コア・サテライト戦略の「コア」「サテライト」はどう決まる? コア向け・サテライト向けの商品を解説
投資の基本となる考え方に「コア・サテライト戦略」があります。コア・サテライト戦略では、投資対象の資産を「コア資産」と「サテライト資産」に分けて運用し、お金を守りながら増やすことを目指します。
ではそもそも、コア・サテライト戦略のコア資産とサテライト資産はどう決まるのでしょうか。今回は、コア・サテライト戦略のコア資産・サテライト資産の定義と、主なコア資産・サテライト資産について解説します。
お金を減らさずに増やすコア・サテライト戦略
コア・サテライト戦略は、運用資産全体を「コア資産」と「サテライト資産」に分けて運用する戦略です。
コア・サテライト戦略
(株)Money&You作成
資産の7~9割はコア資産、残りの1~3割はサテライト資産で運用します。そうすることで、お金を減らさずに増やす運用を目指します。
コア・サテライト戦略は、機関投資家たちも採用している投資戦略です。
機関投資家とは、他人から預かった資産を運用する「運用のプロ」。銀行・生命保険会社・損害保険会社・年金などといった人たちが該当します。機関投資家たちは、顧客から預かったお金を運用して増やしたいわけですが、大きく減らしてしまったら大変なことになります。年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が大損してしまったら、将来の年金の支払いにも影響が出てしまうでしょう。
プロだからといって、値上がりする資産を次々に当てるといった芸当は不可能です。機関投資家は、投資方針書・リスクテイク方針書を策定して、投資のルール、仕組みを定めます。そして、そのルールにのっとって粛々と資産運用を行います。
各種研究によると、運用成績の9割は「資産配分」で決まるといわれています。機関投資家たちは、コア・サテライト戦略を取り入れた資産配分を行うことによって、お金を減らさずに増やすようにしているのです。
コア資産とサテライト資産の違いは「リスクとリターン」にあり
個人でコア・サテライト戦略を取り入れる際に活用される資産には、次のようなものがあります。
コア資産
預貯金、個人向け国債、国内社債、米国債、不動産投資、インデックスファンド、バランスファンド、ETF(上場投資信託)
サテライト資産
個別株(日本株・米国株)、FX、暗号資産(仮想通貨)、アクティブファンド
コア資産とサテライト資産がこのように分類できる理由は、金融資産のリスクとリターンにあります。
金融資産のリスクとリターンのイメージ
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投資には、リスクがあります。といっても、ただ「危ない」というわけではありません。投資の世界では、リスクは「投資の結果(リターン)のブレ幅」を表します。
リスクとリターンには、トレードオフ(比例)の関係があるからです。
預貯金や国内債券などは、お金がほとんど減らない代わりに、増えることもありません。ローリスク・ローリターンです。しかし、反対に暗号資産やFXなどでは、お金が大きく増える可能性がある一方、大きく減る可能性もあります。ハイリスク・ハイリターンです。
「ローリスク・ハイリターン」な商品は存在しません。あったとすれば詐欺的な商品です。また「ハイリスク・ローリターン」な商品には、誰も投資しようと思わないですよね。ですから、リスクとリターンはトレードオフの関係にある、というわけです。
では、リスクの低い商品はいい商品で、高い商品は悪い商品なのかというと、そんなことはありません。なぜなら、完璧な金融商品は存在しないからです。
金融商品ごとの特徴
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表は、各金融商品を「安全性」「収益性」「流動性」の3つのポイントでまとめたものです。
- 安全性:運用した結果元本が減りづらいこと
- 収益性:運用することで利益が出やすいこと
- 流動性:現金に交換しやすいこと
3つのポイントがすべて完璧な金融商品は存在しません。とくにリスクとリターンの関係を考えると、安全性と収益性は両立しません。
リスクを抑えれば、お金は減らないかもしれませんが、増やすことができなくなってしまいます。逆に高いリスクを取り続けると、今度はお金が大きく減ってしまうかもしれません。そこで、複数の資産に分散投資することで、お金を減らすことを防ぎながら増やすことを考える、というわけです。ローリスク・ローリターンとハイリスク・ハイリターンの中間点、ミドルリスク・ミドルリターンを狙います。
分散投資をすると、リスクが抑えられます。
たとえば、株と債券の値動きは逆の相関があります。株が値上がりすると、債券は値下がりする(株が値下がりすると、債券は値上がりする)傾向があるのです。このとき、どちらかの資産しか買っていなければ、値動きが大きくなってしまいますが、両方の資産を買っていれば、片方の値下がりをもう片方が相殺するため、リスクを下げられるのです。
コア・サテライト戦略は、このような分散投資を中心に置き、お金を減らさずに増やす戦略だと筆者は考えています。
コア資産・サテライト資産の主な特徴をチェック
コア資産・サテライト資産がそれぞれ、どんな資産なのか、特徴を紹介します。
コア資産
コア資産は、「長期・安定成長」の資産です。長期的に保有を続けることで、安定的にお金を増やす「守りの資産」といえます。またリスクがある商品でも、分散投資が効いている資産をコア資産と考えます。
預貯金:
個人でコア・サテライト戦略を活用するときには、預貯金もコア資産に含めて考えます。銀行に預金すると、一定の利息を受け取れます。また、金融機関が倒産するなど、万が一のことがあっても、預貯金は1000万円とその利息までは保護されます。
ただ、現状大手銀行の普通預金金利は年0.001%(2022年7月時点)。安全性は高いものの、お金を増やすことはまったくといっていいほど期待できません。リスクは極めて小さいといえます。
個人向け国債:
個人向け国債は、国が個人でも買いやすいようにして発行している債券です。購入すると半年に一度利子が受け取れ、満期になると購入したお金が戻ってきます(償還)。
個人向け国債には、「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3種類があり、満期までの期間や金利の種類が違います。
個人向け国債は、元本割れの心配がありません。それでいて、金利は最低年0.05%(税引前)ですので、預貯金よりも有利です。長らく個人向け国債の金利は年0.05%でしたが、このところ、変動10年の金利がわずかに上昇しています。とはいうものの、リスクは極めて小さい商品といえます。
国内社債:
社債は国債の会社版のようなもの。個人向け国債同様に、定期的に利子がもらえるうえ、満期になったら償還されてお金が返ってきます。個人向け国債よりも高い金利が見込めるため、投資家からの人気も高く、申し込みが殺到します。
ただし、社債を発行する会社が万が一倒産したら、元本が戻ってこない可能性もあります。その意味では、預貯金や国債よりはリスクは高めですが、コア資産と考えて問題ないでしょう。
米国債:
米国が発行する国債が米国債です。米国は世界最大の経済大国で、国債の格付も非常に高くなっているにもかかわらず、1%を超える金利が受け取れることも。新しく売りに出される国債(新発債)だけでなく、すでに売りに出されている国債(既発債)も活発に売買されています。
米国債は利付債とストリップス債の2種類。ストリップス債は利払いがなく、その分複利効果を受けやすいメリットがあります。国債・社債同様コア資産の位置付けですが、為替レートの変動で円に戻す際には為替変動の影響をうけるため、リスクはありますが、コア資産と考えて問題ないでしょう。
不動産投資:
投資用不動産を購入して、家賃収入などの利益を得る投資が不動産投資です。近年は金利がとても低く、金融機関も積極的に融資してくれるため、会社員の方でも取り組みやすい投資になっています。不動産投資の物件は、ローンを組んで購入します。つまり、借りたお金で自分の資産を増やすレバレッジ効果を得られる効率のよい投資なのです。
投資用の物件を選ぶときは、安定的に居住者がつき、安定した家賃収入が長期的に入ってくるかを考える必要があります。筆者のおすすめは、都心の単身世帯用のワンルームマンション。東京は人口減の日本にあって人の流入が活発なうえに、単身世帯が増加傾向にあるからです。賃貸需要が旺盛なエリアの物件であれば、流動性リスクが低くなり売却もしやすくなります。コア資産と考えて問題ないでしょう。
インデックスファンド(投資信託):
投資信託は、投資家から集めた資金を運用のプロ(ファンドマネージャー)がさまざまな商品に投資してくれる商品です。何に投資するかは、投資信託ごとに異なります。
インデックスファンドは、市場の指数(たとえば国内株ならTOPIX、米国株ならS&P500など)と同じような値動きをする投資信託です。インデックスファンドは手数料(信託報酬)が安く、経済成長に合わせてお金が増やせるのがメリットです。
バランスファンド(投資信託):
1本の投資信託のなかで、株式・債券・不動産など、複数の資産に投資する投資信託をバランスファンドといいます。たとえば、8資産均等型と呼ばれる投資信託の場合、国内・先進国・新興国の株と債券、国内・海外の不動産の8資産に12.5%ずつ、均等に投資します。1本で分散投資ができるうえ、資産の偏りが生じた場合には自動で元に戻す(リバランス)をしてくれるのもメリット。手数料も以前は少し高かったのですが、今は安いものが増えています。
