どうして金利が上がると株価は下がるのか
新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ侵攻など、社会の変動は私たちの生活に大きな影響を与えています。これまで金融緩和を続けてきた世界の国々も2022年に入りインフレ抑制のために、政策金利を引き上げました。先進国の中で利上げを行っていない日本ですが、いつ金利が上がるのかが気になるところです。
株価は金利変動に大きく影響を受けるので、金利の種類や特徴をしっかり理解することで、投資戦略に役立てることができます。
今回は、資産運用のために知っておきたい金利と株価の関係を見ていきましょう。
株価変動の要因には内部要因と外部要因がある
企業は株式を発行して資金調達をします。株式の値段のことを「株価」といいます。株式は元本や配当金の支払いが保証されず、株価は常に変動していて、株式相場の時間内にいくつもの値段がつきます。その株価は買いたい人と売りたい人との需要と供給のバランスによって値段が決まります。買いたい人が増えれば株価は上がり、売りたい人が増えれば株価は下がります。
その株価が変動する要因には、一般的に内部要因と外部要因とがあります。この2つの大きな要因によって、個別企業の具体的な株価が決まります。
内部要因は、その会社に関係することで、企業業績、決算、将来性、人気、不祥事などの個別の企業情報のことです。
一般的に、企業は経済活動で得た利益の一部を配当金として株主に支払います。売上が増えたり、利益が増えたりして業績がよくなると配当金の金額が増えます。業績が良くなると予想されると思惑から株価が上がる傾向があります。一方で不祥事や事故などの企業にとってマイナスなことが起これば、株価は下がりやすくなります。
また外部要因は株式市場全体に関係することで、景気動向、金利、外国為替、政治、国際情勢、自然災害・天候など社会や経済の状況のことです。
・景気動向
社会や経済の状況では、景気の動向がまずあげられます。景気が悪いときには会社の業績期待が持てないことが多く、株式を買う人が少なくなります。逆に景気がよくなると思う人が多くなれば会社の業績に期待ができるため、株式を買う人が増えることになります。
・金利
金利とは、お金を貸し借りするための利子や利息の割合のことです。金利の水準はそのときの経済状況や国の政策によって調整されています。一般的に、金利と株価はシーソーのような関係があり、金利が低下すると株価が上がり、金利が上昇すると株価が下がる傾向があります。
・外国為替
為替レートは、異なる通貨を交換する際の値段を決める比率のことです。円とドルを交換するレートは、毎日のニュースでおなじみですね。この為替相場の動きも株価に影響を与えます。外国通貨に対して日本円の価値が高い時には「円高」といい、日本円の価値が低いときは「円安」といいます。原材料を輸入している会社や製品を海外に輸出している会社は為替相場の動きに大きな影響を受けます。
・政治・国際情勢
経済政策に関する首相や財務大臣、日銀総裁の発言なども株価に影響を与えます。金融市場は世界とつながっているため、海外の株式市場の動向も株価に反映します。最近では、米国の米連邦準備制度理事会(FRB)の議長の発言にも注目が集まっています。また日本は食料や資源を海外からの輸入に頼っているため、戦争や内乱、貿易摩擦といった項目にも影響を与えます
そもそも金利とは
金利とは、お金を貸し借りするための利子や利息の割合のことです。一般には1年あたりの利率を意味します。金利は他の商品やサービス同様、資金の貸し手と借り手の関係で決まります。資金を借りたい人が多いときには金利が上がり、少ないときには下がります。
金利の変動は、企業や個人の家計にも密接に関係しています。
企業においては、金利が低ければ融資を受けやすくなります。借りた金融機関への返済総額が小さくなるため、借り入れがしやすく、設備投資や事業拡張を積極的に進めることができます。そうした投資は、将来の業績拡大への期待から株価が上昇しやすくなります。逆に金利が高いと借入れに消極的になり、新規投資は行いにくくなります。
個人レベルでお金を借りる場合に金利が低いと、自動車や住宅といった高額のものがローンを組んで買いやすくなります。購入するかどうかが金利の影響を大きく受けるというわけです。個人の購入意欲が高まれば、自動車や住宅産業は裾野が広いので、社会全体に経済効果が及びます。逆に金利が上昇し始めると借入利息を含めた支払額が増えます。支払いが多くなりすぎると「今は買えない」という気持ちになり、消費よりは将来の消費に備えて貯蓄に資金を回すことになります。銀行にお金を預ける場合には、利息の受取額が増えます。金利の変動が家計の消費と貯蓄に影響を与えているのです。
金利は分け方によって、いろいろな種類がありますが、期間に着目した場合には、「長期金利」と「短期金利」に分けることができます。
長期金利は、貸出期間が1年以上の場合に適用される金利です。日本では新発10年物国債利回りを指標として用いています。将来の景気予測や期待なども含めて市場取引によって決まります。景気が良くなると金利が上昇し、景気が悪くなると下がる傾向があります。日本では日銀が長期国債を上限なしに買い入れることで、長期金利をコントロールしています。
一方、短期金利は、貸出期間が1年未満の場合に適用される金利です。この短期金利は、日銀が金融政策として操作する政策金利です。政策金利を引き上げたり、引き下げたりしながら、景気のバランスを取っています。2016年1月からデフレ脱却を目指して、マイナス金利政策が導入されています。
金利によって株価はどうなる?
日本は超低金利が長かっただけに、金利の上昇が株価に与える影響に不安を抱える人もいるかもしれません。金利と株価の関係について基本を確認しておきましょう。
まず前提として、株価は景気の動向を先取りして動く傾向があることを知っておきましょう。そして、株価は金利変動の影響を受け、金利が上昇すると株価は下がり、金利が低下すると株価が上がる動きを取るといわれています。
これは、金利が上昇すると企業の金利負担が増え、銀行などから資金を調達するコストが増加して、業績を圧迫する可能性があります。また、金利が上がれば株式で運用するより預貯金の方が商品の魅力が増すため、株式は売られる傾向にあります。
逆に金利が低下したときには、企業は資金調達の金利負担が減ります。そうすると商品開発や設備投資にお金が回せるので、売り上げが増え企業業績が向上することで株価が上がるというわけです。
しかし、金利の上昇が必ずしも株価が下がる局面とは言い切れません。好景気によって金利が上昇している局面では、企業業績がよくなる期待が高まり、金利とともに株価も上がるケースもあります。厳密にいうと、金利が上がって株価が下がっていく局面は、金利が上昇していて、これから景気が悪くなっていきそうなときなのです。景気がよくなり、景気を過熱させないように金利を上げることで景気を調節し、株価が下落していくこともあります。金利や株価の動きはセオリーどおりにはいきませんが、基本を理解することで経済の動向や将来の影響を予測できるかもしれません。
米国の利上げと株価、国債利回りの関係を見てみましょう。
グラフはS&P500、米国債10年です。
2019年から2020年初頭は、2.5%あった政策金利が1.75%に下がっていくにしたがって国債の利回りは下落する一方で、株価は上昇しています。「金利が低下すると株価が上がる」局面です。2020年3月のコロナショックでは、株価が大幅に下落します。コロナショック後は、政策金利を0.25%に下げていますが、株価は徐々に回復しコロナ前の高値を超え、国債利回りも上昇しています。
2022年2月末に起きたウクライナ侵攻により、米国は翌3月にインフレ抑制のために政策金利を0.25%から0.5%に引き上げます。2023年7月までの短期間に5.5%まで利上げを行いました。国債利回りは利上げとともに上昇しますが、株価のほうは不透明さが増し動きづらい展開になっています。
・S&P500
※SBI証券HPから引用
・米国債10年
※SBI証券HPから引用
金利が上下する要因にはどんなものがある?
金利も株式同様、需要と供給のバランスによって決まり、一定ではありません。金利が上下する要因には、主に景気・物価・為替相場があります。
・景気
一般に景気がよいときには、モノやサービスが売れるようになります。買う人が多くなれば、企業は原材料の購入を増やし、設備投資にお金をかけるようになります。私たちの生活においても、給料やボーナスが増えれば、買いたいと思っていた物を購入したり、旅行に行ったりできますね。このように資金の需要が増えれば、金利は上がりやすくなります。
一方、景気が悪くなれば、買うものを減らし消費者は財布のひもを締めるので、企業も設備投資を控えます。そうすると金融機関は貸出が減り、金利が下がりやすくなります。
・物価
物価とは、モノやサービスに対する価格のことです。一般に物価が上昇するのは経済活動が活発なときで、物価が下落するのは経済活動が停滞しているときです。物価が上がるとモノやサービスを買うために必要なお金が増えるので金利が上昇しやすく、物価が下がると買うために必要なお金が減るので金利が低下しやすくなります。あまりにも物価の上昇率が高い場合には物価を抑えるために、政策金利を引き上げ、物価を安定させる政策を取ります。
・為替相場
為替相場の変動によっても、金利に影響があります。日本は海外からの輸入に頼っている国です。円安になると、円の価値が他国の通貨より下がっているため、原材料や輸入品の価格が上昇し、物価が上がりやすく、金利も上昇しやすくなります。一方、円高になると海外から輸入品の価格は低くなるので、金利が低下しやすくなります。
2022年のウクライナ侵攻を契機に、世界の国々の中央銀行は急激なインフレ(物価上昇)を抑えるために利上げを行いました。日本は先進国で唯一利上げを行わず、金融緩和政策を続けています。しかし、日本でも徐々に金利が上がりやすい環境になりつつあります。日銀は、長期金利の指標となる新発10年物国債の許容変動幅を3回にわたって上昇させてきました。この次に取る金融政策の修正は、短期金利のマイナス金利解除だと見られています。マイナス0.1%の政策金利を0%にし、その後は短期金利を上げる余地もあると予想されています。
異次元緩和政策も出口に近づきつつあります。今までデフレが続き、長期金利も短期金利も低い状況が長かっただけに、金利のある世界に企業も個人も慣れていません。今後の日本の金利の行方に注目が集まっています。
池田幸代 株式会社ブリエ 代表取締役
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー