2024年4月「相続登記」が義務化 放置しているとペナルティがあるのは本当?
登記というと一部の人を除いて、生涯のうちに何度も行うことは少ないでしょう。たいていの人は、マイホームの購入で所有権と抵当権の登記をする程度ではないでしょうか。しかし不動産は、自分で購入して取得することばかりではなく、親族などから相続や贈与、遺贈などで権利を取得することもあります。
そんな中、近年の所有者不明の土地の増加にともなって、相続登記が2024年4月から義務化されました。また、民法相続法や不動産登記法の改正により、過去にあった相続にも影響がおよぶことになりました。「私には関係ない」では済まされない相続登記の改正を理解しておきましょう。
「相続登記」が義務化される
相続登記とは、亡くなった人が所有していた不動産の名義を相続人名義へ変更することをいいます。不動産の所有者が誰なのかは、法務局で管理されている登記簿(登記記録)に記録されています。人が亡くなると死亡届を市区町村に提出しますが、所有者が亡くなったからといって法務局が不動産の名義変更をしてくれるわけではありません。誰が相続してその不動産を引き継ぐのか書面によって証明し、所有権移転登記を申請しなければなりません。
これまで相続登記の申請は、登記をしないことで不利益を被ることが少なかったため相続人の任意とされていました。相続登記を行うには書面の準備はもちろんのこと労力、そしてお金もかかります。また、相続の話し合いで揉めて相続登記ができずにそのままということもあります。何十年も相続登記がされないままの不動産が多くなることで、不動産登記簿により所有者が判明しなかったり、持ち主の所在が不明で連絡がつかなかったりする不動産が増えてきました。そこで、2024年4月1日から相続登記の義務化が始まりました。
不動産登記簿より所有者がただちに判明しない土地や、所有権が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地のことを所有者不明土地といいます。国土交通省によると、所有者不明土地が生じる原因の約6割は相続登記未了です。
このような所有者不明土地では、所有者が誰かを探索するのに多大な時間と費用がかかり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、土地の利用や活用が阻害されています。そればかりではなく、土地が管理されず放置されているため、草が伸び放題の荒れ地となり隣接地に悪影響が発生しています。
2018年版土地白書によると、2016年調査の全国の所有者不明土地は九州本島を超える水準だと推計され、2040年には720万haを超えると予測されています。これはなんと北海道本土の90%にあたります。この所有者不明の土地問題は、今後人口減少時代に突入することにより深刻化しそうです。
相続登記では何をしなくてはならない?
相続登記が義務化になるのは、相続により取得したことを知った不動産(土地・建物)です。このほか遺産分割が成立した場合や遺言、相続人に対する遺贈(亡くなった人が残した遺言に基づき、その遺産の一部や全部を譲ること)をした場合も義務の対象になります。
相続の対象となる不動産の権利は、所有権のみです。所有権は土地・建物などを全面的に支配する権利で、所有物を使用・収益・処分できます。地上権や賃借権などの権利は相続しても登記義務の対象にはなりません。
相続登記の義務化により、相続人は不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をすることが法律上の義務になります。遺産分割で不動産を取得した場合は、遺産分割の内容に応じた登記を遺産分割から3年以内にする必要があります。
遺言書がある場合には、その相続人が相続の開始があったことを知り、かつ、遺言により不動産の所有権を相続したことを知った日から3年以内になります。期限のスタートは、特定の不動産を相続で取得したことを「知った日」からです。
ですから、相続人であっても不動産を相続しなかった人は、相続登記の義務はありません。
この不動産登記法の改正は、2024年4月1日より前に相続した不動産でもさかのぼって適用されるため、相続登記をする必要があります。ただし、この場合の期限は、2024年4月1日または不動産の相続による所有権の取得を知った日のいずれか遅い日から3年以内になっています。
法務局から催告を受けたにもかかわらず相続登記をしない場合で、正当な理由がない場合には10万円以下の過料の適用対象になります。放置しているとペナルティがあるというわけです。
なお、「正当な理由がある場合」とは、
・相続人が極めて多数にのぼり、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
・遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人間で争われているために相続不動産を誰が相続するのか明らかにならない場合
・相続登記の義務を負う人が重病その他これに準ずる事情がある場合
・相続登記の義務を負う人が配偶者からの暴力の防止及び被害者保護等に関する法律に規定する被害者で、その生命・心身に危害が及ぶ恐れがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
・経済的に困窮しているために、登記申請を行う費用を負担する能力がない場合
などが認められます。またこれらに該当しない場合でも個別の事案でその事情に正当性があれば、正当な理由があると認められます。
しかし、相続登記が義務化になったとはいえ、遺産分割協議がまとまらないこともあり得ます。この場合には、相続登記の義務を免れるために相続人であることをいったん法務局に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができます。これを「相続人申告登記」といいます。
相続人申告登記をする場合、相続人であることがわかる戸籍謄本などを提出しますが、申し出をした相続人だけしか義務履行をしたことになりません。相続人が複数いる場合には、それぞれ各人が相続人申告登記の申し出をしなければなりません。
相続登記はどんな流れで行う?費用はどのくらい?
相続登記と一言でいっても、法定相続や遺産分割、遺言で遺言執行者がいる場合などによって、登記申請人や必要な書面等が変わってきます。今回は通常の場合を想定して大まかな流れを説明していきます。
ステップ1:法定相続人と相続不動産の特定
相続人が誰になるか範囲を確認します。また相続する不動産を特定します。相続物件の中には固定資産税が非課税になっているものもあります。また未登記不動産がないかも確認しましょう。不動産の個数が多い場合には、土地の地番が入った地図で場所を調べます。
ステップ2:相続財産をどのように分けるか話し合う
遺言書があれば、遺言書に従って相続する人を確認しますが、相続人全員の合意があれば遺言書と異なる分け方も有効です。遺言書がない場合は、相続人間で財産をどのように分けるか話し合い、その結果として遺産分割協議書を作成します。
ステップ3:必要書類の準備
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)、住民票や印鑑証明書、固定資産評価証明書など必要な書類を用意します。
ステップ4:申請書の作成
相続登記申請書を作成します。申請書の書き方は書式が決まっていて必要な事項をもれなく記載しなければなりません。法務局で書き方を教えてもらい、自分で登記申請をすることもできます。登記漏れを防ぎ、時間と労力を節約したい人は、司法書士に登記申請を依頼すると確実です。
ステップ5:法務局へ申請書を提出
登記申請には、窓口申請、郵送申請、オンライン申請の3つの方法があります。オンライン申請は電子署名や電子証明書が必要になるので、司法書士以外の一般の人は窓口申請か郵送申請になるでしょう。登記申請書は不動産の管轄法務局に提出します。
ステップ6:登記識別情報通知の受領
申請書や添付書面に不備がなければ、10日から2週間程度で登記が完了します。登記が完了すると登記識別情報通知書が発行されます。これが一般的に「権利書」と呼ばれる書類です。登記事項証明書を発行してもらい、名義が正しく変更されているかを確認します。
相続登記の費用
相続登記の費用は、不動産の価格や手続きを司法書士や弁護士に依頼したかなどで異なってきます。相続登記を自分で行った場合でも、必要書類の取得費用と登録免許税の納付は必要になります。
相続登記にかかる費用として以下の3つがあります。
(1) 必要書類の取得費用
相続登記では、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)や住民票の写し、印鑑証明書などを添付しなければならず、相続人が多いと発行手数料がかかります。亡くなった人に関しては、出生から死亡までの戸籍が必要となるため、費用もかさみます。相続関係が複雑な場合には、必要書面も増えます。
(2) 登録免許税
登録免許税は、登記を申請するときに納める税金です。税額は土地や建物の固定資産税評価額に税率をかけて計算します。相続の場合には、税率が1000分の4です。たとえば1000万円の固定資産税評価額の土地なら、4万円の登録免許税の納付が必要です。
また、遺言によって相続人以外の人が取得する場合には、税率が1000分の20になります。住所が変更されていない場合には、住所変更登記は不動産の個数1つにつき、1000円かかります。ただし、2025年3月31日までは、相続で土地取得した人が相続登記をせずに亡くなった場合の相続登記と不動産の価格が100万円以下の土地にかかる登記は免税になっています。
(3) 専門家に支払う報酬
登記の代理ができるのは、弁護士と司法書士だけです。登記は司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は自由化されているので、個々の事務所で報酬額が変わってきます。登記申請だけでなく、必要書類の取得や遺産分割協議書などの作成を依頼すると報酬額は高くなります。報酬は5万円から15万円程度を目安にしましょう。
相続登記義務化に関連する不動産登記の改正の動き
所有者不明土地の状況を見ると、登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合が増えて、全体の24%になっています。原因は相続登記未了が61%、住所変更登記の未了が31%です(国土交通省の令和4年調査) 。
相続登記義務化だけでは、所有者不明土地をなくすことはできないため、2026年4月1日からは、所有者の住所変更登記等の義務化も始まります。この義務化の対象は、相続登記の義務化同様、所有権だけです。正当な理由がなく2年以内に住所変更や氏名変更の登記をしないでいると、5万円以下の過料の対象になります。
所有者の住所変更等の登記の義務化は、転居、結婚、離婚、商号変更などに伴う氏名、名称、住所について登記申請をしなければなりません。相続は一生に一度しかない出来事ですが、引っ越しをなどで転居が多い人は気をつけておく必要があります。
所有者の住所変更等の登記の義務化は、法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産にも適用されます。そのままになっている不動産があれば、早めに取り組みましょう。
池田幸代 株式会社ブリエ 代表取締役
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー