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新NISAでやってはいけない5つのこと

新NISAは、株や投資信託など、投資で得られる利益にかかる税金が一生涯ゼロにできるお得な制度です。2024年に制度が使いやすく改良されたため、多くの人が利用しています。加えて、2024年は市場が好調。本稿執筆時点(2024年7月5日)の前日には日経平均株価・TOPIXといった日本株の株価指数が史上最高値を更新しました。ダウ平均株価やS&P500といった米国株の株価指数も大きく上昇しています。

しかし、新NISAは万能な制度ではありません。いくら新NISAがお得な制度だといっても、投資商品で運用する以上、使い方次第では損失を抱える可能性があります。今回は、新NISAで賢く資産形成するために知っておきたい「新NISAでやってはいけないこと」を5つ紹介します。

新NISAでやってはいけないこと1:生活費がないのに投資する

新NISAの口座開設は2024年に入り急増しています。金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果」によると、2024年3月末時点の新NISAの口座数は約2323万口座です。2023年12月時点の旧NISA口座(一般NISA+つみたてNISA)の合計(速報)が約2136万口座ですから、約187万口座増加しています。前年同期の増加数は一般NISA約15万口座、つみたてNISA約58万口座で、合計約73万口座ですから、2024年は2023年の2.6倍近くも口座開設が多いことがわかります。

これだけ盛り上がっていれば、「これから新NISAを始めたい」と考える人もいるでしょう。しかし、だからといって、誰でも新NISAを始めていいわけではありません。特に、今生活費も確保していないという人は、生活費を確保することが先決です。

投資には元本保証がありません。新NISAであっても、それは同じです。もしもお金が大きく減ってしまったときに、生活費すらなくなってしまったとなれば、生活できなくなってしまいます。

ですから、新NISAを始める前に最低でも6か月分の生活費を確保しましょう。6か月分の生活費が確保できていれば、投資で多少損失が出ていても生活には困らないでしょうし、投資にじっくり取り組むことができます。また、ケガや病気、リストラといった、不測の事態にも対応できます。

もっとも、今貯蓄がまったくない方が6か月分の生活費が貯まるまで投資をしないでいると、投資を始めるまでに数年かかってしまうかもしれません。そこで、生活費が3カ月分くらい貯まり、お金が貯められる感覚が身に付いてきたら、月数千円程度の少額で投資を始めてみましょう。投資でお金が増えたり、減ったりする感覚が学べます。

6か月分の生活費が確保できたら、預貯金に振り向ける金額は減らし、徐々に投資金額を増やしていきましょう。

新NISAでは、積立投資専用のつみたて投資枠で年120万円、一括投資もできる成長投資枠で年240万円、合計で年360万円まで非課税で投資できます。これから投資をするのであれば、まずはつみたて投資枠でじっくり資産を増やすようにするとよいでしょう。

新NISAでやってはいけないこと2:商品選びを適当にする

新NISAのつみたて投資枠で投資できる商品は、金融庁の定める基準を満たし、届け出が行われた投資信託・ETFです。いずれも手数料が安く、長期・積立・分散投資で資産形成ができると考えられる商品が揃っています。

また、成長投資枠では上場株式・ETF・REIT・投資信託に投資ができます。また、こちらも長期の資産形成に向かない商品やリスクの高い商品は除外されています。成長投資枠でもつみたて投資枠の商品に投資することもできます。

新NISAではこれまでよりできる投資の幅が広がりました。しかし、だからといって適当に商品を選ぶと、思わぬ損を抱えるかもしれません。新NISAでは、次のポイントを踏まえて商品を選ぶようにしましょう。

商品のリスクを確認しよう

投資のリスクには、「投資の結果(リターン)のブレ幅」という意味があります。平たくいうと、リスクは投資することでお金が増えたり減ったりする可能性のことです。

投資のリスクは、どんな商品に投資するかで変わります。一般的には「債券→不動産→株」の順、「国内→先進国→新興国」の順にリスクが高くなります。投資信託は、中にどんな資産を組み入れているかでリスクの高低が決まります。

リスクが高ければ、それだけ大きな利益が得られる可能性がありますが、大きく損する可能性もあります。投資先の商品のリスクがどのくらいか、確認しましょう。

自分のリスク許容度を確認しよう

できるだけ儲けたいからと、リスクの高い商品ばかりに投資していると、値下がりしたときにお金を大きく減らしてしまいます。そうなっても大丈夫なのか、自分の「リスク許容度」も確認しましょう。

リスク許容度は、「自分が損にどのくらい耐えられるか」を表す度合いです。リスク許容度は、一般的に「収入が高い」「資産が多い」「年齢が低い」「投資経験がある」と高くなり、反対だと低くなります。ただ、いくら客観的にみてリスク許容度が高そうな人でも、リスクに対して慎重な考え方をしている人は、リスク許容度が低くなります。自分のリスク許容度を踏まえて商品を選びましょう。

投資にかかる手数料を確認しよう

投資をすると、ついどのくらい値上がりするかに注目しがちです。しかし、それよりも注目したいのが手数料です。手数料は、投資の利益を減らしてしまう要因だからです。もちろん、安いに越したことはありません。

たとえば、投資信託であれば保有中にかかる「信託報酬」に注目。長期間投資する投資信託の場合、少しの信託報酬の差がやがて大きな差を生み出すからです。わずか年0.2~0.3%の違いでも、新NISAのつみたて投資枠で数十年と投資すれば、数万円・数十万円の差になります。同じような国・投資先に投資しているなら、信託報酬のなるべく安い商品を選びましょう。

