iDeCo、NISA、変額保険の違いとメリット・デメリットは?各制度を優先したい人はどんな人?
お金を増やす方法には大きく分けて「働いて収入を増やす」「節約して支出を減らす」「資産運用してお金に働いてもらう」の3つがあります。とはいえ、給料が上がらず物価が上がる時代ですから、「働いて収入を増やす」「節約して支出を減らす」のにも限度があります。しかし、「資産運用してお金に働いてもらう」はどうでしょうか。まだ取り組んでいない人もいるかもしれません。
そこで今回は、iDeCo・NISA・変額保険という、資産運用の3つのしくみを紹介します。それぞれのしくみの特徴や違い、メリット・デメリット、各制度を優先したい人を解説します。
iDeCo・NISA・変額保険はそれぞれどんな制度?
iDeCo・NISA・変額保険はどれも、お金を増やす資産運用ができるしくみです。ただ、どんな資産運用ができるかは、制度によって異なります。
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)
iDeCoは、毎月自分で出した掛金を定期預金・保険・投資信託で運用し、その成果を60歳以降に受け取る制度です。国の公的年金には国民年金と厚生年金の2つがありますが、それだけでは老後のお金は足りないのが現実。iDeCoを活用すれば、自分で公的年金の上乗せとなる「自分年金」を効率よく作ることができます。
NISA(ニーサ・少額投資非課税制度)
NISAは、投資で得られた利益にかかる税金がゼロにできる制度です。2024年の制度改正により「新NISA」とも呼ばれています。新NISAでは、年間で投資できる金額や生涯に投資できる金額も大幅に増加。「つみたて投資枠」「成長投資枠」の2つの投資枠を利用(併用も可)しながら非課税の投資が無期限でできるようになりました。
変額保険
変額保険は、生命保険と資産運用が一緒になったような保険です。払い込まれた保険料の一部を「特別勘定」として投資信託などで保険会社が運用します。そして、特別勘定の運用次第で万が一のときの死亡保険金(最低保障あり)や満期保険金、解約返戻金の金額が変わります。
<iDeCo・NISA・変額保険の特徴比較表>
(株)Money&You作成
iDeCo・NISA・変額保険のメリット・デメリット
iDeCo・NISA・変額保険の概要がわかったところで、メリットとデメリットを確認していきます。
3つのタイミングで税制優遇が受けられるiDeCo
iDeCoの最大のメリットは、掛け金を出すとき・運用中・受け取るときの3つのタイミングで税制優遇が受けられることです。具体的には、次のとおりです。
・掛け金を出すとき:掛け金の全額が所得控除になるため、毎年の所得税や住民税が減らせる
・運用中:運用で得られた利益にかかる税金(20.315%)が非課税になる
・受け取るとき:「退職所得控除」「公的年金等控除」によって、税金の負担が減らせる
特に、掛け金を出すときの所得控除の効果は大きなものがあります。iDeCoの掛け金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。
たとえば、所得税率10%(住民税は一律で10%)の会社員がiDeCoで毎月2万円の掛け金を出したとします。すると、年間の掛け金の合計額(24万円)が所得控除できます。これにより、毎年の所得税が2万4,000円、住民税が2万4,000円、合計4万8,000円安くなります。このまま30年にわたって同じ条件で掛け金を出し続けたら、税金は合計144万円も安くなります。自分のためにお金を貯めながら、税金まで安くできるというわけです。
ただし、iDeCoの掛け金は原則60歳まで引き出せません。急にお金が必要になったとしても、iDeCoのお金を充てることはできません(ただし、老後資金を貯めるためであれば、お金を引き出せないことはむしろメリットということもできます)。
また、iDeCoの口座開設には2,829円の口座開設手数料が必ずかかるうえ、毎月171円の口座維持手数料も必ずかかります。さらに、金融機関によっては月数百円の運営管理手数料もかかります。コストを下げるならばなるべく運営管理手数料が無料の金融機関を選ぶようにするとよいでしょう。
生涯にわたって非課税投資ができるようになった新NISA
2024年からの新NISAは制度が恒久化され、投資で得られた利益にかかる税金が生涯にわたって非課税にできるようになりました。つまり、いつでも自分の好きなタイミングで、期限を気にすることなく資産運用ができます。
新NISAのつみたて投資枠は積み立て専用の投資枠です。金融庁の一定の基準を満たした投資信託・ETF(上場投資信託)に年間120万円まで投資でき、得られた利益が非課税にできます。毎月の積み立てる日や金額、商品などをあらかじめ設定しておけば、あとは自動的に投資ができます。金融機関によってはクレジットカードで投資ができ、ポイントを貯めることもできます。
対する成長投資枠では、つみたて投資枠の商品はもちろん、上場株式・ETF・REIT(不動産投資信託)・投資信託にも投資可能。年間240万円までの投資で得られた利益が非課税にできます。積立投資だけでなく一括での投資もできます。
非課税で投資できる金額は、生涯にわたる非課税限度額(生涯投資枠)までです。生涯投資枠の上限は、つみたて投資枠と成長投資枠で合計1800万円。つみたて投資枠だけで1800万円投資することもできます。なお、成長投資枠だけ利用する場合の上限は1200万円ですので、生涯投資枠を使い切りたい場合は、残りの600万円はつみたて投資枠で投資する必要があります。
新NISAの資産はいつでも引き出すことができます。投資していた商品を売却すると生涯投資枠が翌年に復活するので、翌年以降に再び非課税の投資を始めることができます。
加えて、ネット証券などでは100円程度の少額から投資を始めることができ、口座開設・維持の費用もかかりません。
一方で、新NISAでは複数の口座の利益と損失を相殺して税額を減らす損益通算や、損益通算で引ききれなかった損失を3年間にわたって繰り越す繰越控除が利用できません。
保障を用意しながら投資もできる変額保険
変額保険は「保険」ですから、加入者が亡くなった場合には、死亡保険金が受け取れます。特別勘定での運用成果により、死亡保険金や解約返戻金の金額は増減します。運用がうまくいけば死亡保険金や解約返戻金の上乗せがあります。
また、保険は一般的に物価が上がるインフレに弱い商品ですが、変額保険は比較的インフレにも対応できる商品です。毎年の掛け金は生命保険料控除の対象になり、最大で所得税4万円・住民税2.8万円の所得控除が受けられます(2012年1月以降の新制度の場合)。
しかし、特別勘定の運用がうまくいかない場合は、死亡保険金の上乗せはありませんし、解約したときの解約返戻金も少なくなってしまいます。死亡保険金には最低保証があるので、運用がうまくいかない場合でも一定額を受け取ることができます。しかし、解約返戻金には最低保証がないので、元本割れして大きく減る可能性があります。
また、変額保険は途中で資産を引き出すことができますが、10年以内に引き出すと解約控除という手数料がかかってしまう点もデメリットです。
iDeCo・NISA・変額保険を優先したい人は?
以上を踏まえて、iDeCo・NISA・変額保険を優先して利用したい人を、制度を比較しながら考えてみましょう。
iDeCoを優先したい人
・所得がある(多い)人
・毎月1万円以上投資ができる人
・老後資金を貯めたい人
・貯蓄が苦手な人
iDeCoでは掛け金が所得控除でき、所得税・住民税が安くなります。所得税の税率は所得に応じて5%〜45%の7段階(住民税は一律10%)。所得が多く、税率が高い人ほど、iDeCoの所得控除の効果は大きくなります。NISAや変額保険にはこのような掛け金の所得控除の効果はありません。投資の成果にかかわらず確実に節税できるという点では、iDeCoがもっとも効果があるでしょう。
一方、iDeCoではどの金融機関でも手数料がかかります。掛け金の金額が少ないほど手数料の負担割合が増えてしまうため、毎月1万円以上は積み立てられるとよいでしょう。
60歳まで引き出せないことをiDeCoのメリットととらえると、老後資金を貯めたい人や貯蓄が苦手な人にもおすすめです。ライフイベントをある程度経験してきた40代、50代ならば、次は老後資金の準備に取り組む方も多いでしょう。年収も20代、30代に比べて高い傾向にあるので、iDeCoを優先することを考えましょう。
NISAを優先したい人
・毎月の投資金額が少ない人
・教育資金、住宅資金、余暇資金など、ライフイベントに合わせてお金を貯めたい人
・投資信託だけでなく、個別株にも投資したい人
・60歳以降で非課税の投資をしたい人
NISAを優先したいのは、毎月の投資金額が少ない人です。ネット証券では100円からでもNISAを始められます。「投資がはじめてで不安」という方でも、少額なら安心ですし、つみたて投資枠には金融庁の定める基準を満たした商品がラインナップされているので、商品選びで大きく失敗する可能性は少ないでしょう。
NISAではiDeCoや変額保険と違い、お金をいつでも引き出せますし、解約控除のような手数料もかかりません(投資信託解約時の「信託財産留保額」など、手数料はかかる場合があります)。したがって、教育資金・住宅資金・余暇資金など、ライフイベントに合わせてお金を貯めたい人にも向いています。お金を引き出しても、生涯投資枠は翌年に復活するため、再び非課税の投資をしてお金を増やすこともできます。将来に多数のライフイベントが待ち受ける20代、30代の人でも使いやすいですね。
また、iDeCoでは最長でも65歳未満までしか掛け金が出せません(会社員・公務員・国民年金の任意加入者。その他の方は60歳未満まで)。その点、NISAには年齢の上限がないので、60歳以上など、年齢を気にせずに投資したい場合にも利用できます。
変額保険を優先したい人
・死亡保障がほしい人
・運用を保険会社に任せたい人
・生命保険料控除を活用したい人
変額保険を優先したい人は、保障と資産運用を一緒に手に入れたい人です。iDeCoやNISAと違い、いざというときに死亡保険金を受け取れるのは最大のメリットといえます。
変額保険での資産運用は、特別勘定を選ぶ程度で、あとは保険会社がやってくれるので、手間がかかりません。また、生命保険料控除も受けられるので、毎年の所得税・住民税を減らすこともできます。iDeCoやNISAでは、生命保険料控除は受けられません。
基本的に保障と資産運用は分けて考える方が良いと思いますが、変額保険を選びたいという場合には、なるべくコストの安い商品を選ぶようにしましょう。
iDeCo・NISA・変額保険の違いとメリット・デメリット、各制度を優先したい人を紹介してきました。自分に一番合ったものを選んで、資産運用をスタートしましょう。
なお、iDeCo・NISA・変額保険は、併用することもできます。毎月の資金に余裕があるならば、併用することもぜひ検討してみましょう。
高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計120万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。