日本は本当に「世界3位の経済大国」?データで見る日本の豊かさ
日本は、新型コロナウイルス感染の影響から元の生活に戻っている過程です。経済活動においては、落ち込んだ経済がゆっくりと回復に向かっています。しかし、コロナ感染以前にくらべ、資源や食料のほとんどを輸入に頼る日本では、ウクライナ侵攻以降、物価がどんどん上昇しています。日本は世界3位の経済大国を言われていますが、日常生活では経済的な豊かさを実感することは少ないように感じます。
今回は、国の経済状況を示すGDP(国内総生産)を中心に、世界から見た本当の日本の姿をデータから読み解いていきましょう。
GDPとはそもそも何か?
GDPとは、Gross Domestic Product の略称で、日本では「国内総生産」ともいわれています。GDPは1年間に国内で生みだされた付加価値の合計をいいます。付加価値といってもイメージしにくいのですが、国内の生産による商品やサービスを販売したときの価値から材料費や流通費、燃料費などの投入額を差し引いた価値になります。世界の国々の経済状況を比較しやすいように、GDPは為替レート(米ドル)で換算されています。
付加価値(GDP)=生産額全体-原材料-燃料費
生み出された付加価値は、企業の利益や従業員の給料、借りている土地の地代や建物の家賃、
銀行から融資を受けていれば利子、税金などに分配されます。働いて得た給料や事業の収入は、分配されてやがて所得になるので、GDPは国の経済活動の状況や国の豊かさを表す指標として用いられています。
このGDPには、「名目GDP」と「実質GDP」があります。
名目GDPは、現在の価値でのGDPで、実際の取引価格(市場価格)で計算したGDPの値です。市場価格は、物価の影響を受けますが、名目GDPは物価変動の影響を受けたままの数値で計算されます。
一方、実質GDPは名目GDPから物価の影響を差し引いた値になります。基準年の価格水準が基本となるため、物価変動の影響が除かれています。より正確な経済成長状況を把握するためには、実質GDPを用います。一般的にGDPというと、実質GDPのことを指します。
IMF(国際通貨基金)の発表によると、2022年の日本のGDPは世界で3番目の4兆2335億ドルです。1位はアメリカの25兆4644億ドル、2位は中国の18兆1000億ドルです。4位にドイツ、5位にインドが続きます。日本のGDPは、2位の中国とは金額が大きく離されており、4位のドイツとの差は小さくなっています。
GDPが変化する要因は、人口の増減、経済の効率化と生産性の向上、物価の変動などが考えられます。特に人口の増減は、GDPの値に大きな影響を与えます。人口が増えることによって、労働力が拡大し、個人消費も増えます。そうすると企業は効率的な生産体制を進め、設備投資も意欲的になるからです。こうした観点から、これから人口が増えると予想される国では、経済の発展が期待できることになります。
世界の名目GDP
※引用:世界の名目GDP(USドル)ランキング IMF(2023年4月版)
日本の「一人当たりGDP」は低下している
GDPは、経済活動の産物なので、人口の多さに影響を受けます。人口が多い場合や若い世代の人口が多ければ働く人の数も大きくなるので、経済活動のボリュームが大きくなるのは容易に想像ができますね。そこで、労働力人口による差をなくした国の平均的な豊かさを示した「一人当たりGDP」をいう指標があります。一人当たりGDPは、GDPを人口で割ったものです。一人当たりGDPによって、その国の所得の水準を知ることができます。
それでは、世界における日本の一人当たりGDPの推移を見ていきましょう。
1995年から2000年にかけて日本の一人当たりGDPは、世界2~3位でした。しかし、だんだんと経済力が低下し、世界のランキングが下がっています。たとえば、2001年は世界5位、2010年は世界14位、2018年には20位まで順位が低下しているのです。
一人当たりの名目GDPランキング
※引用:国土交通白書2020
日本の一人当たりGDPが世界ランキングを下げている要因の一つに、為替が円安なので米ドル換算すると低い値になることがあげられますが、基本的に経済活動が低迷していてGDPそのものがあまり増加していないことが根底にあります。
またOECD(経済協力開発機構)は、国際経済について協議する国際機関ですが、2022年のOECD加盟国においての順位は、38カ国中26位となっています。近年、世界規模で見た場合に日本の立ち位置は、ますます個人ベースでの経済的な豊かさが減少していく傾向になっているというわけです。
一人当たりGDP
※引用:OECD
OECD (2023), Gross domestic product (GDP) (indicator). doi: 10.1787/dc2f7aec-en (Accessed on 04 June 2023)
日本は経済的に本当に豊かなのか
日本は「経済大国3位」という肩書きも、角度を変えて見ていくと「経済的に豊かな国」であったのは過去の話で、現在は普通以下の水準の国になっていることに気づかされます。
平均年収について見てみましょう。日本国内では、所得格差が社会問題になっていますが、世界規模で見た場合には、世界の国々と日本の賃金格差は広がっていることがわかります。
OECDの年間平均賃金額データによれば、2021年のOECD加盟国の平均が5万1607ドルだったのに対し、日本は3万9711ドルです。円換算で見ると444万3874円になります。日本は平均以下で、OECD加盟国38カ国中24位になっています。トップのアメリカの平均賃金は7万4738ドルなので、日本はアメリカの約半分程度の年収しかもらっていないことになります。
平均賃金(OECD)
※引用:OECD 平均賃金
世界の国々では、物価高騰でインフレが続くことが問題になっています。しかし、物価の上昇にともない収入が増えるのなら、物価高の影響はさほど大きくはないでしょう。日本は欧米にくらべて物価上昇率は低いといわれていますが、賃金の上昇は物価を上回っていません。ですから、物価は上がるけれども、それに伴って収入が増えないとなると、物価上昇の負担感は日本の消費者に大きくのしかかってきます。
次の図表は、日本とアメリカの実質賃金の推移を表したものです。1990年を100と指数化した場合に、2020年は日本が104に対し、アメリカは148になっています。1990年から30年間に日本は賃金の伸び率が横ばいだったのに対し、アメリカでは約1.5倍に上昇している結果でした。よく日本では「失われた30年」という言葉が使われますが、データでみるとその言葉の意味が実感できます。
日米の実質賃金の推移
引用:内閣官房 参考データ集
次に、イギリスの経済専門誌「エコノミスト」が年2回発表している「ビッグマック指数」で、世界と日本を見てみましょう。
ビッグマック指数(The Big Mac Index)とは、世界的なファストフードとしてビッグマックの価格を世界各国で比較したものです。米国での価格をゼロとしてどれくらい高いのか安いのかが示されています。ビッグマック指数は、「絶対的購買力」という為替レートを考えるときの説をベースにしていますが、1つの側面から見た場合の数値なので、絶対的購買力を測る完璧な尺度にはなりえませんが、通貨の相対的な価値やさまざまな国の購買力を理解するのにわかりやすい方法です。
具体的には、
その国のビッグマックの販売価格÷米国の販売価格=ビッグマック指数
になります。
マクドナルドのビッグマックは、どの国でもほとんど同じ品質で作られているので、世界各国での価格を比較すれば、それぞれの国の購買力が見えてくるというわけです。実際に比較する場合には、「ある国のビックマックの価格を日本円に直すといくらになるか」を見るほうがわかりやすいでしょう。
ビッグマック指数と円ベース換算価格
※引用:エコノミスト The Big Mac Index 2023
松濤bizパートナーズ合同会社コラムをもとに筆者作成
エコノミストのビッグマックの価格は、税込み価格で集計されています。そのため、消費税や付加価値税が高い国では、税金が安い国にくらべて指数が高く出る傾向にあります。
日本のビッグマック価格が2023年1月当時410円であったのに対し、1位のスイスでは944円と2.3倍以上の開きがあります。為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという考え方からすると、円が過少に評価されていることになります。
また、日本では「安い値段で買えるからお財布にやさしい」と考えるのは早計です。日本のビッグマックが割安なのは、個人の購買力、つまり実質賃金が低いからという結果が導き出されることになるからです。
そうした日本の萎縮した経済状況は、海外から見るとより鮮明になります。賃金が低い日本から飛び出し、ワーキングホリデーなどを利用して海外で働いてみると、思った以上の収入が得られ、仕事と家庭生活のワークバランスが取れ、余暇も楽しめるというものです。働き方も年齢や性別にとらわれずに働くことができ、海外と日本の違いに驚かされるという報道もよく目にします。日本で働くことが国際的に見て貧しくなったといえるのではないでしょうか。
日本経済のこれからの課題
ビッグマック指数からもわかるように、日本では個人の購買力が低い状況にあります。購買力が低いということは、経済の低成長が続き、物価も賃金も大きく上がらないということにつながります。もし、賃金が上がらず収入が増えなければ、物価だけが上がってしまいます。
その物価上昇の負担は、私たち消費者にのしかかり、所得が低い世帯にはより重い負担となります。そうすれば、より一層所得格差を広げてしまう結果になります。
日本の経済成長は停滞しています。今後の世界のGDPに占める日本の割合は、どんどん低下すると予想されています。その一つの要因に人口減少・少子高齢化があります。
世界のGDPに占める日本の割合
引用:内閣官房 参考データ集
日本では2022年10月に岸田首相が、「日本経済の再生が最優先課題」だとして所信表明演説を行いました。2023年に入ってからは、少子化問題が一層深刻となり、「子ども・子育て政策」が最も有効な未来への投資だとして議論がされています。
2023年6月2日の厚生労働省の発表によれば、1人の女性が生涯に産む子どもの数の合計特殊出生率が1.26と過去最低になりました。1.26というのは、概数なので正確には「1.2565」なので、1.26を割っていることになります。少子化のスピードが加速し、7年で2割も出生数が減っています。
過去には働き方改革を推し進めましたが、効果が発揮できるところにまでは至っていません。働く女性が増え、男女ともに仕事と育児を両立する環境が求められます。育児世帯への給付が国会で議論されていますが、若い世代の日本経済への不安や家計の不安を解消するためにも、賃金の引き上げは必要不可欠です。しかしながら、少子化対策はすぐに効果があらわれるわけではありません。少子化対策とともに、人口減を補うだけの生産性の向上が求められます。
私たち一個人としては、GDPという経済の発展にとどまらず、日本の社会保障を存続させるには、世界から見た日本の本当の姿を直視し、古い雇用慣行や男女の役割分担を変えるなどの意識改革が必要といえるでしょう。
池田幸代 株式会社ブリエ 代表取締役
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー