現行の健康保険証が使えなくなる…マイナ保険証のほうが得なのか
病気やけがで医療機関のお世話になるときに欠かせない健康保険証。しかし、お手元にある現行の保険証はいずれ使えなくなり、マイナンバーカードを保険証代わりに利用する「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行します。では、マイナ保険証になると何が変わり、どう得になるのでしょうか。また、マイナ保険証を使わないでも問題はないのでしょうか。
現行の健康保険証は使えなくなる
日本は「国民皆保険」誰もが何らかの保険に加入しているため、手元にカードまたは紙の健康保険証をお持ちでしょう。しかし、これらの現行の健康保険証は、2024年12月2日以降、新規発行や再発行がされなくなります。
現行の健康保険証が新規発行されなくなっても、すぐに使えなくなるわけではありません。現行の健康保険証は、12月2日から最長1年間、2025年12月1日までは利用できます。ただし、有効期限が2025年12月1日以前の場合は、その有効期限までしか使用できません。たとえば、2024年8月1日に発行された国民健康保険や後期高齢者医療制度の保険証の有効期限は「2025年7月31日まで」に設定されています(自治体によって異なる場合もあります)。
とはいえ、いずれにせよ現行の健康保険証は2025年12月1日をもって使えなくなってしまいます。
では、今後は病院や薬局での負担が10割になるのかといえば、そんなことはありません。現行の健康保険証が使えなくなる代わりに、今後はマイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。マイナ保険証を利用することで、原則3割負担で医療機関を利用できます。また、後述する「資格確認書」を利用することでも、原則3割負担で医療機関を利用できます。
健康保険証の代わりに使えるマイナ保険証
マイナ保険証は、健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカードです。マイナンバーカードを取得していれば、マイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みをすることでマイナンバーカードをマイナ保険証として使うことができます。
マイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みは、以下の3つの方法でできます。
①医療機関や薬局にある顔認証付きカードリーダー
マイナンバーカードをかざして本人確認を行うことで、健康保険証利用の登録ができます。
②スマホやパソコンで利用できる「マイナポータル」
マイナンバーカードを持っている人が使える「マイナポータル」から登録ができます。
③セブン銀行ATM
セブンイレブンなどにあるセブン銀行のATMでも登録ができます。
健康保険証の利用申し込みが完了すれば、マイナ保険証が使えるようになります。
マイナ保険証は、次の方法で利用します。
①医療機関の受付にある顔認証付きカードリーダーの読み取り口にマイナンバーカードを置く
②顔認証または4桁の暗証番号(マイナンバーカードの交付時に設定した「利用者証明用電子証明書」の暗証番号)で本人確認を行う
③画面の案内にしたがって情報提供の可否を選択
(情報提供に同意すると、医師や薬剤師が過去の医療情報を参照できるようになる)
いずれも、画面の案内に従って操作すればOK。特に難しいこともありません。
マイナ保険証のメリット
マイナ保険証を利用すると、現行の健康保険証にはなかったメリットが得られます。
マイナ保険証のメリット1:データに基づくより良い医療が受けられる
病院や薬局の受付時にマイナ保険証を利用し、情報提供に同意すると、医師や薬剤師にこれまで処方された薬や特定健診の結果などをスムーズに共有できます。一般の方には難しい情報でも簡単に伝えることができますし、初めて利用する病院・薬局でも身体の状態を踏まえたより良い医療を受けられるようになることが期待できます。
マイナ保険証のメリット2:高額療養費制度・限度額適用認定の手続きが不要に
高額療養費制度は、1か月(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。ただ、高額な医療費をいったん立て替えて支払い、後から払い戻しを受ける必要がありました。事前に「限度額適用認定」の手続きをしておけば、こうした立て替えは発生しないのですが、書類の手続きは少々面倒なものがありました。
マイナ保険証を利用すれば、はじめから高額療養費・限度額適用認定を受けたのと同じ状態になるため、自動的に限度額を超える支払いが免除されます。
マイナ保険証のメリット3:医療費が少し安くなる
マイナ保険証を利用すると、現行の保険証や資格確認書を利用するよりも初診料が20円、再診療が10円安くなります。それほど大きな金額ではないと思われるかもしれませんが、大きなケガや病気をしたなどで医療機関に何度もかかった場合や、高齢で持病の治療をしている場合など、マイナ保険証を利用して医療機関を利用するほど、医療費に差がつきます。マイナ保険証を利用すれば、そうした差を気にする必要がなくなります。
マイナ保険証のメリット4:医療費の確定申告が簡単
1年間に支払った医療費(家族の分を含めた合計)が一定額以上となった場合は、確定申告で「医療費控除」という手続きをすることで、所得税の還付が受けられます。
マイナ保険証を利用して支払った医療費の情報は、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」から確認できます。さらに、マイナポータルと国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を連携させることで、確定申告書に1年間の医療費を自動で入力できます。
マイナポータルの情報を利用して医療費控除をする場合、医療機関で受け取った領収書などを保管しておく必要もないので便利です。
