リスキリングとは?お金を稼ぐために何を学べばいい?
ニュースで耳にする機会が多くなってきた「リスキリング」。なんとなく「学び直すこと」「スキルを身につけること」などとはわかるものの、いったい何のためにするのか、自分に必要なのか、そして何を学ぶのかよくわからない…という方もいるでしょう。
そこで今回は、そもそもリスキリングとは?から、リスキリングで身につけたいお金を稼ぐスキル、リスキリングに役立つ給付制度まで紹介します。
そもそもリスキリングとは?
リスキリングとは、学び直しによって新たなスキルを身につけ、新しい仕事や業務を行うことです。経済産業省のウェブサイトにあるリクルートワークス研究所の資料によると、リスキリングは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること/させること」とあります。
リスキリングの背景にあるのは、産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいること。DXとは、AIなどのテクノロジーを業務に取り入れることで、ビジネスそのものを大きく変革させたりすることです。たとえば、タクシーの配車アプリにAIを導入して配車を最適化したり、画像認識機能を活用して洋服の採寸をしたりと、さまざまな業界とDXを組み合わせることで、これまでになかったサービスが生み出されています。
ただ、いくらDXに将来性があるといっても、肝心のAIなどのテクノロジーを活用できるデジタル人材・IT人材は大きく不足しているのが実情です。そこで、DX化を推進するために、リスキリングを行なって人材不足を解消しようと考えているのです。
●デジタル社会における人材像
経済産業省「経済産業省の取組」より
デジタル社会では、誰もがデジタルに関する知識や能力を身につける必要があります。今の若年層は、小・中・高等学校である程度の知識を身につけますが、現役世代のなかには、そうした知識を身につけていない人もいます。こうした人たちにリスキリングによってデジタル知識・能力を身につけてもらおうと考えているのです。
また、リスキリングには長く働くための学び直しという側面もあります。
60歳で定年を迎えても、65歳、70歳、あるいはそれ以上と長く働き続ける人がいる時代です。定年後も長く働くためには、やはりスキルが必要です。
にもかかわらず、日本では子供のときから学校で勉強して、社会に出たら以後は勉強しない人がほとんどです。企業の人材投資は諸外国よりも少ない上に年を追うごとに低下しています。また、社外学習・自己啓発を行なっていない人の割合も諸外国より圧倒的に多いのです。
企業の人材投資や個人の社外学習等の国際比較
経済産業省「経済産業省の取組」より
変化の早い社会で長く仕事をしていくには、その変化に対応できるスキルを身につける必要があります。リスキリングによって新しいスキルを身につけられれば、仕事の幅も広がり、いつまでも働き続けることができる、というわけです。
リスキリングで身につけたい、お金を稼ぐスキル
2022年10月に開かれた臨時国会の所信表明演説で、岸田政権は「リスキリングに今後5年で1兆円を投じる」と表明しました。成長産業で新たに働く人を増やして収益性をアップし、賃上げに結びつけたい考えです。
では具体的に、リスキリングでどのようなスキルを身につければいいのでしょうか。たとえば次のような分野が注目されています。
リスキリングで身につけたいスキル1:プログラミングスキル
そもそもリスキリングが注目された理由がDX人材の確保にありました。ですから、プログラミングスキルを身につけることで、DX化の仕事に直接役立ちます。たとえば、社内エンジニアとして画期的なDXのシステムを開発して、業務効率の改善や新サービスの立ち上げに貢献する、といったことができるでしょう。さらにプログラミングのスキルを磨けば、DX人材として転職で有利になることも考えられます。
また、プログラミングを学習することで論理的思考力・課題解決能力が身につくメリットもあります。プログラミング学習の基礎は小学校でも教えている時代です。普段の業務にもその考え方が役立つでしょう。
【プログラミングに関する主な資格】
・VBAエキスパート
・Pythonエンジニア認定試験
・AWS認定 など
リスキリングで身につけたいスキル2:マーケティングスキル
もはやインターネットなしの生活など考えられない時代です。誰もがスマホを持ち、さまざまなSNSを活用している今、デジタルマーケティング分野のスキルもさまざまな場面で役立ちます。たとえば、インターネット上でのユーザーの行動を解析し、その人が何を求めているかを推測。その推測をもとに、その人にあったおすすめ商品を提案して購入してもらうという一連の流れを作ることは、コストを抑えて高い広告効果を出すために大切なことです。SEO(検索エンジン最適化)の知識があると、キーワードが検索されたときに自社の商品やサービスをいち早く表示させることができるでしょう。
企業のSNSの運営・配信などを通して、物事をわかりやすく伝える方法や、収益を効率よく伸ばす能力も身に付きます。
【マーケティングに関する主な資格】
・マーケティング・ビジネス実務検定
・ネットマーケティング検定
・マーケティング検定 など
リスキリングで身につけたいスキル3:Webに関するスキル
