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​​投資信託に「割安」「割高」の水準はあるのか

投資の基本は「安く買って、高く売る」こと。株式や投資信託など、金融商品の値段は日々変動しています。安いときに買って、高いときに売れば、その差額が利益になります。

では、投資信託に買いどき・売りどきを示す「割安」「割高」の水準はあるのでしょうか。今回は、投資信託に割安・割高の水準はあるのか、投資信託の基準価額はどのように算出するのか、どういった要因で動くのかを解説します。

株式投資の「株価」と投資信託の「基準価額」はまったく別物

投資信託の値段を表す数値を「基準価額」といいます。基準価額は、株式の値段を表す「株価」とはまったくの別物です。

株価は、各企業が発行している株式の値段のことです。株式情報サイトや新聞・テレビなどで表示される株価は、1株あたりの値段です。投資家は、証券会社を通じて売買の注文を行い、証券取引所で取引されている株式を買ったり売ったりしています。株価は、市場が開いている間の取引の状況に応じて上下します。

株価は、需要と供給のバランスで決まります。買いたい人(需要)が多ければ株価が上昇し、売りたい人(供給)が多ければ株価が下がります。

たとえば、画期的な新製品や好業績を発表した企業の株式なら、買いたい人が多そうです。反対に、不祥事や赤字転落などのあった企業の株式なら、売りたい人が多いでしょう。また、企業の動向にかかわらず、政治・経済・国際情勢などによって株価が動くこともあります。

株式を購入するときに、現在の株価が本来の企業の価値よりも低ければ「割安」、高ければ「割高」などといわれます。株式を割安なときに購入しておけば、いずれ株価が本来の水準に上がると考えられるからです。

それを知る1つの指標に「PER」(株価収益率)があります。PERは株価を1株当たりの純利益で割ったもの。数字が小さいほど割安、数字が大きいほど割高と判断されます。

一方、投資信託の基準価額は、投資信託が持っている資産の規模を示す純資産総額を、投資信託の口数(受益権総口数)で割ったもの。多くの場合、基準価額は1万口あたりの資産の価値を示しているので、計算式で表すと、

基準価額=純資産総額÷受益権総口数×10,000

となります。

株価同様、基準価額も商品によって異なります。しかし、複数の商品の基準価額を高い・安いと比較して、どちらが得と判断することはできません。なぜなら、株価と違って、投資信託の基準価額は需要と供給で決まるものではないからです。

たとえば、同じ「S&P500」に連動するインデックス型の投資信託が2つあったとしても、設定日が違えばベンチマーク(運用の目標とする基準)にするS&P500の値が変わってしまうため、基準価額も変わってしまいます。

また、万が一この2つの投資信託の設定日が同じだったとしても、後述するように基準価額は投資する銘柄の値動きや分配金の有無などによって変わってしまいます。つまり、基準価額の大小は、投資信託の割安・割高を比較できる数字ではないのです。

たとえば、同じS&P500に投資する、基準価額が1万円の投資信託Aと、基準価額が2万円の投資信託Bがあったとします。どちらも同じS&P500に投資するのですから、株価を見る感覚で基準価額を見ると、投資信託Aのほうが割安(投資信託Bのほうが割高)な感じがするでしょう。

しかし、株価と基準価額はまったくの別物です。

2つの投資信託をそれぞれ10万円ずつ購入した場合、投資信託Aは10口、投資信託Bは5口買えます(以下、手数料は考慮しません)。その後、ともに10%値上がりしたとすると、投資信託Aの基準価額は1万1000円、投資信託Bの基準価額は2万2000円になります。

この時点で2つの投資信託を売ると、

・投資信託A:1万1000円×10口=11万円

・投資信託B:2万2000円×5口=11万円

ですので、どちらも利益は1万円になっていることがわかります。

つまり、基準価額は、投資信託の運用が始まってから今までで、資産が増えたか減ったかを表しているだけなのです。したがって、基準価額は株価と違って、割安・割高という判断をするために使うことはできません。

投資信託の基準価額が変動するのはどうして?

投資信託の基準価額が変動する要因には、次のようなものがあります。

投資信託の基準価額が変動する要因1:組み入れている資産の価値の変動

投資信託は、1本で数十から数百の資産に分散投資しています。投資信託の基準価額は、各投資信託が組み込んでいる資産の価値が変動することで動きます。

たとえば、ある投資信託(受益権総口数1億口)が以下の3つの株式を組み入れているとします。この投資信託の純資産総額と基準価額は、次のようになります。

・株式A:株数1万株・株価1,000円 時価評価額(株数×株価)1,000万円

・株式B:株数3万株・株価2,000円 時価評価額(株数×株価)6,000万円

・株式C:株数1万株・株価3,000円 時価評価額(株数×株価)3,000万円

合計(純資産総額):1億円

基準価額:1億円÷1億口×10,000=1万円

ここで、株式Aの株価が値上がりして倍の2,000円になったとします。すると、純資産総額と基準価額は次のように変わります。

・株式A:株数1万株・株価2,000円 時価評価額(株数×株価)2,000万円

・株式B:株数3万株・株価2,000円 時価評価額(株数×株価)6,000万円

・株式C:株数1万株・株価3,000円 時価評価額(株数×株価)3,000万円

合計(純資産総額):1億1,000万円

基準価額:1億1,000円÷1億口×10,000=1万1,000円

純資産総額は株価上昇により1億1,000万円に増加しましたが、受益権総口数は1億口のままで変わりません。そのため、基準価額が1万1,000円に増加する、というわけです。

さらに、株式Bと株式Cがそれぞれ500円ずつ値下がりしたとしましょう。このときの純資産総額と基準価額は、次のとおりです。

・株式A:株数1万株・株価2,000円 時価評価額(株数×株価)2,000万円

・株式B:株数3万株・株価1,500円 時価評価額(株数×株価)4,500万円

・株式C:株数1万株・株価2,500円 時価評価額(株数×株価)2,500万円

合計(純資産総額):9,000万円

基準価額:9,000円÷1億口×10,000=9,000円

株価が下落したことにより、純資産総額は9,000万円に下がってしまいましたが、受益権総口数は1億口のままですから、基準価額は9,000円になります。

基準価額は、1日の取引が終了した後に組み入れている各資産の時価評価額をもとに計算しなおされ、1日1回変動します。基準価額が低いときに買って、高くなってから売れば、その差額が利益になります。

投資信託の基準価額が変動する要因2:分配金の支払い

投資信託のなかには、分配金を支払うものがあります。分配金は、運用によって得られた収益を投資家に還元するものです。分配金の支払いの有無や分配金の金額は投資信託によって異なります。なお、分配金を支払わない投資信託は、分配金を投資家に分配するかわりに運用資産に組み込みます。

投資信託の分配金は、投資信託の純資産総額から支払われます。そのため、分配金の分だけ基準価額が減ることになります。

【分配金を支払った場合の基準価額の推移イメージ】

(株)Money&You作成

たとえば、先ほどの投資信託が基準価額1万1,000円のときに、1万口当たり1,000円の分配金を支払うとしましょう。このとき、支払う分配金の総額は1億口÷1万口×1,000円ですから、1,000万円となります。

分配金が支払われると、投資信託の純資産が減るため、そのぶん基準価額が下落します。ここでは純資産総額が1億1,000万円から1億円に減るため、分配後の基準価額は1億円÷1億口×10,000=1万円となります。

投資信託の基準価額が変動する要因3:経済の動向の影響

たとえば、外国の株式や債券など、外貨建ての資産は、為替レートが変動することによって円建ての資産価値が変わります。日本円は、円安(外貨高)のときに両替したほうがたくさんの日本円がもらえます。反対に、円高(外貨安)のときはもらえる日本円が少なくなるというわけです。なお、為替レートの変動の影響を抑える「為替ヘッジあり」の投資信託もありますが、為替ヘッジにはコストがかかります。

また、債券を多く組み入れている投資信託は、金利の動向にも影響を受けます。債券の価格は金利が上がると下落し、金利が下がると上昇するためです。

さらに、景気がよくなれば、企業業績がよくなるため、投資資金が株式に集まります。すると株価が上昇するため、株式に投資している投資信託の基準価額は上昇します。反対に、景気がよくなると債券に投資資金が向かわなくなるため、債券型の投資信託は値下がりします。

投資信託の基準価額が変動する要因4:国内外の政治・経済などの情勢

たとえばコロナショックやリーマンショックのような大きなできごとが発生したときは、どの株式も一斉に暴落しました。こうなると、投資信託も無傷ではいられず、一緒に値下がりします。また、特定の国に投資している場合、その国に政治・経済的な不安が発生すると、大きく値下がりする場合があります。

投資信託の良し悪しを計る指標にはどんなものがある?

投資信託には割安・割高の水準がないことをお話ししてきました。では、投資信託の良し悪しを計る指標はないのかというと、そんなことはありません。投資信託には投資信託の評価基準となる指標があります。代表的なものをここで紹介します。

トータルリターン

トータルリターンは、一定期間内に投資信託がどれだけ値上がり(値下がり)したかを表す指標です。投資信託が組み入れている資産を売買することで得られた利益や損失、分配金、手数料などを含めた利益がパーセンテージで表されます。トータルリターンが高いほど利益を上げている商品だということができます。

とはいえ、1〜3年と短期間で見た場合には、マーケット全体が好調で「たまたま」運用成績が良いということも考えられます。5年、10年と長期間で安定して運用成績を上げている投資信託を選ぶことが大切です。

シャープレシオ

シャープレシオは、投資信託が効率の良い運用をしているかを知るための指標です。シャープレシオが高いほど、リスクの割に高いリターンを得られている(=運用効率が良い)ことを表します。同じ資産に投資する商品、同じ指数に連動を目指す商品が複数ある場合、シャープレシオの高い方がより効率良くリターンを得ていることがわかります。

なお、シャープレシオは投資先の資産や地域が異なる商品で見比べるには不適切な指標です。投資先の資産や地域が同じ商品どうしで見比べるようにしましょう。

トラッキングエラー

トラッキングエラーは、ベンチマークと投資信託の値動きの差を数値で表したものです。インデックス型の投資信託の目標はベンチマークとする指数に連動することです。しかし、実際には指数との間にズレが生じます。トラッキングエラーは、そのズレを示します。

トラッキングエラーが低いほど、ベンチマークとする指標と近い値動きをしていることを表します。つまり、インデックス型の投資信託の場合、トラッキングエラーの数字は小さいほど優秀、というわけです。

金融機関のウェブサイトには、これらの数値が一覧表などの形になってまとまっています。多くの場合、1か月・3か月・6か月・1年・3年(年率)・5年(年率)・設定来(運用開始から現時点まで)など、時期を区切った情報が記載されています。あくまで過去の実績ではありますが、できるだけ長期間のデータを確認して、安定的に運用されているかを確認するとよいでしょう。

投資信託の基準価額は株式の株価とは違って、割安・割高といった水準を示してはいません。基準価額は、投資信託の運用が始まってから今までの資産の増減を示しているだけです。「基準価額が安い・高い」を比較しても意味がなく、トータルリターン、シャープレシオ、トラッキングエラーなどを判断材料に投資信託を選びましょう。

頼藤太希 (株)Money&You代表取締役/経済ジャーナリスト

中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。

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