新NISAで人気の全世界株、米国株、高配当株ファンドの違いはどこにある?
「新NISA元年」の2024年の市場は当初、日経平均株価・S&P500などが史上最高値を更新するなど盛り上がりを見せていたものの、8月に大暴落を経験しました。しかし、暴落も長くは続かず、12月時点では8月の大暴落前の水準をおおむね回復しています。
新NISAの投資先として人気があるのは、「全世界株インデックスファンド」「米国株式インデックスファンド」「高配当株ファンド」。どれかに投資している方が多いことでしょう。ただ、人気だからという理由だけでこれらの投資信託に投資していると、8月のような暴落がまたやってきたときに驚いてしまうかもしれません。自分の大切なお金の投資先ですから、どんな投資信託なのか、どんなリスクがあるのかを押さえておきましょう。
今回は、新NISAで投資できる投資信託で人気の「全世界株式インデックスファンド」「米国株式インデックスファンド」「高配当株ファンド」がそれぞれどんな商品なのか、どんなリスクがあるのかを紹介します。
全世界株式インデックスファンドって何?
全世界株式インデックスファンドは、全世界の株式市場に低コストで分散投資できる便利な商品。世界全体の経済成長の恩恵を受けながら、資産を増やす期待ができます。インデックスファンドですので、全世界株式の値動きを表す株価指標と連動することを目指します。
全世界株式インデックスファンドがベンチマーク(連動の目標)にする代表的な全世界株価指数に「MSCI All Country World Index」(以下MSCI ACWI)があります。MSCI ACWIに連動するインデックスファンドには「オルカン」の愛称で知られる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」[信託報酬:年0.05775%]があります。
MSCI ACWIは先進国23か国と新興国24か国の大型株で構成されており、世界株式市場の時価総額約85%をカバーしています。投資先の地域の約6割は米国、投資先の約9割が先進国です。各国の資産は各国の通貨で購入するため、通貨も全部で37に分散されています。
<MSCI ACWIの投資先の地域の割合>
MSCI All Country World Indexのファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
また、MSCI ACWIの投資先の業種や組み入れ上位銘柄は次のようになっています。
<MSCI ACWIの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄>
MSCI All Country World Indexのファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
一番多い業種は「情報技術」。組み入れ上位10銘柄には米国の代表的なテクノロジー企業「マグニフィセント・セブン」(グーグル・アップル・メタ(旧フェイスブック)・アマゾン・マイクロソフト・テスラ・エヌビディアの7社)が網羅されています。
2024年11月末時点で、MSCI ACWIは2650銘柄で構成されていますが、これらの上位10銘柄だけで全体の約22%を占めています。
<MSCI ACWIのトータルリターンとリスク>※ドルベース
MSCI All Country World Indexのファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
トータルリターンは投資によって得られた収益率、リスクはリターンの変動幅の大きさを示します。MSCI ACWIの直近10年のトータルリターンは年率9.84%、リスクは年率14.83%です。
米国株式インデックスファンドって何?
米国株式インデックスファンドは、米国の株式市場に低コストで分散投資ができる商品です。
米国株式インデックスファンドがベンチマークにする米国株価指数で人気が高いのが「S&P500」。米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)に上場する銘柄の中から、時価総額の大きな主要500社の時価総額をもとに算出される株価指数です。米国株式市場の時価総額約80%をカバーしています。S&P500に組み込まれる銘柄の条件には「4四半期連続黒字維持」などがあります。
S&P500に連動するインデックスファンドには「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」[信託報酬:年0.09372%]などがあります。
S&P500の投資先の業種と組み入れ上位10銘柄は次のようになっています。
<S&P500の投資先の業種・組み入れ上位10銘柄>
S&P500のファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
S&P500で一番多い業種は情報技術であり、MSCI ACWIよりも割合は6.2%ほど多くなっています。割合の違いこそ多少ありますが、全世界株とは業種の差はあまりないのも特徴です。組み入れ上位10銘柄もほぼ同じです。
<S&P500のトータルリターンとリスク>※ドルベース
S&P500のファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
違いがあるのがS&P500のトータルリターンとリスクです。3年・5年・10年の期間で見ると、MSCI ACWIよりもS&P500のほうが年3〜4%ほどトータルリターンが高くなっています。それでいて、リスクは1%ほどしか変わっていません。
MSCI ACWIの場合、成長力の面で米国株式を下回る国の株式にも投資しているのに対し、S&P500は米国株式に100%投資しています。その結果がトータルリターンの差になっています。
この運用結果を見ると、過去10年では全世界株よりも米国株の方が良かったということになりますが、あくまでも過去の結果であり、今後もS&P500がMSCI ACWIを上回り続ける保証はない点に注意が必要です。
高配当株ファンドって何?