こんな投資信託にも要注意

たとえば「ターゲットイヤー型」。投資信託を保有する人が若いうちは株式の比率を高めて高いリターンを狙い、年齢が上がるにつれて徐々に債券の比率を高めてリスクを減らして堅実にリターンを狙うという風に、資産配分を自動的に変更する投資信託です。一見便利そうなのですが、リスクは年齢だけで決まるものではないことに要注意。長生きする人が増えているなか、50代・60代はまだ資産を増やす時期でしょう。にもかかわらず、債券が多くなってしまえば、お金を増やしにくくなってしまいます。

世の中の流行や関心に合わせて、特定の企業や業界に投資する「テーマ型」にも要注意。これまでも、IT、バイオ、SNS、ロボットなど、さまざまなテーマに投資する投資信託が販売されてきました。しかし、テーマ型はそのテーマの旬が過ぎると注目されなくなり、値上がりが期待できなくなります。

新NISAでは「毎月分配型」の投資信託は購入できませんが「隔月分配型」の投資信託は購入できます。2か月に1回分配金を出すタイプの投資信託です。分配金が出る前提の投資信託は、運用がうまくいっているときはまだいいのですが、運用がうまくいかなかったときには元本を取り崩して分配金を支払います。元本が減ってしまうと、その後値上がりしたとしても恩恵が少なくなってしまいます。

いずれの投資信託も、信託報酬が高いのもネックです。資産を堅実に増やそうと考えているならば、選ばないほうがよいでしょう。

新NISAでやってはいけないこと3:少々利益が出ただけで売ってしまう

新NISAで投資した商品は、いつでも売却・現金化できます。冒頭でも触れましたが、2024年の株式市場は好調なので、2024年の新NISAから投資をスタートさせた人の多くは、利益を抱えているでしょう。

しかし、ちょっと利益が出たからと売ってしまうと、複利効果が生かせず、お金がなかなか増えていきません。複利効果とは、運用で得た利益や利息を再び投資することで、その利益や利息が新たな利益を生み出す効果のことです。

複利効果は、時間をかけるほどお金が増えるスピードが増します。

たとえば、毎月3万円ずつ、30年にわたって新NISAのつみたて投資枠で投資したとします。このとき、年利1%・3%・5%で運用できたとしたら、資産は次のようになっています。

<複利で運用した成果>

(株)Money&You作成

30年間の積立金額の合計は1,080万円。それが、年利5%の複利で運用した場合には2,497万円に増えています。また複利の場合、グラフのとおり、年を追うごとにお金が加速度的に増えます。

新NISAでは商品を売却しても売却枠が翌年に復活するので、旧NISAよりも資産を売りやすくなりました。しかし、少し値上がりしたからといって売ってしまうと、複利効果を生かせなくなってしまいます。将来に向けて大きく増やしたいのであれば、安易に売らない方がよいでしょう。

なお、お金は使うために貯めるのですから、結婚、出産、住宅購入、車の購入、子どもの学校入学、親の介護、転職・退職、自分の介護といったライフイベントがあり、そこにお金がかかるのであれば、使う分だけNISAの資産を売却して、お金を使うことは問題ありません。ただ、お金を使ったあとも投資・運用は継続することが大切です。

新NISAでやってはいけないこと4:値下がりにあわてて売ってしまう

市場はときに暴落します。たとえ今は株式市場が好調でも、過去の市場を振り返ると、おおむね数年に一度は暴落しているのです。こんなときには、どんな商品であっても無傷ではいられません。

しかし、暴落時に慌てて売ってしまうと、一時的に損失を抱えているだけかもしれないのに、損失が確定してしまいますし、そのまま保有しておけば、今後、値上がりした時に売却して利益を得られるかもしれません。

たとえば、米国の株式指標のひとつS&P500に、リーマンショックのあった2008年9月から2024年6月まで月1万円ずつ投資していた場合、資産総額は次のようになっています。

リーマンショックから毎月1万円ずつ投資していると?

(株)Money&You作成

積立金額の合計は190万円なのに対し、資産総額は873万円になっています。途中、コロナショックなどで一時的に資産が減る場面もあるのですが、それを乗り越えて資産が増えています。

これまでも市場が暴落したことはありますが、暴落して市場が下がり続け、なくなってしまったということはありません。これまでの傾向を見ていると、数年の間には、市場は暴落から回復しています。幸い、新NISAになって投資した商品は無期限で非課税にできるようになっていますので、暴落があっても慌てず、運用を続けましょう。

新NISAでやってはいけないこと5:長期・積立・分散投資をやめること

投資をする目的は人それぞれだと思いますが、中長期的に安定してお金を増やすことを目的に投資をしている人は少なくないでしょう。中長期的に安定的にお金を増やすことが目的なら投資の基本である「長期・積立・分散」を実践することです。長期・積立・分散投資を続けていれば、資産が堅実に増やせる可能性が高いでしょう。

実際、金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」や「はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック」では、毎月同じ金額ずつ国内外の株式と債券に分散して積立投資した場合の年間収益率が紹介されています。これによると、1985年以降、保有期間20年の場合は投資収益率が年2%〜8%の間に収まっていて、この期間では元本割れとなっていません。

保有期間5年では、利益が出ることもありますが、損失も出ることがあります。もちろん、今後も同様の成果が得られるとは限りませんが、腰を据えてじっくりと長期・積立・分散投資を実践することの大切さがわかるでしょう。

長い期間投資をしていれば、途中で不測の事態があるなどして、投資を続けるのが厳しくなることもあるでしょう。その場合には、一時期中断するもしくは、金額を少なくして続けることもできます。堅実にお金を増やすのであれば、できるだけやめずに、長く続けた方がよいでしょう。

新NISAでやってはいけないことを5つ、紹介してきました。確かに新NISAは良い制度ですが、使い方次第では損してしまうこともあるので要注意。正しく活用して、資産形成に役立てていきましょう。

高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー

一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計160万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

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