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投資判断の新指標?「DE&I」とはいったい何か

近年、多くの企業が「DE&I(DEI)」に取り組んでいます。DE&Iを経営理念として掲げ、その取り組みを外部に発信している企業もたくさんあります。「DE&I?」という方も多いかもしれませんが、DE&Iの取り組みが企業価値を高め、株価上昇の要因になるかもしれないといったら、気になるのではないでしょうか。

今回は、DE&Iとは?の基本とDE&Iの企業の取り組みをご紹介します。また、米国にはDE&Iに取り組む企業に投資できるETF(上場投資信託)もあるので、確認してみましょう。

そもそもDE&Iってどんな考え方?

DE&Iは「Diversity, Equity and Inclusion」(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの頭文字をとった言葉です。ダイバーシティは「多様性」、エクイティは「公平性」、インクルージョンは「包括性」と訳されます。またDE&Iは「ディーイーアンドアイ」と読まれることもあります。もともとは「D&I」だったのですが、近年ではそれに「E」が追加され「DE&I」と呼ばれるようになりました。

DE&Iをひとことでいえば、従業員のさまざまな個性を生かすことが企業の価値をより高めるといった考え方です。

DE&IのD・E・Iは、それぞれ次のようなことを指しています。

【D(ダイバーシティ・多様性)】

ダイバーシティは、企業が多様な人材を受け入れ、共存することです。ダイバーシティは、性別・年齢・人種・国籍・障害といった、外から判断しやすい「表層的ダイバーシティ」と、性格・価値観・嗜好・宗教・性的指向といった、外からは判断しにくい「深層的ダイバーシティ」の2つに分類されます。企業には従業員の属性の違いを理解しながら経営をすることが求められています。

【E(エクイティ・公平性)】

エクイティは、従業員の多様性を認めたうえで、一人ひとりに合わせた支援や配慮を行うことです。従業員が置かれている状況はさまざま異なります。たとえば、子育てしている従業員もいれば、介護をしている従業員もいるでしょう。そうした従業員であっても力を発揮できるように制度や設備などを整え、個々に柔軟な働き方をしてもらうことが公平性につながります。

【I(インクルージョン・包括性)】

インクルージョンは、さまざまな従業員が組織内で尊重されたり価値を認められたりすることです。せっかく多様性のある従業員が揃っていても、声の大きい人しか意見を出せなかったり、意思決定に参加できなかったりする状態は、包括性があるとはいえません。どの従業員であってもその違いが尊重されて、活躍できる状態になっていることが大切です。

また、DE&Iの推進には、「アンコンシャス・バイアス」を認識することが欠かせません。アンコンシャス・バイアスは「無意識の思い込み」「無意識の偏見」といった意味。何かを見聞きしたときに、「こうに違いない」と思い込んでしまうことをいいます。

たとえば「親が単身赴任している」と聞いたら、父親をイメージするのではないでしょうか。でも本当は、母親が単身赴任しているかもしれません。この情報からは父親か母親かはわからないにも関わらず、「仕事=父親(男)」と思い込んでしまうのです。

これは日常のアンコンシャス・バイアスのほんの一例ですが、アンコンシャス・バイアスは職場にもたくさんあります。悪気はなくても、ある一定の属性の人が差別・排除されたり、採用・評価・昇進の際に不利になったりするといったことがあるのです。

職場のアンコンシャス・バイアスに気づき、それを見直すことがDE&I推進の第一歩。企業では研修なども行われています。

企業がDE&Iを推進することによるメリットは大きく3つあります。

●DE&Iを推進するメリット(1)イノベーションが生まれやすい

企業がDE&Iに取り組むと、性別・年齢・価値観などが異なるさまざまな人材が集まります。そうした人材からの多様な視点が集まることで、商品やサービスがブラッシュアップされ、これまでなかったような斬新なアイディアや価値を生み出す期待ができます。また、多様な従業員がいることで、より幅広い顧客ニーズに対応できます。たとえば、既存の商品でも「女性向けだとどうか」「外国人向けはどうか」「高齢者向けならどうか」などと考えられるようになり、新たな市場が開拓できる可能性が高まります。

●DE&Iを推進するメリット(2)採用競争力が高まる

多くの企業は、人材不足に悩まされています。DE&Iを推進している企業であれば、さまざまな属性を持つ人を受け入れやすくなります。また、DE&Iに積極的な企業は従業員も働きやすいですし、働きやすいとなれば優秀な人材が集まりやすく、定着率も高くなります。

●DE&Iを推進するメリット(3)リスクの回避にもつながる

DE&Iに配慮していない企業は、多様性を認めない企業とみなされてしまう恐れがあります。また、DE&Iに対する意識が低いことから、DE&Iに配慮しない差別的な言動や行動を(意識的・無意識的問わず)とってしまうこともあるかもしれません。すると、「あの会社は差別的だ」などと悪い評判が広まって企業や製品の価値が下がる「レピュテーションリスク」も高まりかねません。

一方、DE&Iを推進している企業は、差別的な言動や行動にも配慮ができるので、レピュテーションリスクも抑えられ、信頼を獲得しやすいでしょう。

DE&Iの取り組みを開示している企業はたくさんある

日本企業でもDE&Iの取り組みが進んできています。米国のソリューションプロバイダ大手、Workdayが2023年に実施した調査によると、DE&Iへの取り組みを1つ以上実施している日本企業の割合は90%。79%がDE&I用の予算編成を行っていると回答しています。

実際、DE&Iに取り組んでいることを表明する企業はたくさんあります。

たとえば、日用品メーカーの花王は「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針」を打ち出しています。花王のウェブサイトには、次の内容が具体的な取り組みや目標とともに示されています。

⚫︎社員のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン
・女性活躍推進の取り組み
・障がいのある社員の活躍推進に関する取り組み
・LGBTQ+社員の活躍推進の取り組み
・インクルーシブな組織風土醸成
ビジネスパートナーとのダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン
・責任ある原材料調達
・お取引先に求めるパートナーシップ要件に基づくサプライヤー総合評価
・独立小規模パーム農園支援(SMILEプログラム)
・グリーバンスメカニズムの導入
●社会のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン
・ユニバーサルプロダクトデザイン
・パーパスドリブンなブランド

*花王のウェブサイトより抜粋

花王の場合、DE&Iは、単に社員に対してだけでなく、ビジネスパートナー、さらには社会に対してもその取り組みを広げていることがわかります。それぞれの方針に対して具体的な目標を設定しています。たとえば「2030年までに女性管理職比率が全社員女性比率と同じになるようにする」といった目標を掲げています。

ゲームでおなじみの任天堂では「社員一人ひとりが力を発揮できる環境づくりに努めます。」として、その具体的な取り組みが記されています。米国の任天堂ではDE&Iに関する研修を行い、「ERG」と呼ばれる社員のグループ活動を通して社員の結束・相互理解を深めています。日本の任天堂では女性活躍を推進していて、正社員に占める女性の割合が30%以上に上昇。同性パートナーのいる社員は社内制度で婚姻と等しく扱うパートナーシップ制度や、高年齢者の安定雇用に関する支援を行っています。

求人・飲食・結婚・旅行・不動産など、さまざまな人の関わる事業を展開するリクルートは、DE&Iの推進を「経営戦略の一環」と位置付け、従業員のキャリアや成長につながる「働きがい」と、誰もが自分らしく柔軟な働き方を選択できる「働きやすさ」の両方の実現に取り組んでいます。

リクルートグループ全体で、全ての階層における女性比率を2030年度までに約50%にする目標を掲げているほか、リモートワークや育児などの支援制度なども充実。2024年4月時点では社員に占めるワーキングマザー比率は32%、ワーキングファザー比率は35%となっています。

DE&Iは投資判断の新指標になる?

2023年3月期決算から、有価証券報告書にサステナビリティー(持続可能性)に関する情報の記載欄が設けられています。そのなかで、上場企業には「女性管理職比率」「男性育休取得率」「性別賃金格差」の3つの情報を開示することが義務付けられました。これを確認すれば、その企業がどの程度男女間の公平性を保つことに取り組んでいるかがわかります。

たとえば、ショッピングセンターを運営する丸井グループの有価証券報告書には、2014年から「男女」「年代」「個人」の3つの多様性を掲げて組織改革を推進していることが記されています。男性社員の育休取得率が7年連続で100%を達成しているほか、女性の上位職志向も年々高まっているそうです。社員の自主性を重視して自ら手を挙げてプロジェクトなどに参画する人の割合が約9割に達しています。

さまざまな施策によって、「自分が仕事のうえで何を期待されているか分かっている」「自分が職場で尊重されていると感じる」「自分の強みを活かしてチャレンジしている」と回答している人の割合も増加しています。

有価証券報告書というと、難しい言葉ばかりが並んでいるように思われるかもしれませんが、丸井グループの場合はこれらの情報がわかりやすく表や図で示されています。

<丸井グループの有価証券報告書の記載内容例>

丸井グループの有価証券報告書より

投資家からは、人的資本(従業員が持つスキル・知識・経験・意欲などを企業の資本と捉える考え方)を重視した「人的資本経営」ができているかを確認したいというニーズが高まっています。そのため、企業はより積極的にDE&Iに取り組むことが求められるようになってきます。今後上場企業だけでなく中小企業などにもDE&Iの取り組みが浸透してくるのは間違いないでしょう。

投資信託の運用会社、アライアンス・バーンスタインの調査によると、性別構成がもっとも改善した企業20%の株価は、改善がもっとも遅れている企業よりも約4%高かったことが示されています。

<性別構成の違いと株価>

アライアンス・バーンスタインの資料より

しかし、アライアンス・バーンスタインのレポートには「DEIと株価パフォーマンスに直接的な関連性があるかどうかは、まだはっきりしていない」とも書かれています。

「DE&Iに積極的な企業の株価が上昇した」と簡単にわかればいいのですが、実際はなかなか難しいものがあります。「企業の業績が上がったから株価が上がった」はわかりやすいですが、企業の業績が上がった要因は、DE&Iだけにあるわけではないからです。

それに、男女の違いはDE&Iの「D」の一部分でしかありません。Dには他にもさまざまな多様性がありました。その違いを理解することや、EやIの部分を達成することで株価にどのような影響があるのかについては、今後の研究を待つ必要がありそうです。

とはいえ、多様性を理解し、公平性・包括性を尊重した組織は、そうでない組織より成果を出しそうですよね。そういう観点では、DE&Iが株価向上に寄与すると考えてもよさそうです。

ETFでDE&Iにフォーカスする商品も登場

日本にはまだないのですが、米国ではDE&IにフォーカスしたETFも登場しています。たとえば、Calvert US Large-Cap Diversity, Equity and Inclusion Index ETF(CDEI)は、総資産の80%以上をDE&Iに積極的な米国大型株に投資するETFです。

Calvert US Large-Cap Diversity, Equity and Inclusion Index ETF(CDEI)

  • 株価:75.25ドル
  • 純資産総額:263万ドル
  • 直近配当利回り:0.94%
  • 経費率:0.14%

また、SPDR MSCI USA Gender Diversity ETF(SHE)は性別多様性への取り組みが高い米国企業に投資するETFです。

SPDR MSCI USA Gender Diversity ETF(SHE)

  • 株価:124.61ドル
  • 純資産総額:2616万ドル
  • 直近配当利回り:1.29%
  • 経費率:0.20%

*以上データは2025年7月15日時点

DE&Iの取り組みを推進する企業は、多様性のある人々が集まり、公平な助け合いができ、誰もが活躍できる企業。営利企業ですから、利益を出すことはもちろん大切です。しかし、DE&Iの取り組みを行う企業が増えることで、社会はよりよくなっていくはずです。それを応援する意味で、DE&Iに積極的な銘柄に投資するのもまた一案かもしれません。

頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)

X(旧Twitter)→ @yorifujitaiki

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