静かな退職は本当に得なのか?広がる背景とキャリア・収入への影響を徹底解説
【この記事の要点】
「静かな退職」は一見、合理的な働き方に見えますが、昇給・昇進・成長機会を失うことで、将来の収入や選択肢を狭めるリスクも孕んでいます。
本記事では、静かな退職が広がる背景とそのデメリット、さらに注目される「静かな解雇」のリスクを整理したうえで、会社に依存しすぎないために個人が備えるべき「キャリアと投資の考え方」を解説します。
■そもそも「静かな退職」とは
「静かな退職」という言葉は、働き方やキャリアの価値観が多様化する中で注目を集めています。単なる怠慢ややる気の低下と誤解されがちですが、背景には評価制度への不満やワークライフバランス志向など、さまざまな要因が存在します。
まずは、静かな退職の基本的な意味と具体例を整理していきましょう。
静かな退職(Quiet Quitting)とは、会社で出世・昇給・自己実現などをめざして積極的に働くのではなく、最低限やるべき業務だけを淡々と行い、それ以上のことをしない状態のことをいいます。
静かな「退職」といっても、実際に退職するわけではありません。静かな退職の例としては、定時に退社して残業を一切しない、休みをきちんと取る、会社の飲み会や付き合いなどのイベントに参加しない、部長や課長といった管理職に就くことを拒否するといったことが挙げられます。
マイナビが20代~50代の正社員3000人を対象に行った「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」では、静かな退職をしているかを聞いた質問に対して「そう思う」と回答した人が14.5%、「ややそう思う」と回答した人が30.0%いました。静かな退職をしている人の割合は合わせて44.5%となっています。
<「静かな退職」をしている割合>

静かな退職をしている人の割合を年代別にみると、もっとも多いのは20代で46.7%となっています。もともと、静かな退職は米国の若手世代(Z世代)で話題になった現象ですので、若手に多いのもうなずけます。
ただ、若い人だけが静かな退職をしているのかといえばそうではなく、30代〜50代で静かな退職をしている割合も4割以上います。静かな退職を行う人は、若手を中心にしながらも幅広い年代に存在していることがわかります。
<年代別「静かな退職」をしている割合>

参照:マイナビキャリアリサーチLab 「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」
他の調査でも同様に、静かな退職が増加していること・存在することを示すものがあります。パーソル総合研究所のレポートでは、静かな退職を選ぶ人の割合は2017年(3.9%)から2025年(5.8%)と約1.5倍に増えていると紹介されています。また、リクルートの調査でも「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいると感じる」と答えた人の割合は全体(調査対象7105人)の27.7%(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計)だったことが示されています。
静かな退職をしている人は、意外と身近にいるのかもしれません。
では若手は、静かな退職を続けたいのかというと、そうではないようです。
年代別の「静かな退職を続けたい割合」は、20代がもっとも少なくなっています。
<静かな退職を続けたい割合>