配当利回りの高い高配当株に分散して投資できるのが「高配当株ファンド」や「高配当ETF」です。
米国の高配当株ファンド・ETFで注目されているものに、「バンガード・米国高配当株式ETF(VYM)」[経費率:年0.06%]と「シュワブ・米国配当株式ETF」(SCHD)[信託報酬:年0.06%]があります。
バンガード・米国高配当株式ETF(VYM)
VYMは、大型株のうち配当利回りが市場平均を上回る銘柄で構成されているETFです。
VYMの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄は次の通りとなっています。
<VYMの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄>
VYMのファクトシート(2024年11月末時点)より(株)Money&You作成
全世界株式や米国株式と違い、一番多い業種は金融です。情報技術はそれほど多くありません。理由としては、情報技術の銘柄は、事業の成長に資金を投じるので、配当金はあまり出さない傾向にあるからです。
組み入れ銘柄上位を見ると、トップのブロードコムは半導体メーカー、JPモルガンは金融業、エクソンモービルはエネルギー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やジョンソン・エンド・ジョンソンは生活用品という具合に、業種もさまざまですが、比較的景気に左右されにくいディフェンシブ銘柄が多い印象です。
多くの高配当株ファンド・ETFは銘柄数を数十銘柄に絞っていますが、VYMは投資対象が非常に多いのが特徴です。VYMの銘柄数は2024年11月末時点で536銘柄と、S&P500と同じくらいになっています。
<VYMのトータルリターンとリスク>※ドルベース
Morningstarのウェブサイトより(株)Money&You作成
リスクは全世界株より低くなっています。その理由としては、優良な高配当株は下落相場でも安定的に配当を出す傾向があるからです。値下がり局面になると投資家からの需要が大きくなるため、相場全体の下落に強く、また下落から一足早く抜け出す傾向にあります。
VYMの分配金利回りは2024年12月3日時点で2.72%です。2019年12月以降の分配金利回りの推移は以下の通りです。
<VYMの分配金利回り(2019年12月〜)>
Seeking Alphaのデータより
2020年に急上昇しているのはコロナショックによる株価下落の影響です(分配金利回りは「株価下落=投資信託の基準価額の下落」によって上昇するため)。基本的には、3%前後で推移していることがわかります。
なお、高配当ファンドはETFだけでなく、投資信託でも低コストのものがたくさん出ています。「SBI・V・米国高配当株式インデックス・ファンド(年4回決算型)」[信託報酬:年0.1238%]や「楽天・米国高配当株式インデックス・ファンド」[信託報酬:年0.192%]はいずれもVYMに投資する投資信託です。
投資信託はETFと違って一定額ずつ少額から購入できるうえ、金額指定で積立投資がしやすいのがメリットです。
シュワブ・米国配当株式ETF(SCHD)
SCHDは、「ダウ・ジョーンズUSディビデンド100インデックス」という株価指標に連動するETFです。10年以上連続で配当金を支払っている一定規模以上の米国株から選定された上位100銘柄で構成されています。VYMと並び、人気のあるETFです。
SCHDの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄は次の通りとなっています。
<SCHDの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄>
SCHDのファクトシート(2024年9月末時点)より(株)Money&You作成
VYMと同様、もっとも多い業種は金融で、情報技術はそれほど多くありません。ヘルスケア・生活必需品・資本財・エネルギーの割合はVYMよりも多くなっています。また、VYMでは7.2%含まれていた公益事業には投資していないのが大きな違いです。
組入銘柄上位10銘柄も、共通しているのはホーム・デポとアッヴィだけで、組入銘柄数も101とVYMより少なくなっています。上位10銘柄だけで全体の約41%を占めています。
<SCHDのトータルリターンとリスク>※ドルベース
Morningstarのウェブサイトより(株)Money&You作成
SCHDのトータルリターンは3年で見るとVYMより低いのですが、5年・10年で見るとVYMを上回っています。一方でリスクも、5年・10年で見るとVYMより少々高くなっています。
また、2019年12月以降の分配金利回りの推移は以下の通りです。
<SCHDの分配金利回り(2019年12月〜)>
Seeking Alphaのデータより
SCHDの分配金利回りは2024年12月3日時点で3.35%と、VYMの2.72%を上回っていることにも注目です。
以前はSCHDに投資する投資信託は日本にありませんでした。しかし、2024年9月に楽天投信投資顧問からSCHDに連動する成果を目指す「楽天・高配当株式・米国ファンド(四半期決算型)」が登場。設定間もないにもかかわらず、すでに800億円以上を集めています。
さらにSBIアセットマネジメントもそれに追随する形で2024年12月20日に「SBI・S・米国高配当株式ファンド(年4回決算型)」の運用を開始する予定。信託報酬(税込)が年0.1238%と「楽天・高配当株式・米国ファンド(四半期決算型)」よりも安く設定されています。
日本株にも高配当株ファンドはあります。
たとえば、三菱UFJアセットマネジメント「日経平均高配当利回り株ファンド」[信託報酬:年0.693%]は、日経平均株価の構成銘柄のうち、予想配当利回りの高い30銘柄程度に投資をすることで、配当と中長期的な値上がり益を得ることを目指す投資信託です。
日経平均高配当利回り株ファンドの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄は次の通りです。
<日経平均高配当利回り株ファンドの投資先の業種・組み入れ上位10銘柄>
日経平均高配当利回り株ファンドの月次レポート(2024年10月31日時点)より(株)Money&You作成
日経平均株価の構成銘柄なので大手企業ばかりです。そのなかから、予想配当利回りの高い銘柄を選んで投資しています。
アクティブファンドながら信託報酬は年0.693%と控えめ。実質コスト(投資家が実際に負担した手数料)も0.350%(2023年12月16日~2024年6月17日)と比較的安くなっています。新NISAのつみたて投資枠でも投資できるとあって人気のファンドとなっています。
<日経平均高配当利回り株ファンドのトータルリターンとリスク>
楽天証券のウェブサイトより(株)Money&You作成
特筆すべきはトータルリターンの高さ。VYMやSCHDを上回っています。リスクも相応に高く、今後も好調が続くとは限らない点には注意が必要ですが、運用の面でもうまくいっているといえます。
<日経平均高配当利回り株ファンドの基準価額・純資産総額・分配金>
日経平均高配当利回り株ファンドのデータ(2024年12月5日時点)より(株)Money&You作成
分配金は年2回、6月・12月の15日(休業日の場合は翌営業日)に決算を行なって支払います。当初から100円台後半、2022年〜2023年には300円台の分配金を支払っていて、分配金利回りも3.19%と高くなっています。基準価額も総じて右肩上がりで、純資産総額も2022年ごろから急増しています。
分配金健全度は5年で81.95%ですので、特別分配金も多少出してはいますが、定期的に分配金が欲しい方ならば利用価値のある商品といえます。
全世界株、米国株、米国高配当株のメリットやリスクを徹底比較
全世界株、米国株、米国高配当株のトータルリターン・リスクを比較してみましょう。以下のETFを元に値動き、リターン、リスクを見ていきます。
【全世界株】バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)
【米国株】バンガードS&P 500 ETF(VOO)
【米国高配当株】バンガード・米国高配当株式ETF(VYM)
なおVTの連動指数は「FTSE All Global Cap Index」ですが、「MSCI ACWI」とリスク・リターンで大きな差はないので、こちらで代替することにします。
<トータルリターン・リスクの比較表>※ドルベース(2024年12月5日時点)
Morningstarのウェブサイトをもとに(株)Money&You作成
10年で比較すると、トータルリターンは米国株>米国高配当株>全世界株の順に多くなっています。それに対し、リスクは米国株>全世界株>米国高配当株となっています。リスク効率で見ると、おおむね、米国株>米国高配当株>全世界株となっています。
<リターンの推移(直近10年・2014年12月1日=100)>
Investing.comの情報をもとに(株)Money&You作成
過去10年のVT・VOO・VYMの値動きを表したグラフも見てみましょう。2014年12月1日を100として、そこからの値動きを表しています。
値動きの方向性はどれも似ているのですが、S&P500と連動するVOOが一番大きく上下していることがわかります。これは、リターンも高いものの、リスクも高いことを示しています。全世界株や米国高配当株の値動きはVOOに比べると控えめではありますが、総じて右肩上がりで堅調だったことがわかります。
一方で、値下がりするタイミングに注目すると、米国高配当株の値下がり幅が少ないことも読み取れます。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻以後の値下がりは抑えられています。
以上より、全世界株・米国株・米国高配当株の特徴・メリットとリスク・注意点をまとめたました。
<特徴・メリットとリスクの比較表>
(株)Money&You作成
「オルカン」のような全世界株にするか、「S&P500」のような米国株にするかは分かれるところですが、相応にリスクの高い商品です。世界中に分散投資をしてリスクを下げ、負けない運用をするなら全世界株式、米国の成長が全世界株式を上回ると考えるならば米国株式が向いています。
高配当株は市場の下落に比較的強いのがメリットです。特に2024年8月に起きた暴落のように、相場全体の下落に合わせて値下がりした場合は、高配当の優良銘柄が買われるのが、値下がりしづらく、下がったとしてもいち早く値上がりする傾向にあります。
下落相場の間も定期的に分配金がもらえるのであれば、心の安定を得ながら市場の回復を待ちやすいですよね。値下がり耐性を高めるために、日本や米国の高配当株をポートフォリオに一部組み込むのは投資戦略として有効でしょう。
それぞれの値動きを把握していただき、みなさまの投資行動に活かしていただければ幸いです。
※本記事で紹介した個別銘柄については、あくまでも参考として申し述べたものです。投資の最終決定は各自の責任でお願いいたします。
頼藤 太希(よりふじ・たいき) マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki