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投資信託に「隠れコスト」表示されるようになったのは本当?

投資信託の主な手数料といえば、購入時手数料・信託報酬・信託財産留保額の3つです。実はこれらに加えて、「隠れコスト」と呼ばれる手数料も存在しています。この隠れコスト、以前は投資信託の目論見書には表示されていなかったのですが、2024年4月以降、目論見書に「総経費率」の形で表示されるようになりました。

今回は、投資信託の主な手数料と隠れコストがどのように目論見書に表示されているかを紹介します。

投資信託の主なコストは3種類

投資信託の主なコストには、次の3種類があります。

投資信託を買うとき…購入時手数料

購入時手数料は、投資信託を購入するときに投資信託の販売会社に支払う手数料です。

購入時手数料は、「投資信託の購入金額に対して◯%」という具合に記されています。たとえば、購入時手数料が2%の投資信託を100万円分購入した場合、購入時手数料は2万円です。この2万円は、100万円のなかから支払われますので、運用が98万円からスタートすることになります。

購入時手数料はおおむね、0%〜3%の間で設定されています。投資信託の中には、購入時手数料がかからない「ノーロード」と呼ばれる投資信託も多くあります。また、ネット証券などでは、取り扱いのあるすべての投資信託の購入時手数料を無料にしているところもあります。


購入時手数料は販売会社が自由に決められるため、同じ投資信託でも販売会社によって購入時手数料が違うこともあります。購入時手数料があってもなくても、購入できる商品自体はまったく同じものなのですから、購入時手数料はない方がお得です。また、利用する金融機関も、なるべく購入時手数料をとらないところを選んだほうがいいでしょう。

投資信託の保有中…信託報酬

信託報酬は、投資信託を持っている間に投資信託の販売会社・運用会社・信託銀行が差し引く手数料です。信託報酬は「年○%」と年率で記載されていて、投資信託の信託財産の中から毎日一定の割合で差し引かれていきます。信託報酬はおおよそ、年0.1%〜3%程度になっています。

投資信託の売却時…信託財産留保額

投資信託を売るときにかかる手数料が「信託財産留保額」です。目安としては、投資信託を解約するときの時価(基準価額)に対して0.1〜0.3%ですが、かからない投資信託も多くあります。

信託財産留保額は、厳密には手数料ではありません。なぜなら、投資信託の販売会社・運用会社・信託銀行の利益にならないからです。

投資信託を売るときには、投資信託の中に含まれる株式や債券などを現金化するコストが発生します。しかしこのコストを、投資信託を保有継続している他の投資家が負担するのは不公平です。そこで、信託財産留保額を投資信託の運用資産に留保し、他の投資家に還元するのです。したがって、信託財産留保額は、投資信託を長期保有する方にとってはポジティブなコストです。

3つのコストのなかで、もっとも気を付けなければならないのは信託報酬です。投資信託は数十年にわたって投資・保有することでお金を増やす商品なので、信託報酬が少し違うだけで、投資結果に大きな差を生みます。それに、購入時手数料や信託財産留保額はかからない商品もたくさんありますが、信託報酬はどの投資信託でもかかります(期間限定でゼロにしている投資信託もありますが、ごくわずかです)。

もちろん、信託報酬も安いに越したことはありません。

投資信託にはその他にもコストがかかる

投資信託にかかるコストは、実はこれだけではありません。冒頭でお話ししたように、投資信託には他にも「隠れコスト」と呼ばれる費用や手数料がかかっています。たとえば、次のようなコストです。

監査報酬

投資信託は原則として決算ごとに、監査法人などから監査を受ける必要があります。その監査にかかる費用が監査報酬です。信託報酬と同じく、投資信託の信託財産のなかから差し引かれます。

売買委託手数料

売買委託手数料は、投資信託の中で投資する株式などを売買するときに発生する費用です。

そのほか、投資信託の隠れコストには有価証券を取引するたびに発生する「有価証券取引税」、有価証券を海外で保管するときの「保管費用」、事務処理などの費用もあります。投資信託によって、かかるコストの種類や金額に違いがあります。

ただ、前述の3つのコストとは違い、これらのコストはこれまで、投資信託を購入するときに目を通す目論見書には記載されていませんでした。そのため、目論見書に記載のない「隠れ」コストだと言われてきたのです。

目論見書に記載される「総経費率」

もちろん、投資信託の運用会社は隠れコストを意図的に隠しているわけではありません。隠れコストは、各投資信託が発行する「運用報告書」に記載されています。隠れコストは、前もっていくらと示すことができない事後費用なので、目論見書にも明示してこなかったのです。

ただ、いくら信託報酬などのコストが安くても、隠れコストを加えるとトータルのコストが高くなってしまう場合もあります。

たとえば、「PayPay投信NASDAQ100インデックス」は、信託報酬が年0.417%なのに対し、その他の隠れコストの合計が0.5%と、合計で0.917%と信託報酬よりかなり高くなっています。