参照:マイナビキャリアリサーチLab 「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」
20代は、何かきっかけがあれば静かな退職をやめたい、あるいは静かな退職をやめるために転職や異動の準備をしていると回答する割合が他の世代より多くなっています。「このままではよくない」と考えている人も一定数いることがわかります。
ここまで見てきたように、静かな退職は特定の年代や一部の社員だけの特殊な現象ではなく、幅広い世代に広がっています。では、人々はなぜ静かな退職を選ぶのでしょうか。次に、調査結果をもとにその背景を整理します。
■静かな退職はなぜ起こる?
静かな退職はなぜ起こるのでしょうか。前述のマイナビの調査では、静かな退職をする理由を4つのタイプに分類して紹介しています。
(1)不一致タイプ
「仕事・環境に求める希望と現実が一致していない」と考えるのが不一致タイプです。自分のやりたい仕事ができずにいたり、向いていない仕事をせざるを得なかったりすると、努力しようと思っても気持ちが追いつかず、結果として「静かな退職」状態に陥ってしまいます。マイナビの調査では「仕事満足度が低い/静かな退職を続けたくない割合が比較的高い」と分析されています。
(2)評価不満タイプ
「給与・地位などの処遇が自身の望む水準に見合っていない」と考えるのが評価不満タイプです。同じ仕事をしていても給与が上がらない、評価基準が不透明、努力しても報われないと感じると、仕事に対する満足度が低くなり、やがて静かな退職をするようになってしまいます。マイナビの調査ではこちらも「仕事満足度が低い/静かな退職を続けたくない割合が比較的高い」と分析されています。
(3)損得重視タイプ
「プライベートやコスパ・タイパを重視したい」と考えるのが損得重視タイプです。仕事はあくまで給与を得るための手段として割り切っているので、努力など「余計なこと」はしません。キャリアアップや昇進によって昇給する可能性があっても、プライベートやコスパ・タイパの面が悪くなるのであればそれを望みません。マイナビの調査では「仕事・私生活の両方に満足している割合が高い/静かな退職を続けたい割合が高い」と分析されています。
(4)無関心タイプ
「キャリアアップに興味がない、やりがいを求めない」と考えるのが無関心タイプです。そもそも仕事に興味がなく、キャリアアップや大きな成果を上げることに関心がない人が該当します。マイナビの調査では「仕事満足度が高く、静かな退職を続けたい割合が高い」と分析されています。
ひとくちに「静かな退職」といっても、静かな退職に至る道筋は人それぞれ異なります。
(1)(2)は仕事をするうえで仕事に対する魅力を失い静かな退職に至ったタイプです。仕事満足度が低く、静かな退職を続けたくないと考えている人が多いので、先々転職する人も出てくると考えられます。
(3)(4)は反対に、仕事に対するもともとの価値観から静かな退職に至ったタイプです。仕事満足度が高く、静かな退職を続けたいと考えている人が多いので、引き続き静かな退職状態で仕事を続けていく人が多いことが考えられます。
■静かな退職のデメリット
静かな退職に至った理由はどうあれ、静かな退職にはデメリットがあります。
●生産性が下がる
静かな退職をする人がいると、その人が本来できるはずの仕事を他の人が肩代わりすることになります。それでも業務が回る職場であればまだよいかもしれませんが、結果として他の人のパフォーマンスが下がり、生産性が下がってしまう可能性があります。静かな退職をしている人からは、改善点やアイディアなども出にくく、会議などで発言することもほとんどありません。表向きは問題がないように見えても、実質的には組織の推進力が失われていきます。
●雰囲気が悪くなる
静かな退職をしている人に対する不満が貯まってしまう可能性もあります。「自分は頑張っているのに、あの人は最低限しかやらない」となれば、チームの雰囲気も悪くなってしまいます。静かな退職をしている人は、与えられた仕事しかしない「指示待ち」の人でもあります。やる気のある人と静かな退職の人が一緒にいるのでは、うまくいくわけがありません。組織の雰囲気が悪くなれば、生産性の低下につながるでしょう。
●職場の魅力がなくなり、人材流出につながる可能性も
静かな退職が職場内で広がると、長期的には人材流出につながる可能性もあります。やる気のある人も、周りに静かな退職をしている人が増えると「この会社にいる意味はない」と考えてしまうのも無理はありません。やがてやる気のある人から退職し、会社が弱体化していきます。
リクルートの調査でも「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいる」と感じている人とそうでない人では、「静かな退職をしている人がいない」ほうが幸福度が高いことも示されています。
■「静かな解雇」に合う可能性も
一方、静かな退職にはメリットもあります。ワークライフバランスの観点からは定時退社・残業をしないことは悪いことではありません。プライベートの時間が充実すれば、人生の質も高められるかもしれません。
しかし、静かな退職が当たり障りなく続けられる時代は長く続かないでしょう。
近年、静かな退職が増える一方で、「静かな解雇(Quiet Firing)」にも注目が集まっています。静かな解雇は、会社が社員に対して明確な解雇通告をするのではなく、間接的に圧力をかけて退職を促すことをいいます。たとえば、仕事を与えなかったり、昇進や昇給をさせなかったり、評価を引き下げたりすることが挙げられます。
会社も、静かな退職をするような社員をいつまでも雇い続けることはできません。ただ、特に日本ではそう簡単に社員を解雇できるしくみはありません。そこであくまで間接的ながら、退職を促すようなことが行われるのです。
静かな退職は、一見楽かもしれません。しかし、積極的に仕事をしないことで評価が低下すれば昇給や昇進の可能性も減りますし、成長もできなくなってしまうかもしれません。それによって仕事に対する不満が貯まり、さらに静かな退職状態になっていくことも考えられます。
そうなれば、「静かな解雇」の対象になるリスクも高まりますし、リストラになることだって十分に考えられます。長期的なキャリア形成を考えた場合、静かな退職はまったく得策ではないといえるでしょう。
仕事やお金は「会社からもらうもの」ではなく「自分で見つけていくもの」に変わりつつあります。
かつての日本では「終身雇用」が当たり前で、新卒で入社すれば定年まで安定して働けるという前提がありました。しかし、今はそうではありません。「ここで働き続ければ安泰」ということはまずないでしょう。私たち自身が自分の働き方を選び、キャリアを磨いていくことが求められています。
加えて、AIなどによる業務効率化によって、指示されたことをこなすだけの仕事は今後どんどんなくなっていきます。与えられた仕事をこなすだけでは生き残れなくなっていくでしょう。静かな退職をしていては、社会の変化に対応できなくなってしまいます。
静かな退職をしているという方もいるかもしれませんが、自分の将来のキャリアと向き合う意味でも、静かな解雇にあわないようにする意味でも、ここで一度、自分の働き方を見直してみることをおすすめします。
また、静かな退職をしている社員の人が多い会社も、なぜ、自社の社員に静かな退職をしている人が多いのか、その理由に向き合い、対策をすることが求められます。会社の働き方の制度や評価制度に問題があるのか、仕事の内容に問題があるのか、あるいは人間関係に問題があるのか、それは会社により異なるとは思いますが、やる気を引き出す環境づくりが必要だと考えます。
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執筆:高山 一恵(たかやま かずえ)
(株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
(株)Money&You取締役。中央大学商学部客員講師。一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。NHK「日曜討論」「クローズアップ現代」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「マンガと図解 はじめての資産運用」(宝島社)など書籍100冊、累計190万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。
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