

拠出金については、2023年4月に発足するこども家庭庁が管理することになります。しかし、財源に数千億円から最大1兆円を確保する必要があり、課題も多く見受けられます。

「次元の異なる少子化対策」の中身はどんなもの?

過去の少子化対策では効果が薄く、少子化をくい止めることはできませんでした。過去には、幼児教育の無償化や待機児童解消に向けた保育施設の増設などが行われています。しかし、社会機能が維持できるかの瀬戸際ともなると、出生率の反転上昇をめざして課題に正面から向き合わなければなりません。すでに地方では人口減少によって、役員選出や自治会活動など地域基盤が揺らいでいるところも出てきています。

施政方針演説では、「年齢・性別を問わず皆が参加する従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」としています。この「次元の異なる少子化対策」については、子育てに関与が薄いとされた男性や独身の人も巻き込んで、社会の雰囲気を変えるところまで持っていくことと岸田首相は表明しています。働き方や暮らし方を含めた社会全体の意識改革をめざすことを掲げているのです。

少子化対策としては、

1:児童手当など経済的支援の拡大

2:幼児教育・保育など子育てサービスの充実

3:働き方改革の推進と制度充実

の3本柱で進めていくとしています。この少子化3本柱以外にも、教育やさまざまな政策を組み合わせたい考えです。

衆議院予算委員会では、1月において児童手当の所得制限撤廃に向けた論議がされています。現行の児童手当は中学生以下が対象で、子ども1人に月1万円~1万5000円が原則支給されます。ただし、所得制限世帯の子どもには1人あたり5000円の支給で、2022年10月からは年収1200万円以上の場合には、支給されないことになりました。しかし、賃上げが実現したら所得制限に引っかかり、支援から外れる人が増えるのを考慮すると、児童手当の所得制限を撤廃すべきとの声が大きくなりました。過去には「子ども手当」として所得制限がなかった時期もあり、当時の自民党の対応が問題視されました。

経済的支援として児童手当を拡充する方向は望ましいのですが、問題となるのは財源です。第2子以降も児童手当の金額を上積みする場合は、2~3兆円 になるといわれています。

現行の予算規模が2兆円なので、財源の確保が難題です。

2023年4月にこども家庭庁が発足する前に、3月末をめどに「次元の異なる少子化対策」のたたき台をまとめ、6月までに子ども関連予算の将来的な倍増に向けた大枠を示すとしています。具体策は6月に決めるとしているため、これからさまざまな意見が出されてくるでしょう。

若い世代が抱える子どもを持たない理由と問題点

結婚や子どもを持つかどうかは、個人の考え方やライフスタイルに関係するため、国が強要できるものではありません。しかし、少子化の原因には、長引く経済の低迷が影響しています。

国立社会保障・人口問題研究所では、国内の結婚や出産、子育ての現状と課題を調べるために、独身の人と夫婦に分けて「出生動向基本調査」をほぼ5年ごとに行っています。2022年9月に発表した「第16回出生動向基本調査」では、独身者に対して女性のライフコースの理想像をたずねたところ、男女ともに「仕事と子育ての両立」が初めて最多になりました。また希望の子どもの数は、男性で1.82人、女性で1.79人と全年齢層で減少していました。

また、夫婦である人に理想の数の子を持たない理由をたずねたところ、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が52.6%と最多の選択率でした。次いで「高年齢で生むのはいやだから」が40.4%でした。3番目には「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」が23.0%と、前回調査より増えています。

若い世代では、仕事と子育ての両立を希望するものの、いざ結婚して子どもを持つとなると経済的なものや年齢のことをクリアするのがむずかしいことが見えてきます。また育児や子育ては女性のワンオペが多く、現状の制度や協力体制では理想の子ども数を持つことができません。前出の調査でも、予定の子ども数が理想の子ども数が食い違っており

理想2人以上、予定1人 46.2%

理想3人以上、予定2人 59.3%

と、理想の子ども数を持ちたいと思っても踏みとどまる夫婦が多くいることがわかります。

さらに、2023年1月の不動産経済研究所の発表によれば、2022年の首都圏新築マンションの平均価格は6288万円 と、過去最高を更新しました。中古マンションの平均価格においても都心6区では9800万円で7%アップ、東京23区内では6842万円で8%アップ(東京カンテイ発表)しています。新築の戸建て住宅では、資材関係の高騰の影響で前年の約2割価格が上昇しているといわれています。住まいの面でも、住宅購入が厳しい環境になってきたことがうかがえます。

少子化対策の具体的内容はこれから

2023年1月までの衆議院予算委員会では、児童手当の給付の拡充に対する議論がされました。このほかにも、若者の賃上げ、住宅支援、非正規雇用の正規化などの問題も取り上げられています。しかし、少子化対策の具体的な内容は、まだこれからです。財源の確保は不透明なままです。賃金を上げるなど、若い世代の所得を向上させることは重要な問題になりますが、どのような支援がなされるのかも決まっていません。

日本経済新聞社が行った1月27~29日の世論調査では、少子化対策の具体策として、賃上げや働き方支援を求める声が多くなりました。仕事と子育ての支援については、待機児童の問題として「小1の壁」の問題が取りざたされています。「小1の壁」とは、子どもの小学校入学に、放課後の受け入れがなく、はたらきづらくなることを指しています。学童保育(放課後児童クラブ)の抽選に落ちたため、職場を手放した、2人目の子どもをあきらめたという人もいます。

子ども予算倍増が先行している感じが否めませんが、児童手当という給付を増やす政策だけではなく、乳幼児から大学までの教育費の支援、働きやすい環境づくり、復職しやすい雇用制度の見直しなど、少子化の問題点を洗い出す対策になることを強く希望しています。

池田幸代  株式会社ブリエ 代表取締役

証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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