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高校での金融教育開始から1年 学びたい項目は年代で違うことが判明

2022年4月より、高校で金融教育が始まりました。大きく話題になったので、ご存じの方も多いでしょう。でも、肝心の大人は、金融の勉強をしたことがない方が多数派です。「お金の勉強をしておけばよかった」「お金の勉強をしたい」と思っている方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、LINEリサーチの調査結果をもとに、各年代の方が金融についてどのようなことを学びたいと考えているのかを、高校での金融教育の概要と合わせて解説します。

金融の勉強、3人に2人が「経験なし」

LINEリサーチが2022年12月に実施した「金融についての勉強に関する調査」によると、金融についての勉強を「これまでに一度もしたことはない」という人が67%にのぼりました。

金融について勉強をしたことがありますか?

出典:LINEリサーチ

この調査での「勉強」には

・家計管理(収支、貯蓄や負債の考え方)

・生活設計(就職、結婚、家を買うなどのライフイベント、それにかかわるお金について)

・資産運用(投資、金融商品の知識など)

・保険やローンの仕組み

・金融商品を利用する際の相談先や、トラブル防止

・経済の仕組み(経済変動や経済政策など)

が含まれます。

いずれも、社会生活を営むうえで大切なことばかりですが、およそ3人に2人はこれまでに一度も勉強したことがない、というわけです。

これまでに一度も勉強したことがないといっても、社会人して生活をするなかで、日々の家計の管理をしたり、さまざまなライフイベントを経験したり、保険やローンの契約をしたりしたことはあるはずです。もちろん、事前に説明を受けることもあるでしょう。しかし、こうしたお金に関することをよくわからないまま、何となくやってきた人は意外と多いと考えられるのです

こうした事情を反映しているのか、金融について「勉強したい」と考えている人も少なからずいます。

金融について勉強したいと思いますか?

出典:LINEリサーチ

「金融について勉強したいと思いますか?」という質問に対して、全体の19%が「とてもそう思う」、33%が「ややそう思う」と回答。合わせて51%の方が、金融の勉強をしたいと考えていることがわかります。年代別に見ると、特に20代・30代の方が金融の勉強をしたいと回答。40代以降、年代が上がるに連れて「金融についての勉強がしたい」の割合は減っていきます。

20代・30代は社会に出てまだ日が浅い上、結婚・出産・住宅購入・子育てなどさまざまなライフイベントが起こります。大人になって、改めてお金のことを学ぶ必要性を感じたのではないでしょうか。

40代、50代、60代の方も、お金の悩みは多かれ少なかれ抱えています。しかし、歳を重ねるなかでさまざまな経験をすることで、金融やお金のしくみが少しずつわかってくるものでもあります。「いまさら勉強しなくても」と考える人が増えてくるものと思われます。

では、金融についてどんなことを勉強したいと考えているのでしょうか。

金融について勉強したいこと(複数回答)

出典:LINEリサーチ

金融について勉強したいことは、年代別に違います。

10代では、「経済の仕組み」が第1位になっています。これから社会に出るにあたって、まずは大まかにでも経済がどのように成り立っているか、その仕組みを知っておきたいという考えからでしょう。また、他の年代にはない「お金に関するトラブルの対処法」が4位に入っています。実際、若くしてお金のトラブルに巻き込まれてしまう人もいます。それを防ぐ方法や万が一のときの対処法を知りたい方が多くなっています。

20代では「税金の種類/節税対策」が第1位になっています。社会に出て驚くのは、所得税や住民税といった税金の高さではないでしょうか。税金を節約できれば、その分手取りの給与を増やすことができます。60代でも同じく「税金の種類/節税対策」が第1位ですが、こちらは退職金にかかる税金・定年後の税金・相続税や贈与税などの話が中心だと考えられます。

そして30代から50代は第1位から第3位が「投資に関する基本知識」「資産形成の手段・方法」「税金の種類/節税対策」と同じになっています。預貯金だけではお金が増えないどころか、物価の上昇によってお金が減ってしまう時代ですから、投資でお金を増やそうという考えは自然なことです。

NISA(ニーサ・少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)といった、税金を節約しながらお金を増やせる制度も充実している今、将来に向けてお金を増やしたいというニーズが高まっています。

2022年度から高校の金融教育がスタート

子どものころ、金融について学んだ経験のある大人は少ないのですが、これから大人になる今の子どもたちは違います。2022年4月から、高校の家庭科の授業で金融教育がスタートしたからです。

同じく2022年4月、約140年ぶりに行われた民法の改正により、成人年齢(成年年齢)が20歳から18歳に引き下げられました。18歳といえば、高校を卒業する年齢です。

民法の「成年年齢」とは、「一人で有効な契約をすることができ、父母の親権に服さなくなる年齢」のことです。成人となれば、親の同意がなくても自分だけでスマホを契約して分割払いしたり、キャッシング・カードローン・リボ払いのようなローンを利用したりすることもできます。賃貸物件を借りて一人暮らししたり、投資したり、保険に加入したりすることもできるのです。

ただ、いくら18歳になったからといって、こうした契約を知識なしにしてしまうと、トラブルに発展する可能性もあります。国民生活センターの「成年年齢引下げ後の18歳・19歳の消費者トラブルの状況(2022年10月末時点)」によると、2022年度の18歳・19歳の消費者トラブルの件数は2022年10月31日時点で5,108件。前年同期(2021年10月31日時点)の4,849件より微増となっています。

成人年齢が引き下げられたからといって爆発的にトラブルが増加した、という状況ではありませんが、それでも半年で5,000件以上のトラブルの報告があることは問題です。

そこで、高校生のうちから正しい金融の知識を身につけてもらうために、成人年齢の引き下げと同じ2022年4月から、高校の家庭科の授業で金融教育が行われるようになったのです。

高校の金融教育の内容は、金融庁が公表している「高校生のための金融リテラシー講座」を見るとよくわかります。高校生のための金融リテラシー講座は、高校での授業内容の基準となる「新学習指導要領」に対応した金融教育の授業を行うための指導教材です。全6本の動画と、動画の内容に即した資料が用意されており、どなたでも無料で見ることができます。

高校生のための金融リテラシー講座では、以下のようなことが学べます。

家計管理とライフプランニング

大人になるまでに最低限身につけておきたいお金に関する知識や判断力、「金融リテラシー」を紹介しています。人生の希望や計画を具体的に描く「ライフプラン」を実現するにはお金が必要で、お金を得るには働く必要がある、といったことを解説しています。給与明細の見方や、働き方による年収の違いにも触れています。

お金を賢く使う方法

買い物で現金払いをする機会が減った方も多いでしょう。電子マネー、デビットカード、クレジットカードといった、キャッシュレス決済のメリット・注意点を紹介しています。

お金を貯める・増やす方法

預金・貯金、株式、債券、投資信託の商品概要や複利の効果を解説しています。これらの金融商品には安全性・収益性・流動性の3つの基準があります。この3つの基準をすべて満たす完璧な金融商品はないこと、複数を組み合わせて投資することの重要性を解説しています。

リスクに備える方法

病気やケガで働けなくなったり、一家の大黒柱が亡くなったりすることもないとはいえません。そんな事態に備える社会保険や民間保険の考え方を説明しています。

お金を借りること

住宅ローン、クレジットカード、消費者ローンなどを利用してお金を借りることについてまとめています。お金を借りると利子(金利)がかかるため、借りたお金よりたくさん返す必要があるという基本、リボ払いなどで返済額が大きくなってしまう理由などを詳しく解説しています。

金融トラブル

マルチ商法、SNSでの個人間融資、多重債務など金融トラブルの原因と、金融トラブルを避けるための考え方、金融トラブルにあったときの相談窓口を説明しています。

このように、金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」はお金に関する一通りのことを学べるようにできています。上で紹介した「金融について勉強したいこと」についてもおおむね網羅しています。これからを担う子どもたちにはきちんと勉強してもらい、お金について困ることのないようにしてもらいたいものです。

筆者も「Z世代のマネー学」と題してまとめたものがありますが、Z世代以外の大人世代の皆様もぜひチェックくださいね。

https://moneliy.jp/tag/z-moneygaku

金融の勉強で得られることは?

LINEリサーチの調査では、年代別に「金融について勉強したい理由」も尋ねています。

金融について勉強したい理由(複数回答)

出典:LINEリサーチ

ほぼどの年代でも共通して上位に来ているのが「将来のお金に不安がある」「お金に関する無駄をなくしたい」「豊かな生活を送りたい」といった項目です。特に「将来のお金に不安がある」は、30代から50代まで不動の1位となっています。

また、10代・20代の若年層は「金融や経済について知るべきだと感じている」「お金に関するリスク管理をしたい/トラブルにあいたくない」といった、現状の把握やトラブル回避の項目がランクインしているのに対し、30代以降になると「資産を増やす方法について、もっとくわしくなりたい」や「資産の増やし方がわからない/増やす方法を知りたい」といった、資産運用に関する項目が並びます。

まとめ

日本ではこれまで、お金のことを学ばずに社会に出る人がたくさんいたため、大人になって初めてお金のことを知って驚いたり、トラブルに遭遇したりする人がたくさんいました。また、日本人は投資に対して「怖いもの」「ギャンブル」などとネガティブなイメージを持っていました。

しかし、そうしたことも金融教育が浸透するにしたがって、徐々に昔のものになっていくでしょう。お金のことを勉強し、マネーリテラシーを身につけることで、お金で振り回されることがなくなります。

子どもはすでにお金のことを学ぶようになりました。私たち大人も、お金のことを学び、知識をアップデートして、生活に役立てていきたいですね。

頼藤太希 (株)Money&You代表取締役/経済ジャーナリスト

中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。

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