<PayPay投信NASDAQ100インデックスのコスト>

PayPay投信NASDAQ100インデックスの運用報告書より

つまり、同投資信託の保有コストは年0.917%です。

仮に、保有コストが年0.417%の投資信託と年0.917%の投資信託に月1万円ずつ、30年にわたって投資して運用利回りが年3%だった場合、運用成果には約44万円の差が生じる計算です。

<投資信託の保有コストと運用成果>

(株)Money&You作成

そこで投資信託協会は、投資信託の運営会社各社に対して、目論見書に「総経費率」を記載するルールを定めています。

総経費率は、信託報酬や隠れコストの合計を表す「総経費」が投資信託の規模を表す「純資産残高」に占める割合を年率で表したものです。つまり、投資家は、信託報酬だけでなく総経費率を比べることで、コストが本当に安い投資信託がわかるようになります。

目論見書の見方をチェック

目論見書の手数料に関わる部分の見方を確認していきましょう。ここでは「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書を元に紹介します。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の「手数料」>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

①は投資者が直接的に負担する費用として、購入時手数料と信託財産留保額が示されています。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、購入時手数料・信託財産留保額は無料となっています。これらの手数料がかかる投資信託の場合、その手数料率が示されます。

②は投資者が信託財産で間接的に負担する費用、信託報酬です。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は年率0.05775%で、委託会社・販売会社・受託会社それぞれの配分比率が記載されています。なお、eMAXIS Slimシリーズには純資産総額が増えるごとに実質的な信託報酬率が下がる「受益者還元型信託報酬」という仕組みがあることも説明されています。

そして③が今回お話しした「隠れコスト」です。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、隠れコストには

・監査法人に支払われるファンドの監査費用
・有価証券等の売買時に取引した証券会社等に支払われる手数料
・有価証券等を海外で保管する場合、海外の保管機関に支払われる費用
・外国株式インデックスマザーファンドおよび新興国株式インデックスマザーファンドの換金に伴う信託財産留保額
・その他信託事務の処理にかかる諸費用 等

があることが記されています。

隠れコストの具体的な金額は、注釈に「上記の費用・手数料については、売買条件等により異なるため、あらかじめ金額または上限額等を記載することはできません」とあるように、ここには記載されていません。

そこで、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の運用報告書を見ると、隠れコストがいくらかかったがわかります。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の運用報告書>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の隠れコストは、売買委託手数料0.006%、有価証券取引税0.015%、その他費用0.032%ですから、合計すると0.053%です。信託報酬の0.113%※と合計すると、0.166%となります。

※eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は2023年9月8日に年0.05775%に引き下げられています。

これを踏まえた上で、目論見書を改めて見てみましょう。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の場合、目論見書の最後に参考情報として「ファンドの総経費率」が記載されています。

<eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率>

「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書より(株)Money&You作成

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率は0.15%。そのうち運営管理費用(信託報酬)が0.11%、その他費用(隠れコスト)の比率が0.03%とわかります。

なお、総経費率は、過去の運用実績をもとにして計算されるため、これから運用がスタートする新規設定の投資信託の目論見書には記載されません。

総経費率には含まれない費用もある

ここで、少し不思議に思われるかもしれません。運用報告書では、隠れコストが「0.053%」だったのに対し、その他費用の比率が「0.03%」と、少し違っているからです。「表示桁数未満四捨五入」の影響とも、少し違うようです。

下の注を見ると

当期間の運用・管理にかかった費用の総額(原則として購入時手数料、売買委託手数料および有価証券取引税を除く。消費税等のかかるものは消費税等を含む。)を当期間の平均受益権口数に平均基準価額(1口当たり)を乗じた数で除しています。

とあります。

つまりeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の総経費率に占める「その他費用の比率」は、隠れコストのうち購入時手数料・売買委託手数料・有価証券取引税を除いた金額の比率になっているのです。言い換えると、運用報告書にあった隠れコストのうち、ここに含まれるのは「その他費用」(0.032%)のみとなります。

目論見書の総経費率は隠れコストが手軽にわかって便利なのですが、あくまで概算です。一部含まれない費用があることは押さえておきましょう。

投資信託の隠れコストが目論見書に表示されるようになっていることを紹介しました。信託報酬は投資信託のコストを知るために引き続き重要な指標であることに変わりはないのですが、これからは総経費率を比べることが大事。目論見書で簡単に比較できるようになってきますし、詳しく知りたければ運用報告書を見るとわかります。投資信託選びの際に、ぜひ確認してみてください。

頼藤 太希(よりふじ・たいき) マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍90冊、著書累計160万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧twitter)→@yorifujitaiki

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