資産運用とボラティリティ【プロが教える不動産投資コラム】
近年金融の世界においてボラティリティという言葉をよく耳にします。ボラティリティとは主に金融商品、証券などにおける「価格の変動の度合い」の事を表しています。
世の中には投資・資産運用に関心がある方と全くない方と二つに分かれる傾向にあります。また関心がある方においても比較的安定性を求める方と、ある程度のボラティリティを容認する事を前提に投資・資産運用をする方もいらっしゃるようです。
今回のコラムではこのボラティリティをテーマに資産運用について考察してみたいと思います。
ボラティリティが大きいとは?
「ボラティリティが大きい」とは価格の変動幅が大きい、「ボラティリティが小さい」とは価格の変動幅が小さい事を示します。
まずボラティリティが比較的小さい投資対象の典型としては現金・預金、また国が発行する国債などが挙げられます。また優良な不動産などもその対象となるかと考えます。
比較的ボラティリティが大きいものとしては新規上場株や先物投資、FXなどが挙げられるのではないでしょうか。
ボラティリティが大きい投資は、リターンも大きいですがリスクも高く、「ハイリスクハイリターン」と言えます。
株式市場は大きく乱高下の状況に
株式市場を例に見てみましょう。2024年7月31日に日銀が政策金利の引き上げを発表し、8月5日には株価が大きく下落し、終わり値では4451円と史上最大の下げ幅となる一方、翌日には反発し1990年10月2日以来の3217円と過去最大の上げ幅となりました。このように株式市場は大きく動いています。
今年に入ってからNISAを始めた方も世の中には多く、NISA口座数は2023年5月末1,140万口座から2024年5月末には1,501万口座と約1.3倍になっており、多くの方が長期的な視点に立って資産運用を始めた事が分かります。筆者の周りでも今まで全く資産運用に興味関心を示さなかった人がNISAを始めました。
ところが8月の始めには先ほど述べたように株式市場がジェットコースターのように乱高下し、株式市場はマネーゲームのような状況に陥りました。その結果本来長期の視点で投資していた方々が、ある日突然短期のデイトレーダーになったかのようです。つまり狼狽売りをした方がいかに多かったかが窺えます。
不動産は比較的ボラティリティが小さい
このような状況の中で、不動産投資も一つの金融商品ととらえた場合、その賃料・価格変動などにおいて比較的ボラティリティが小さいと考えられます。特にマンションの場合は賃貸の契約期間も長く、安定している事も要因の一つです。
東京圏のワンルームマンションの賃料を見ると、安定しておりなだらかに上昇傾向が続いていている事が分かります。
投資用不動産の価格は収益還元法といって収益力(この場合は賃料)によって決まる事が多くなっています。賃料が安定しているという事は不動産の価格も安定しており、また賃借人がいる場合は安定した賃料収入が見込まれるますので、不動産の価格が大きく変動する事は少ないと考えられます。
◼︎東京圏ワンルームマンション平均賃料の推移
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
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家賃 | 71,854 | 71,946 | 71,946 | 72,077 | 72,723 | 73,446 | 73,697 | 74,263 | 74,614 | 76,765 |
※単位:万円、各年9月
居住用不動産でも立地によってはボラティリティが異なる
平均の賃料は安定していますが、同じ不動産でも都心に近い好立地・ハイクオリティの不動産と比べて、地方都市の低価格の木造賃貸住宅などにおいてはそのボラティリティは比較的大きくなる傾向があります。つまり居住ニーズに大きな違いがあるからです。
また利回りで考えると、例えば地方の駅から若干離れた物件では高い利回りも見受けられます。
しかし交通利便性や生活利便性が良好でなく、さらに都心やオフィス街などから遠い場合は賃貸需要も少なく賃借人が退去すると空室が続くケースもあります。こうした物件は価格も安くなる傾向があり、結果として利回りも高くなり、ボラティリティも大きくなる傾向にあります。
一方、交通アクセスが良く人気があり入居率が高く賃貸需要も安定している都区内のワンルームマンションなどは、表面利回りは4%前後で推移していますがボラティリティは比較的低い傾向となっています。
要約しますと、不動産投資においては好立地の物件ほど、ボラティリティが小さく、不動産投資としては安定していると思われます。
地方都市の物件で究極のボラティリティの高いマンションとは、ズバリ人口減・高齢化・賃貸需要の低下、さらに空室状態の継続などの状況においては賃料がゼロどころか管理コスト、税負担を考慮するとまさにマイナスの利回りとなり、究極の大きなボラティリティとなる訳です。
長期安定した投資とは
これからの時代においては、長期安定を前提とした資産寿命の長い投資をしていく事とその配分(バランス)がとても大切かと考えます。
不動産の一つの例としては、主軸に東京都内もしくは近郊の優良立地に、堅固で「耐震性・耐火性」があり、その沿線上の賃貸需要が長期に見込まれる条件を満たしている不動産(人口動態・就業人口、最寄り駅の乗降者数の動向、20代30代の若年層の安定的な転入、さらに沿線上における再開発等があるなど)を中心において、その他国内外の優良企業の株式も一定数持つ、さらにボラティリティの低い国債・大企業の社債なども持つ事など安全性を考慮した投資も重要となります。
今後の資産運用について最も大切なボラティリティの低い対象は何でしょうか。
これはズバリ、現金です。現金は価格が変動しないので、ボラティリティの対象とは言えないかもしれませんが、常に一定の現金を所有しておけば、今回のような株式市況における不測の時代においても急落時における買い増し等の措置が取れるなど、有効な手立てともなります。
但し現金もインフレ時においては、その実質的な価値が減少していきます。
さらに円安の場合はドルに対してお金の価値が減少するなど、変動リスクも内在します。
日本では金利上昇が始まるなど、今後大きく金融市場も動く可能性もあります。ボラティリティが大きい投資商品はリターンも大きい場合もありますが、安定した不動産を中心に様々な投資商品を組み合わせて、バランス感覚を重要視する投資が大切な時代となってきています。