今後、建築費が上昇する理由は?【プロが教える不動産投資コラム】
マンション価格においては、建築費が占める割合も多くなっています。今後建築費が増加すればマンション価格も上昇が続く可能性があります。
特に現在ファミリーマンション価格も上昇が続いていますが、これは建築費の上昇も要因のひとつとなっています。今後も建築費は上昇すると考えられますので、その要因について検証してみましょう。
建築費は上昇傾向が続く
国土交通省の発表した「建設工事デフレーター」によると、マンションなど鉄筋コンクリート造の建物の価格指数は2015年度を100とする指数で2022年度には121.7と約2割上昇しています。2015年の基準年以降、建築費の上昇が続いています。
建築費指数の推移(住宅RC造)2015年=100
年度 | 指数 |
---|---|
2015年度 | 100.0 |
2016年度 | 100.2 |
2017年度 | 102.5 |
2018年度 | 106.2 |
2019年度 | 106.6 |
2020年度(暫定) | 108.4 |
2021年度(暫定) | 114.2 |
2022年度(暫定) | 121.2 |
建築費の上昇要因-その1
2024年から多くのゼネコンが完全週休二日制に移行
建設業界は労働時間が長い傾向にあります。
2018年の労働基準法改正では、時間外労働についての上限が「年720時間」などと定められました。しかし建設業界ではこれを5年間猶予され、2024年4月からの適用となります。
国土交通省ではこうした事も踏まえて週休2日制を推進すると発表しています。まずは公共工事から進め、民間にも広げる考えです。大手のゼネコンなどは導入が進むと考えられます。
労働時間の短縮により1日や1週間の工事の時間が減れば工期全体が伸びる事になり、建築費はその分上昇する事にもなります。
建築費の上昇要因-その2
建設職人などの高齢化が進み職人さん不足が加速
建設業界も浮き沈みが激しく、長いデフレの時期には建設需要も減少し建設業で働く人も減少していきました。若い人は減り、全体として高齢化が進んでいます。
建設業は1997年には685万人とピークと迎えましたが2020には492万人に減少しています。さらに高齢化が進行しており、55歳以上の割合が2000年頃の約25%から2020には約36%と大きく上昇しています。これに対して29歳以下の割合は2020年にはわずか約16.6%となっています。
55歳以上が3分の1以上を占める高齢化構造が進めば、今後多くの職人さんなどが引退し建設現場は深刻な職人さん不足となる事も予想されます。
近年ITの発達や建設現場にもロボットが導入されるなどテクノロジーが進化していますが、やはり建設現場の人手不足は否めないようです。
建築費の上昇要因-その3
建物の解体費用の上昇
都心部などでは新たなにマンションを建設する場合には、もともと更地ではなく多くの場合従前の建物が残っていますので、これを「解体」してから新たに建設する事になります。この「解体費用」も上昇しており、建築費全体の費用を押し上げています。
日本では空き家住宅や、廃墟となったホテルや旅館などが放置されて問題となっていますが、これはこうした「解体費用」の上昇も要因の一つと考えられます。
解体費用の上昇要因として、大規模災害による大量の廃材が発生し処理が追い付かない事や、新規の処理場の建設が難しい事などもあり廃材処理費用の上昇もあります。
さらに建設現場同様に解体現場にも人手不足の影響があります。アスベスト関連などの規制も進み、建物解体にも手間がかかってきている事から費用も上昇してきています。
建築費の上昇要因-その4
物流コストの上昇
トラック輸送費の上昇など「輸送コスト」の上昇も建築費の上昇に拍車をかけています。これは「物流の2024年問題」とも言われています。
これは2024年4月から自動車運転業務の時間外労働時間の規制が設けられる事です。
こうした規制は大企業や中小企業では既に取り入れられている所もあり、一部の製造業では輸送の効率化に向けて梱包をミリ単位で見直しをする事なども報道されています。
物流ドライバ―の低賃金問題も注目を集めており、今後賃金の上昇と共に物流コストの上昇は進むと考えられます。
マンションの建設現場は多くの資材が搬入され、大型トラックやミキサー車などが使用されますので物流コストの上昇も受けやすいと言えます。
建築費の上昇要因-その5
大規模社会インフラの老朽化が進行し建築需要が増加
首都圏を始め全国各地の大型の社会インフラなどの多くは高度経済成長期に建設されました。こうした設備が次々と補修の時期を迎えています。
また先日はJR有楽町駅の天井から漏水が発生し構内が水浸しになるというニュースがありました。有楽町駅は明治43年に開業し、長い歴史を持っていますがこうした多くの設備でも老朽化が進んでいます。
建設後50年以上を経過する社会資本の割合は、2040年に道路では約75%、トンネルでは約53%と増加していきます。
また、経年劣化に加えて、近年は「線状降水帯」などのキーワードにも象徴されるように、気候変動も多くなっており、インフラの劣化が進む要因ともなっています。
こうしたインフラの補修・整備による建築需要も多く見込まれています。
建設後50年以上経過する社会資本の割合
2020年3月 | 2030年3月 | 2040年3月 | |
---|---|---|---|
道路橋 | 約30% | 約55% | 約75% |
トンネル | 約22% | 約36% | 約53% |
河川管理施設(水門等) | 約10% | 約23% | 約38% |
下水道管 | 約5% | 約16% | 約35% |
湾岸施設 | 約21% | 約43% | 約66% |
建築費の上昇要因-その6
住宅業界の基本成功・構造スペックのアップによるコスト増
住宅業界のスペックが上がっています。マンションでは具体的には耐震性の向上など基本性能の他、省エネ性能も求められてきています。
断熱性能を高めて使用するエネルギー量を減らしたり、太陽光発電設備を設置し電力を補うなどのゼロミッションなど様々な省エネ住宅が進んでいますが、2025年にはすべての建物に一定の省エネの基準が義務化されます。こうした性能のアップによるコストのアップが進んでいます。
建築費の上昇要因-その7
物価の上昇と建築素材価格の上昇
インフレが進行し物価が上昇しています。企業間で取引される物の価格である「企業物価」も上昇しています。
建築に使用される素材なども上昇しており、2023年5月の指数では2020年を100とする指数では、鉄鋼で154.0、コンクリートやガラスなど120.6、木材など141.4などと大きく上昇しています。
こうした建築素材の上昇も建築費の上昇の要因となっています。
企業物価指数の推移
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年5月 | |
---|---|---|---|---|
指数 | 100.0 | 104.6 | 114.7 | 119.1 |
建築費の上昇要因-その8
世界的な建築需要の増加
日本のみならず世界的に見ても建築需要は増加しています。
特に人口の多いインドや中国などの国では、経済の発展や中間層の台頭により、自動車や住宅の需要が高まってきている事もあり大規模社会インフラの整備や、工場、物流施設、鉄道など多くの建築需要が発生しています。
世界的にも人口増加による住宅需要が多く発生しており、多くの建築需要が発生しています。今後コロナの収束による経済の回復がすすめば、さらに多くの建築需要も発生する可能性もあります。
まとめ
このように建築費が上昇する要因が多くある状況となってきています。建築費の上昇から今後マンションなど住宅価格の上昇も予想されます。
しかし不動産価格の上昇期には景気も上昇期となる事も多くなっており、景気の上昇による給与水準や賃料の上昇も同時に発生する事もあります。マンション価格が上昇するという事は所有している不動産の資産価値が上昇する事にもなります。
こうした景気上昇全般の恩恵を受けやすいマンションを購入する事が今後の不動産投資の成功にも繋がると考えられます。