なぜ金は有事に強い資産なのか 投資方法のおすすめは
金(ゴールド)の値上がりが続いています。2023年8月には史上初めて1g=1万円の大台を突破。本稿執筆時点(2023年12月7日)で1万611円(三菱マテリアルのウェブサイトより)となっています。この値上がりの背景には、「有事の金」と呼ばれる金の特徴があります。
今回は、なぜ金は有事に強い資産と言われるのかを解説します。また、金に投資する5つの方法と、おすすめの投資方法を紹介します。
金はなぜ有事に強いのか
金はなぜ有事に強いのかを考えるために、まずは金価格の推移を確認しておきましょう。
●金価格の推移(1978年〜2023年11月)
三菱マテリアルの資料を元に(株)Money&You作成
グラフの金色の線が国内小売価格(月間平均)、灰色の線が海外価格です。国内小売価格を振り返ってみると、1990年台から2000年台前半にかけては、1g=1000円台のころもあったことがわかります。それが、2005年ごろから2018年にかけて4000円台に上昇。さらに2019年からは急激に上昇している様子がうかがえます。
近年は海外価格ベースの金価格よりも国内小売価格ベースの金額のほうが大きく値上がりしています。後述しますが、これは為替レートが大幅円安になった影響です。
金価格の推移(2018年〜2023年、直近5年)
三菱マテリアルの資料を元に(株)Money&You作成
この5年間の金価格は多少の上下こそありますが、ほぼ一貫して右肩上がりになっている様子が見て取れます。2018年末の4000円台が2023年11月には1万円台ですから、2倍以上に値上がりしているというと、その勢いのすごさがわかるでしょう。
金価格の変動理由でもっとも大きいのは「有事だから」です。
金は、地政学的な問題(政治・戦争・天災)や世界経済を揺るがすような事態が発生したときの資産の逃避先となっています。そのため、冒頭でも触れたとおり、昔から金は「有事の金」と呼ばれているのです。
金は株や債券などとは違い、金そのものに価値がある「実物資産」です。株や債券などは、万が一発行した企業や国などが破たんしたら価値がゼロになってしまう可能性があります。しかし、金の価値は日本のみならず世界中で普遍ですので、価値がゼロになることは考えにくいでしょう。そのため、地政学的な問題が起きたときには金が買われるのです。
・ソ連のアフガニスタン侵攻(1979年)
・米同時多発テロ(2001年)
・リーマンショック(2008年)
などのときにも、金が買われました。
さらにこの5年間は、
・新型コロナウイルスの感染拡大による「コロナショック」(2020年2月)
・ロシアがウクライナに侵攻した「ウクライナショック」(2022年2月〜)
・イスラエルとパレスチナの紛争(2023年10月〜)
といった、大きな出来事が相次いで起きています。
新型コロナウイルスの感染拡大で大規模な外出禁止や経済封鎖が行われ、経済活動が停滞したのは記憶に新しいところです。上のグラフを見ると、金価格も2020年7月にかけて7000円台に上昇し、その後しばらく7000円台で推移していることがわかります。
その均衡が破れたのが2022年2月のウクライナショックです。ロシアによるウクライナ侵攻が世界的に報じられ、予断を許さない状況はその後も続いていますが、金の価格はそれに合わせてどんどん上昇しています。
2023年10月からのイスラエルとパレスチナの紛争も、政情不安に拍車をかけていますので、金が買われる展開はこれからもしばらく続くものと見られます。
このようなことから、金は有事に強い、「有事の金」と呼ばれるようになったのです。
金は円安やインフレにも強い資産
金の価格は「有事だから」の他にも、さまざまな要因で変動します。いくつか紹介します。
円安だから
金の価格には、為替レートも大きく関係します。世界では、金は米ドル建てで取引されています。なかでもロンドン市場では、1日2回「1トロイオンス=○ドル」という具合に金価格を公表しています(1トロイオンス=約31グラム)。この金の価格が、世界の金の価格の基準となっているのです。
日本国内の金価格は、この価格をそのときの為替レートで円換算して「1グラム=○円」と公表しています。そのため、ロンドン市場の金価格が変わらなくても、円安になることで国内の金価格は上昇することになります。
【米ドル円の為替レート推移】2021年〜2023年12月6日
日本銀行のデータを元に(株)Money&You作成
2022年1月ごろまで1ドル=115円ほどだった米ドル円の為替レートは、ウクライナショックを機に一気に円安が進行。2022年・2023年には一時1ドル=150円を超える展開もありました。
上で紹介した過去5年の国内小売価格と海外価格を見比べてみてください。2022年1月まではおおむね同じような値動きをしていますが、2月以降は海外価格が下落しても国内小売価格は上昇し続けています。円安によって、国内の金価格は高止まりしている、というわけです。円安になる局面では、金は値上がりの恩恵が受けられる、と言い換えることもできるでしょう。
●インフレだから
金は実物資産ですから、インフレに応じて値上がりする傾向があります。インフレは、物の値段が上がり、お金の価値が下がることです。インフレのときに資産を現金・預貯金だけで持っていると、価値が目減りしてしまいます。しかし、金の価格はインフレに応じて上がる傾向があるため、金を保有していることで資産の目減りを防ぐ効果が得られます。
実際、消費者物価指数は2021年12月以降上昇基調が続いています。変動の大きい生鮮食品を除いた総合指数は、2022年4月以降2%、2022年9月以降3%を超える上昇率を続けてきました。2023年9月分・10月分こそ2%台でしたが、依然として物価が上昇している様子がわかります。
【消費者物価指数(前年同月比・生鮮食品を除く総合指数)】
総務省「消費者物価指数」を元に(株)Money&You作成
需要があるから
他の商品と同じく、金も需要と供給の関係で価格が変わります。金の需要が供給を上回れば金価格は上昇し、反対に金の需要が供給を下回れば金価格は下落します。金は投資の対象として売買されるだけでなく、宝飾品・アクセサリー・身の回りの家電製品などにも利用されています。金の埋蔵量には限りがあるといわれています。それに対して金の需要は今後も減ることはないでしょう。となれば、需要が供給を上回り、金価格は上昇すると考えられます。
つまり、金は円安やインフレにも対応でき、今後の値上がりも期待できる投資先、というわけです。
金にはどうやって投資すればいい?
ここまでお読みになって「金に投資したい」と思われた方もいるでしょう。
金への投資方法は大きく分けて5つあります。
①金地金(きんじがね)
現物の金(インゴット・延べ棒)を購入する方法です。金地金のサイズは、5グラム、10グラム、20グラム、100グラム、500グラム、1キログラムなどがあり、サイズに応じて購入価格は変わります。1グラム=1万円だとして、1キログラム購入すれば1000万円ですから、かなりまとまった金額が必要になります。なお、500グラム未満の場合は「バーチャージ」と呼ばれる手数料がかかります。
【金地金のメリット】
・現物の金を手元に置いていつでも見られる
【金地金のデメリット】
・購入時手数料が高い
・手元に置いておくと、紛失・盗難のリスクがある
・銀行の貸金庫サービスに預けると手数料がかかる
②金貨
オーストラリアやカナダなど、外国の政府が発行する金貨を購入する方法です。こちらも、貴金属商・宝石商・商社・デパートなどで購入できます。一番小さな「10分の1オンス金貨」は3グラムほどなので、5グラムの金地金より安く購入可能。また、一番大きな「1オンス金貨」でも30グラムほどとなっています。
オーストラリアの「カンガルー金貨」にはカンガルーの刻印、カナダの「メイプルリーフ金貨」にはカエデの葉っぱの刻印がしてあり、見た目にも楽しめます。
【金貨のメリット】
・現物の金を手元に置いていつでも見られる
・デザインがよい
【金貨のデメリット】
・購入時手数料が高い
・手元に置いておくと、紛失・盗難のリスクがある
③純金積立
純金積立は、毎月一定額ずつ金の現物に積立投資していく方法です。証券会社や貴金属商、銀行などで1,000円、3,000円といった少額からスタートできます。ひとたび設定すれば、あとは自動引き落としにできるので手間もかかりません。
【純金積立のメリット】
・毎月一定額ずつ積み立てることで、金の価格が高いときには少しだけ買い、逆に価格が安いときにはたくさん買うことで平均購入単価を下げる「ドル・コスト平均法」の効果が得られる
・実物の金と交換することもできる
【純金積立のデメリット】
・所定の積立手数料がかかる(おおよそ積立金額の1.5%〜2.5%程度)
④金投資信託
投資信託は、投資家から集めたお金を資産運用の専門家が代わりに運用してくれる商品です。そして金投資信託は、金価格への連動を目指して運用される投資信託です。つまり、金に連動する投資信託を購入すれば、金価格の値上がりに合わせて資産を増やせるというわけです。
【金投資信託のメリット】
・少額から積立投資できる(ネット証券などでは、100円程度の少額からはじめることが可能)
・ドル・コスト平均法の効果が得られる
【金投資信託のデメリット】
・実物の金には交換できない
・金投資信託の保有中には信託報酬がかかる
金投資(ゴールド投資)方法⑤金ETF
ETFは「上場投資信託」といって、株式市場に上場している投資信託。証券会社で買うことができます。なかでも「SPDRゴールド・シェア(1326)」は世界最大の金ETFとして知られています。
ETFは投資信託と違い、市場でリアルタイムに取引することができます。
金ETFの価格も、投資信託と同じく金の価格に連動するため、金の値上がりに合わせて資産を増やせます。
【金ETFのメリット】
・金ETF保有中の手数料(経費)は金投資信託の信託報酬よりも低コスト
【金ETFのデメリット】
・実物の金には交換できない
・金投資信託の保有中には経費がかかる
金への投資方法まとめ
(株)Money&You作成
金投資にかかるコスト・税金に要注意
5つの金投資の購入価格と購入時手数料・保有中の手数料は、次のようになっています。
金投資にかかるコスト
(株)Money&You作成
購入価格・手数料が高いのは金地金や金貨です。価格はサイズにもよりますが、数万円から数百万円に及ぶこともあります。購入時の価格にはスプレッドと呼ばれる手数料が上乗せされますし、売買手数料もかかります。紛失のリスクをなくすために金を銀行の貸金庫に預けるにも手数料がかかります。
一方・純金積立・金投資信託・金ETFは比較的少額から取り組むことが可能。純金積立もスプレッドに加えて購入手数料がかかりますが、金地金や金貨よりは安くなっています。加えて金融機関によっては、年会費がかかる場合があります。
金投資信託や金ETFは、購入時手数料に加えて保有中の手数料もかかります。金融機関や商品によって異なりますが、金ETFの方が手数料は安く済むでしょう。
また、金投資には税金もかかります。
金投資の税金の課税方法には、分離課税と総合課税の2種類があります。金投資の種類によって、かかる税率が異なります。
【分離課税】
他の所得と合計せず、個別に税額を計算する方法
税率:一律20%(所得税15%、住民税5%)
※2037年までは復興特別所得税(0.315%)もかかる
→金投資信託・金ETFが該当
【総合課税】
給与所得など、種類の異なる所得を合計して税額を計算する方法
税率:所得税5%〜45%(所得により異なる)、住民税10%(一律)
→金地金・金貨・純金積立が該当
大きく利益が出た場合、税率は総合課税のほうが高くなるため、税金も高くなる可能性があります。
会社員や公務員といった個人が金を売って得た利益は「譲渡所得」になります。
譲渡所得は、所有期間が5年超か5年以内かで税金の取り扱いが変わります。
【譲渡所得】
・短期譲渡(所有期間5年以内)の課税所得
売却価格-(取得費+売却費用)-特別控除50万円
・長期譲渡(所有期間5年超)の課税所得
{売却価格-(取得費+売却費用)-特別控除50万円}×1/2
5年超金を所有してから売ると長期譲渡となり、所得が短期譲渡の1/2になります。税金面では長期譲渡のほうが有利です。
おすすめの金投資の方法は?
以上を踏まえると、おすすめの金投資の方法は、金投資信託や金ETFです。どちらも少額からスタートできますし、積み立てで購入することで価格変動のリスクを抑えることができます。そのうえ、大きく利益が出た場合でも税率は一定です。金に投資する際には、投資のしやすさや手数料の面を考えて選ぶといいでしょう。
もっとも、金にだけ投資すればいいというものではありません。
金には利息や配当などのインカムゲインはありません。金の利益は金の価格の上昇による値上がり益(キャピタルゲイン)のみです。
金は株式などと異なる値動きをします。政情が不安定な状態が解消されたら、株価が上がり、金価格が下がる、といった動きをすることも考えられます。金投資は、あくまで資産全体の値下がりリスクを抑えるために行うのが基本戦略。分散投資の一環として株や投資信託などと組み合わせて投資しておくことが大切です。
金が有事に強いこと、金価格が上昇する要因には円安やインフレなどもあることを紹介しました。金に投資する方法はさまざまですが、特に金投資信託や金ETFを利用すれば、手軽に金の値動きの力を生かした投資ができます。堅実にお金を増やすためにも、分散投資の一環として、ぜひ資産の一部に金を取り入れてみてください。
頼藤太希 (株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など著書累計130万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。