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景気動向と賃料上昇との関係について【プロが教える不動産投資コラム】

2024年もあっという間に年中央に差し掛かろうとしています。

名目賃金の上昇、株価の上昇といった明るいニュースが世の中に広がる反面、資産格差の拡大、依然続く実質賃金の低迷、そして政府による減税政策もあたふたした状態となっています。このように課題が山積されている訳です。

着実に上がってきているものは、ズバリ「賃料」です。賃料といってもその範囲は広く、住宅、オフィス、商業施設、さらにインバウンドの増加による旅館ホテルなどの宿泊料金も広い意味では賃料という捉え方もできなくもありません。

今回のコラムでは、景気回復とこうした「賃料」の動向について見てみたいと思います。

アフターコロナでオフィス需要も増加

東京を始め大都市圏のオフィスの賃料が上昇傾向にあります。

コロナ禍においては在宅勤務が浸透し、オフィスの使用率・入居率が一機に低下しました。ただ昨年来、また出社を推奨する企業が著しく増えオフィス需要も回復しつつあり、賃料もそれに伴い上昇傾向となってきています。

但し同じオフィスでも、通勤ルートが一路線のオフィスと二路線以上使える路線とでは、空室率・賃料の上昇幅も差が出ているという傾向があります。

人材確保のためオフィス移転のケースも

再開発で山手線のターミナル駅や港区を始めとする都心3区などに駅近の大型オフィスビルが次々と誕生しており、企業の移転も続いています。新規のビルは賃料も高くなる傾向にありますが、景気業績の回復や株価の上昇で企業の設備投資も大きく増加してきており、賃料の上昇の要因ともなってきます。

財務省が発表した「法人企業統計」によると2023年10~12月の全企業の設備投資は14兆4823億円で前年同期比16.4%増加、10月から12月までの3か月間として過去最高となっています。

また企業の人手不足も加速しており、人材確保のために企業が鉄道など交通の利便性が高く、さらに快適空間などクオリティの高いオフィスに移転する動きは今後ますます増えると予想されます。

商業施設賃料は上昇傾向

次に上がってきたのが、商業施設の賃料です。

筆者のオフィスのある中野のメインストリートは平日にも関わらず、インバウンドの方も多く来て街が非常に活性化しています。

中野の駅前からブロードウエイまで続く「サンモール商店街」は1階の路面店舗の賃料はなんと坪当り10万円前後します。これは京都エリアの商業施設の賃料とほぼ互角というラインとなっています。また高級ブランドが建ち並ぶ銀座エリアでは、坪26万円前後、新宿辺りでも17万円前後、表参道当たりでも坪20万円前後します。

ではなぜこんなに高いのか、それはズバリ、その立地の「稼ぐ力が強い」からです。

人が増える→売上が上がる→その先には商業施設の賃料の上昇、という流れになります。

新聞の報道によると多くのファストフードのチェーン店を経営する大手企業の売上高が国内外食初の1兆円となる見込みです。人流の増加で外食産業なども売上が上がっており、今後も飲食店や商業施設などの出店も増加する可能性もあります。

宿泊需要の増加でホテル宿泊費も上昇

コロナが5類に移行して1年が経過し、国内及び海外からの旅行者も増加してきています。宿泊需要も増加し、筆者が出張先で泊まるビジネスホテルも昨年と比べて2~3割上がったという肌感覚があります。

ホテル宿泊者は増加しており、2023年の延べ宿泊者は5億9,275万人泊で、前年比では31.6%の増加となり、コロナ前の2019年と比較してもわずかにマイナス0.5%となりました。宿泊者数はほぼコロナ前の水準に回復していると言えます。

客室稼働率は全体で57.4%となりましたが、東京都は全国で客室稼働率が最も高く73.8%となっています。

インバウンドの増加によりホテル需要も増加してきており、多くのホテルが開業しています。ホテルとワンルームマンションは共に駅に近い商業地に建設される事が多く、好立地の土地の需要も高まり地価上昇の要因ともなっています。

◼︎宿泊者数の推移

2019年2020年2021年2022年2023年
延べ宿泊者数595.9331.7317.8450.5592.8
<観光庁「宿泊旅行統計調査(2023年・年間値(速報値))」>

(単位:百万人泊)

マンション賃料

次にマンションの賃料水準ですが、東京などの大都市圏においては上昇傾向にあります。

東日本不動産流通機構の発表した「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(1~3月)」を見ると、東京23区の賃料は2024年1~3月には10.4万円となり10万円を超えました。㎡単価は3,410円で、前年同月よりも上昇しています。

◼︎東京23区マンション賃料の推移

2022年1~3月2023年1~3月2024年1~3月
賃料9.7万円9.8万円10.4万円
㎡単価3,181円3,210円3,410円
<公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(1~3月)」>

また東京23区の賃料を区別に見ると、都心三区(千代田区、中央区、港区)が最も高く、渋谷区や目黒区などが続いています。都心部のマンションの価格の上昇が賃料にも影響を与えている可能性もあります。

そして今後は都心以外のエリア、例えば城東エリア(墨田区、台東区、江東区など)、城北エリア(北区、板橋区など)、城西エリア(中野区、杉並区など)などにも賃料上昇が波及する可能性も考えられます、

◼︎東京23区の賃料ランキング

賃料
1港区18.1万円
2中央区16.6万円
3千代田区15.4万円
4渋谷区14.1万円
5目黒区12.3万円
<公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(2024年1~3月)」>

マンション賃料上昇の背景は

マンションの賃料上昇の場合には、二つのパターンがあり、一つ目は既に入居中のマンションで、東京の場合には2年に1回更新するというケースが多い訳ですが、その更新時に賃料を上げる傾向が顕著となっています。

但し既に入居されている物件については賃料の上昇幅は例えばワンルームマンションの場合、数千円程度でさほど大きくはありません。オーナー様から見れば、例え数千円でもそれが中・長期に及ぶのでその恩恵は大きいと考えられます。

次のパターンは、入居者が立ち退いて新たに新規募集する際のマンション賃料です。

新規募集の際は、ここはそのまま地価・物価上昇による経費の上昇から賃料の上昇につながるケースも散見されます。特に新築の場合にはマンション価格の上昇等がダイレクトに反映されますので、周辺相場と比べて高めになる事も多くなります。

また大阪などの場合は東京の様に2年更新という概念がほとんどないので、途中から賃料を上げるのは一定の交渉が必要となります。

今後は地価上昇による固定資産税・都市計画税の上昇、さらに電気代などの大幅アップによるマンションの共用部における管理コストの上昇や、管理人さんの人件費のアップ等による管理費のアップと、オーナーサイドから見ると賃料を上げざるを得ない理由も多くある事も事実です。

経済指標においては<先行・一致・遅行>という3つのパターンがありますが、一般的に「賃料」は遅効性が高いと言われています。

景気の上昇とともに、後追いでオフィス賃料、商業 施設賃料やホテル宿泊費のさらなる上昇も見込まれています。今後も給与所得のアップ、新規採用の福利厚生の充実を図るための法人賃貸契約の需要の先高観等を勘案すると、分譲マンションの賃料も上昇傾向となる可能性を秘めていと考えられるのではないでしょうか。

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