株式分割をする企業が増えているのはなぜ? 今後予定の企業はどこか
「1株→2株への株式分割を実施」。株式投資をしている方の中には、そんな株式分割のニュースをよく見かけるようになったという方もいるかもしれません。実際2023年は、株式分割を実施する企業が増えています。
今回は、株式分割を実施する理由、株式分割のメリット・デメリット、株式分割が株価に与える影響などを解説していきます。
株式分割する企業が増えている
株式分割とは、企業が発行している株をいくつかに分割して、発行済み株式数を増やすことです。たとえば1株を2株に分割したり、3株に分割したりすることをいいます。1株1,000円の株が株式分割によって2株になると、1株500円になるという具合ですから、株式分割の前後で、株の価値の合計は変わりません。千円札を500円玉に両替すると、500円玉は2枚になりますね。それと同じ感覚です。
このところ、株式分割を発表する企業が増えています。松井証券のウェブサイトによると、2022年の株式分割の件数は全部で95件でした。それが、2023年は本稿執筆時点(2023年10月10日時点)で124件となっています(2023年内に実施予定の企業を含む)。
ユニクロやGUなどで知られるファーストリテイリング(9984)は2022年12月26日に1株を3株にする株式分割を発表しました。発表時点で同社の株を購入するにはおよそ800万円が必要でした。しかし、2023年2月末に株式分割が行われると、1株の株価はおよそ3分の1の266万円となりました。
日本電信電話(9432)、NTTの株式分割も話題になりました。NTTは、2023年6月末に1株を25株にする株式分割を実施しました。株式分割前に4株買っておけば、株式分割後には100株(4×25=100)の株主になることができた、というわけです。同社によると、より幅広い世代の株主を増やしたいという意図があったとのことです。
株式分割が増えている理由は?
株式分割がこのところ増えている理由には、主に次の2つがあります。
株式分割が増えている理由1:新NISAで個人投資家を増やしたいから
NISAは投資の利益にかかる20.315%の税金がゼロにできる制度です。本来、税金は払うのがルールではありますが、利益から20%もの税金が引かれてしまうとなれば、やはり大きな負担ですよね。NISAを利用すれば、その負担をなくせるというわけです。
2023年までの現行NISAで、18歳以上の方が利用できる制度には、一般NISAとつみたてNISAがあります。しかし、つみたてNISAを利用している人は、NISAで株を購入することができません。また、一般NISAなら株を購入できますが、一般NISAはつみたてNISAと併用できません。
このNISAの制度が2024年に改正されます。改正後の新NISAでは、つみたてNISA同様の「つみたて投資枠」を利用しながら、一般NISA同様の「成長投資枠」を利用して株を購入するという具合に、両者の併用ができます。つまり、これまでつみたてNISAを利用していた人が、2024年からの新NISAで新たに株を購入する可能性がある、というわけです。
また、新NISAでは毎年の投資金額が大きく増加。株を購入できる成長投資枠では、年240万円まで非課税で株式投資ができます。
個人投資家が株式投資をしやすい環境が整ったとしても、先のファーストリテイリングのように「100株で800万円」だと、とても手が出せません。最近は1株単位で購入できる証券会社が増えましたが、1株で8万円も気軽に買える金額とは言えませんね。そこで、企業は個人投資家が投資しやすくなるように、株式分割を行い、株価の水準を引き下げているというわけです。
実際、2023年3月に株式分割を行なった信越化学工業(4063)は株式分割実施のリリースのなかで「新NISA制度が発足することも踏まえ、株式の分割によって個人投資家の皆様に投資していただきやすい環境を整え、投資家層の拡大を図ることを目的としています」と記載しています。新NISAを念頭に置いて、取引しやすい株価にしようという動きがある、というわけです。
株式分割が増えている理由2:東証の要請に応じようとしているから
東京証券取引所(東証)は以前から「望ましい投資単位の水準」として5万円以上50万円未満という水準を明示しています。この水準を超えた場合は、企業に投資単位の引き下げに関する考え方や方針を開示するように義務付けています。個人投資家が投資しやすい環境を整備することがそのねらいです。
東証によると、投資単位が50万円未満の上場会社の割合は94.6%(2023年3月末時点)となっています。投資を始める人が増えているなか、こうした要請に応えるために株価を引き下げようとする企業もあると考えられます。
株式分割のメリット・デメリット
企業が株式分割をするメリットとデメリットには、次のようなものがあります。
株式分割のメリット1:株価が安定する
株式分割をすると、株を購入するのに必要な金額が下がります。すると、その株が欲しかったものの「これまでは手が出なかった」という投資家も、その株が買えるようになります。すると、株主の数が増加する(流動性が高まる)ため、たとえば株主の1人が株をたくさん売却したときにも株価が安定します。また、東証など証券取引所の上場基準には株主数が一定以上必要という基準もあるため、それを満たすためにも活用されることがあります。
また、株価の水準が下がることでNISAにも組み入れやすくなります。2023年までの一般NISAでは年120万円、2024年からの新NISAの成長投資枠では年240万円まで株を購入できます。株価が下がれば、NISAで購入しやすくなりますし、複数の銘柄に分散投資することもできるでしょう。
株式分割のメリット2:企業の時価総額が上がる可能性がある
株式分割をしても、理論上は株価が変わらないのですが、新たにその株を「買いたい」という投資家が増える(需要が高くなる)期待はできます。こうした投資家たちの買いによって、株価が上昇する可能性はあります。
実際、株式市場では、株式分割の発表は多くの場合、好材料ととらえられます。株式分割の発表があっただけで株価が上昇したり、株式分割後に株価が上昇したりすることもよくあります。株価が上がるということは、企業の時価総額が上がるということですので、企業の価値も高まるというわけです。
ただし、株式分割すれば必ず株価が上がる、という保証はありません。業績や将来性がいまひとつの会社が株式分割をしたとしても、投資家は「買いやすくなったから買おう」とはなりません。
また、株式分割で株が買いやすくなるということは、同時に「株を売りやすくなる」ということでもあります。たとえば1株を2株に分割する株式分割が行われたとき、既存の株主は「株式分割で100株が200株に増えたから、とりあえず100株は売ろう」と考えるかもしれません。こうした投資家が多い場合、株価が下がり、企業の時価総額が下がる可能性もあります。
株式分割のメリット3:配当が増える場合も
多くの場合、株式分割が行われると1株あたりの配当も分割に合わせて減ります。しかし、業績が好調な企業のなかには、配当をそのまま据え置くところもあります。少し前の事例ですが、2019年に株式分割を実施したキーエンス(6861)は、1株を2株にする株式分割を行う際に、期末配当(100円)をそのまま据え置きました。1株が2株に増えたのに、1株あたりの配当がそのまま100円なので、実質100円の増配となりました。
株式分割のデメリット:企業の手間が増える
企業は株主に対して、配当通知書・株主総会の招集通知・株主優待の品などを送ります。企業によってはその他にも事業報告書やニュースレターなどを送付していることもあります。株主が増えると、これらの送付にかかるコストが増えてしまいます。
また、企業のIR部門などでは、株主からの問い合わせが増えてしまい、社員が日々対応に追われてしまう…ということも。企業にとっては、株主の数が増えることはありがたい話なのですが、頭の痛い話でもあります。
今後株式分割を行う銘柄は?
今後株式分割を行う予定の銘柄は次のとおりです(2023年10月10日調査時点)。たとえば「1:2」は「1株を2株に分割する」ことを表します。
2023年の株式分割予定銘柄
・10月10日 セカンドサイトアナリティカ(5028)1:3
・10月27日 ビューティガレージ(3180)1:2
・10月27日 ジェイ・エス・ビー(3480)1:2
・10月27日 ランドコンピュータ(3924)1:2
・10月27日 アイモバイル(6535)1:3
・10月27日 光・彩(7878)1:2
・10月27日 マツモト(7901)1:3
・10月27日 元気寿司(9828)1:2
・11月16日 クスリのアオキホールディングス(3549)1:3
・12月27日 マブチモーター(6592)1:2
・12月27日 京セラ(6971)1:4
・12月27日 東京応化工業(4186)1:3
松井証券のウェブサイトより
大きなところではさまざまな電子部品を扱う京セラ(6971)。1株を4株に分割することで、73万円ほどの株価が理論上は18万円程度になる計算です。京セラが株式分割を行うのは10年ぶりです。
また、全国800店以上のドラッグストアを経営しているクスリのアオキホールディングス(3549)も同様に、1株を3株に分割することで、98万円ほどの株価が理論上は33万円程度になる計算です(以上株価は2023年10月6日終値で計算)。
また、現段階ではまだ株式分割を発表していない企業の中にも、今後株式分割を発表する企業が出てくる可能性も。本稿執筆時点で1株あたりの株価が5,000円以上の会社はおよそ240社、そのうち1万円以上の銘柄も40社ほどあります。東証の示した「望ましい投資単位の水準」には強制力こそないものの、こうした値がさ株(1株あたりの株価が高い銘柄)のなかから株式分割を行う銘柄が出てくるかもしれません。また、値がさ株でなくても、新NISAを踏まえて株式分割を行う銘柄もあるかもしれません。
株式分割は株価にとっては好材料ですが、必ず値上がりするという保証はどこにもありません。投資をするにあたっては、安易に飛びつくのではなく、その企業に将来性があるのか、今後も成長していきそうなのかを十分に吟味することをおすすめします。
*本記事で紹介する個別の銘柄・企業名については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。購入する場合は自己責任でお願い致します。
頼藤太希 (株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計120万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。