インデックスファンドやバランスファンドは、長期・積立・分散投資でお金を堅実に増やせる商品。つみたてNISAやiDeCoといった制度を利用して購入すると、税金を減らしながらより効率よくお金を増やせます。コア資産のメインは、インデックスファンドやバランスファンドがおすすめです。
ETF(上場投資信託):
ETFは、証券取引所に上場していて、株と同じように売買できる投資信託です。インデックスファンド同様、指数に連動した値動きを目指す手法で運用されています。手数料(経費率)が投資信託の信託報酬よりも安く設定されているケースが多くあるのもメリットです。
なかでも、「全世界株式型」「米国株式型」のETFは、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指す人の投資先として人気があります。1本で成長を続ける世界経済・米国経済全体に手軽に投資でき、成長の恩恵を受けられます。株式はサテライト資産ですが、ETFは多数の銘柄に分散投資しているという点で、コア資産と考えていいでしょう。
サテライト資産
サテライト資産は「積極運用、短期売買」の資産です。リスクの比較的高い資産に投資し、お金を大きく増やすことを目指します。
個別株(日本株・米国株):
会社が発行する株を売買してお金を稼ぐ株式投資。買ったときよりも値上がりした時点で売れば値上がり益が得られるほか、株を保有していることで配当金や株主優待が受け取れます。近年は米国株も人気。米国の経済成長は日本を上回るものがありますし、配当金も年4回受け取れます。50年以上連続で配当金を増やし続ける「連続増配株」もあるほどです。
株も、長期間保有して、配当金をじっくりと受け取る投資ならコア資産に含めても良いのでは、という考えもあります。しかし株式投資のリスクは投資信託などより高め。配当が安定していても、株価自体の値動きは大きく、現金化したいときの流動性リスクが高い資産です。ですから、サテライト資産と考えておいたほうがいいでしょう。
FX:
FXは、円・ドル・ユーロといった通貨の売買をして利益を狙う投資。為替レートが上昇しても下落しても、さっと売買することで利益を出すチャンスがあります。為替レートは平日ほぼ24時間絶え間なく変動しているので、いつでも利益が狙えるのもメリットです。
投資資金の元となる証拠金をFX会社に預けることで、証拠金の最大25倍の金額を投資できる「レバレッジ」を生かすと、資金が少額でも大きな利益を狙えます。しかし、思惑に反した時の損失もその分大きくなるので、無理なレバレッジを行わないようにレバレッジルールやロスカットルールを定めるなどリスク管理を徹底の上、行うのが鉄則です。
アクティブファンド:
アクティブ投信は、目標とする指標上回ることや、目標とする指標を設けずに絶対収益(年10%リターンなど)を目指す投資信託です。ファンドマネージャーが投資先を綿密に選定し、ここぞという会社を選んで投資します。
インデックスファンド・バランスファンドより利益の出ているアクティブファンドもありますが、プロが選定したからといって必ず値上がりするとは限りません。それどころか、インデックスファンドに勝てていないアクティブファンドもあります。投資信託は、組み入れる銘柄によって大きくリスクが変わります。アクティブファンドは、インデックスファンド・バランスファンドより値動きが大きくなりやすいので、サテライト資産と考えておきましょう。
暗号資産(仮想通貨):
ビットコインに代表されるさまざまな暗号資産(仮想通貨)も外貨などと同様、市場で売買されています。安いときに買って、高いときに売れば利益が得られます。
しかし、暗号資産の値動きは非常に激しいのが特徴。ビットコインも、2021年には一時期1ビットコイン=700万円を突破するほどに高騰しましたが、本稿執筆時点(2022年7月)は270万円ほどと、およそ3分の1の価格に落ち着いています。また、暗号資産の中には突然無価値になってしまうものも。お金が増える可能性ももちろんありますが、とてもリスクが高いサテライト資産だということを押さえておきましょう。
コア・サテライト戦略のコア資産・サテライト資産の考え方と、コア向け・サテライト向けの資産を紹介してきました。コア・サテライト戦略を活用して、守りながら攻める投資をすることで、お金を減らさずに増やす運用が実現します。ぜひご自身の投資行動にコア・サテライト戦略を取り入れてみてください。
投稿者プロフィール
頼藤 太希
(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。
女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)、『はじめてのFIRE』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。
日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。