企業のウェブサイトや、商品・サービス購買のためのランディングページを作るスキルも重宝されています。かつては、ウェブサイトやランディングページを外注している会社も多かったのですが、最近は自社で制作する会社も多くあります。社内のWebデザイナーとしてウェブサイトを作ることができれば、新たな商品やサービスのウェブサイトをすぐに作ることができますし、更新や修正に素早く対応したりできるうえ、コスト削減にも役立ちます。
YouTube・Instagram・TikTokのようなSNSに配信する動画や写真などを上手に編集・作成するスキルも身につくでしょう。
【Webに関する主な資格】
・Webデザイン技能検定
・Webクリエイター能力認定試験
・Adobe認定エキスパート(ACE) など
リスキリングで身につけたいスキル4:英会話スキル
英語ができる人はリスキリングという言葉が浸透する前から重宝されています。グローバル化によって英語の重要性は高まっているものの、忙しいなどの理由で英語の勉強ができていない人も少なくありません。英語ができれば、販路を海外にも拡大できたり、海外勤務ができたりと、今までとは違ったキャリアが開けるでしょう。英語ができることで年収アップも期待できます。
プログラミングなどのスキルとは違い、学生時代に誰もが基礎的なことを学んでいるのも強み。リスキリングによって学び直せば、身につけやすいとも言えます。
【英会話に関する主な資格】
・TOEIC
・TOEFL
・日商ビジネス英語検定 など
リスキリングで身につけたいスキル5:お金のスキル
お金のことを学ばずに大人になった方はたくさんいます。そして、お金のことを知らなかったがために失敗したり、損をしたりした経験のある方もたくさんいるでしょう。ビジネスでもそれは同様で、売上・費用・利益をはじめとする会社の数字に強くなることで、より利益を上げるためにどんな行動を取ればいいのかが見えてきます。
FPをはじめとするお金のスキルは企業からも人気。就職や転職にも役立ちます。また、仕事に役立つだけでなく、自分の生活にもさまざまな気づきを与えてくれるでしょう。
【お金のスキルに関する主な資格】
・FP(ファイナンシャルプランナー)
・簿記検定
・宅建 など
リスキリングに役立つ教育訓練給付制度
リスキリングによりスキルアップすれば、今勤めている会社での活躍の幅が広がり、キャリアアップにもつながるでしょう。また、スキルを身につければ、「転職する」「副業する」といった際にも強みになりますし、収入増も期待できます。
ただ、新たに学び直しをしたり資格取得をしたりするにはお金がかかります。会社でリスキリングに取り組むなど、費用を負担してくれる場合はともかく、個人で学び直しをしようとすると、それなりの負担になります。
個人で学び直すときに活用したいのが、厚生労働省が行う「教育訓練給付制度」です。教育訓練給付制度は雇用保険の給付制度の1つ。働く人々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図るために創設された制度です。
教育訓練給付制度では、厚生労働大臣の指定する通学講座や通信講座を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。
教育訓練給付制度の対象となる訓練にはレベルなどに応じて3種類あり、給付率が異なります。
①一般教育訓練給付金
支給額:受講費用の20% 支給額の上限:10万円
Webクリエイター能力認定試験・中小企業診断士・TOEIC・TOEFL・日商簿記・インテリアコーディネーター など
②特定一般教育訓練給付金
支給額:受講費用の40% 支給額の上限:20万円
大型自動車免許・社会保険労務士・宅地建物取引士資格試験・自動車整備士 など
③専門実践教育訓練給付金
支給額:受講費用の50% 支給額の上限:40万円(最長4年支給)
資格取得後1年以内に就職した場合には受講費用の20%(年間上限16万円)が追加支給
(合計で受講費用の70%、年間上限56万円、4年間上限224万円)
業務独占資格(介護福祉士、看護師、美容師など)、第四次産業革命スキル習得講座(新技術・システム(クラウド、IoT、AI、データサイエンス)、 高度技術(ネットワーク、セキュリティ)など)・キャリアコンサルタント など
なお、教育訓練給付制度を利用するには、受講開始日時点で雇用保険に3年以上加入している必要があります(初めて利用する場合は1年または2年)。また1度利用すると次回の利用まで3年以上期間をあけなければいけないなど、条件があります。詳しくは、厚生労働省のウェブサイトで確認しましょう。
リスキリングは、変化の激しい時代に働き続け、いつまでも必要とされる人材であり続けるために大切なこと。DXに役立つ知識や、これまでの仕事に活用できることを学ぶことで、今までと違った、新たなキャリアが開けるでしょう。
高山一恵 Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。登録者1万人超のYouTubeチャンネル『Money&YouTV』を運営。著書は『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)、『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計100万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。