マイナ保険証のメリット5:就職・転職・引越しをしても保険証として使える
就職・転職・引越しなどのとき、保険証の切り替えや更新が必要になる場合があります。保険証を切り替えている間に医療機関を利用したい場合には、一時的に費用を全額立て替えて、後から保険証を提示して返還してもらったり、「療養費」の請求をして払い戻してもらったりする手間がかかります。
しかし、マイナ保険証なら就職・転職・引越しなどがあってもそのままマイナ保険証を使い続けることができます。また、国民健康保険や後期高齢者医療制度を利用している場合も、保険証を更新する手間がなくなります。
マイナ保険証には問題点も…
一方、マイナ保険証にも問題点があります。
マイナ保険証の問題点1:マイナ保険証は毎回受付が必要
少し面倒なのが、マイナ保険証を利用した場合には毎回カードリーダーにマイナ保険証を通して受付をしなければならないこと。現行の健康保険証の場合は、1回受付で提示すればその月じゅうは提示が不要でしたが、マイナ保険証の場合は同じ月に再度受診する場合にもマイナ保険証の提示が必要です。
マイナ保険証の問題点2:マイナンバーカードの有効期限が切れると使えない
マイナンバーカードの有効期限は通常10年、未成年者は5年です。また、マイナンバーカードに付いている電子証明書の有効期限は5年です。マイナ保険証は電子証明書を利用するため、たとえマイナンバーカードの有効期限がまだ切れていなくても、電子証明書の有効期限が切れてしまえば利用できなくなります。有効期限の切れる3か月ほど前に、電子証明書の更新のお知らせが届きますので、早めに手続きをしましょう。
マイナ保険証の問題点3:情報漏えい・悪用の心配がある
マイナンバーカードには、顔写真付きで住所が記載されている上、さまざまな個人情報がひもづいています。マイナンバーカードを紛失したり、マイナンバーカードの暗証番号を他人に知られたりすれば、悪用されてしまう可能性があります。
マイナ保険証の問題点4:付加給付に気づかないこともある?
マイナンバーカードにはさまざまな情報が記載されていますが、反対に「保険者」が記載されていません。保険者とは、健康保険を運用している主体(団体)のこと。大きくわけて全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合があります。このうち、健康保険組合は従業員数が一定以上の大企業が会社の福利厚生の一環で従業員に用意しているものです。
健康保険組合では、独自に「付加給付」を行なっている場合があります。付加給付は、健康保険組合が行っている、より手厚い健康保険の給付です。
たとえば、トヨタ自動車の「トヨタ自動車健康保険組合」の場合、高額な医療費がかかった場合の保障が充実しています。
1か月(厳密には、毎月1日から末日までの1か月)に100万円の医療費がかかった場合、「高額療養費制度」によって、自己負担額は8万7430円にできます(70歳未満で年収が約370万円〜約770万円の人の場合)。これでもかなりの負担軽減です。
この点、トヨタ自動車健康保険組合なら医療費が100万円でも自己負担が2万円で済むようになっています。6万7000円以上も自己負担が減らせるのは大きいですね。
また、医療費の自己負担額が4万4400円を超えた場合、その超えた分の80%に当たる金額を無利子で貸し付けてくれます。
さらに、他人の行為が原因でケガをした場合の医療費(本来、加害者が支払うもの)の支払いが遅れた場合などに前払いする治療費を立て替えてくれるしくみもあります。
しかし、マイナ保険証を利用していて保険者がそうした付加給付を用意していることに気づかなければ、付加給付が利用できないかもしれません。
マイナ保険証を持っている人には、自分が加入する健康保険組合の保険証の番号や資格取得年月日などの情報が記載された「資格情報のお知らせ」が届きます。いずれもマイナンバーには記載されていません。普段、保険者を気にすることはないと思いますが、改めて、自分が加入している保険者を確認し、給付内容などを確認しておきましょう。
マイナ保険証を持っていない人はどうなる?
ここまでマイナ保険証について紹介してきましたが、一方で「マイナ保険証を利用したくない」という声も根強くあります。厚生労働省の資料によると、2024年9月時点のマイナ保険証の利用率はわずか13.87%。現行の健康保険証の廃止に反対する声も小さくないのが事実です。
では、マイナ保険証がないと10割負担になるのかというと、そうではありません。マイナ保険証の取得はそもそも任意です。マイナ保険証を持っていない人には、「資格確認書」が届きます。
資格確認書が届く人は、具体的には次のような人です。
・マイナンバーカードを取得していない人
・マイナンバーカードの健康保険証の利用登録をしていない人
・マイナンバーカードの健康保険証の利用登録を解除した人
・マイナンバーカードの電子証明書の更新を忘れた人
・マイナンバーカードを返納した人
資格確認書は、現行の健康保険証と同様のカードタイプ。そして現行の健康保険証と同様に、医療機関で提示することで、原則3割負担で受診ができます。
資格確認書の有効期限は5年(自治体により異なる)で、有効期限が切れる前には新しい資格確認書が送られてきます。つまりは、現行の健康保険証とそれほど変わらずに利用ができるというわけです。
ただ、上で紹介したようなマイナ保険証のメリットは得られないので、その点は押さえておきましょう。
現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行することを紹介してきました。今後、よりお得になっていくのはマイナ保険証だと考えられますが、問題点があることもまた事実です。双方のメリット・デメリットを踏まえてどちらを利用するのかを決めるようにしましょう。
高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計170万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。