1. HOME
  2. プロが教えるお金・投資
  3. リスクを取りたくない…定期預金とiDeCo、どっちが得?

リスクを取りたくない…定期預金とiDeCo、どっちが得?

2024年は投資で得られた利益にかかる税金がゼロにできる「新NISA」が話題になりました。これまで投資をしてきた人はもちろん、投資をしたことがなかった人のなかにも、新NISAを利用して投資をしている人がいるでしょう。

ただ、投資に抵抗感のある人もいるようです。これまでやってこなかった投資ですから「お金をどうしても減らしたくない」と考えるのも、無理はありません。そうした「リスクを取りたくない」人のお金の預け先のひとつとして考えられるのが、定期預金です。

定期預金には、銀行で用意されている定期預金のほかに、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)で利用できる定期預金もあります。この2つの定期預金、どちらを利用したほうが得なのか、一緒に考えてみましょう。

定期預金はiDeCoでも利用できる

定期預金には、銀行などにお金を預ける定期預金と、iDeCoの掛金の運用先として利用できる定期預金があります。

銀行の定期預金

銀行の定期預金は、ご存じの方も多いでしょう。預ける期間を定めない「普通預金」とは違って、数か月〜数年などと、預ける期間を決めて預ける預金です。はじめにまとまった金額を一括で預け入れる「一般定期預金」、最低預入金額1000万円など、比較的多くのお金を預け入れる「大口定期預金」、普通預金から毎月一定額ずつ引き落としたお金を積み立てる「積立定期預金」などの種類があります。

定期預金の金利は、同じ銀行の普通預金よりも金利が高く設定されていることが多くなっています。2024年は日銀(日本銀行)のいわゆる「マイナス金利政策」が解除され、2度にわたって政策金利(銀行預金やローンの金利のもとになる金利)が引き上げられたことをうけ、普通預金だけでなく定期預金の金利もやや上昇しています。

一般的に定期預金では、預ける金額が多く、預ける期間が長いほど、金利が高い傾向があります。大手銀行の場合、普通預金で年0.1%なのに対し、定期預金で年0.125%(1年)、年0.3%(10年)などとなっています。金融機関によっては、より高い金利を提示しているところや、預入当初の金利を高く設定しているところもあります。

定期預金は、満期を迎えれば引き出せますが、「元利継続」を選択すれば、利息も元本に加えて再度同じ定期預金を継続できます。この場合、利息が次の利息を生み出す複利効果が得られます。また、定期預金は中途解約をすることもできます。ただ、その場合には本来の定期預金の金利よりも低い金利が適用されてしまうことには注意が必要です。

なお、定期預金には元本保証があり、万が一金融機関が破綻しても、同じ金融機関に預けた預金などの残高などと合わせて元本1,000万円までとその利息は保護されます。

iDeCoの定期預金

iDeCoは、国民年金・厚生年金といった公的年金の上乗せで自分年金を作れる制度です。自分で出した掛金を運用し、その成果を原則60歳以降に受け取ります。

iDeCoでは、掛金を出すとき、運用しているとき、受け取るときの3つのタイミングで税金が節約できるため、おトクに老後資金を用意することができます。

iDeCoの運用商品には「定期預金」「保険」「投資信託」3種類があります。このうち、定期預金と保険は「元本確保型商品」といって、一定の期日まで保有していれば元本が保証されています。投資信託は、元本保証はありません。

iDeCoの定期預金も、銀行の定期預金と同じく、一定期間(多くは1年・3年・5年など)お金を預ける仕組みです。満期を迎えると、再び同じ期間で定期預金に再投資されます。

iDeCoで定期預金を利用するメリット・デメリット

銀行の定期預金とiDeCoの定期預金には、どんな違いがあるのでしょうか。ここでは、iDeCoで定期預金を利用するメリット・デメリットを確認しながら、その違いを紹介します。

iDeCo最大のメリットは「所得控除」

iDeCoでは掛金を出すとき、運用しているとき、受け取るときの3つのタイミングで税金が節約できるとお話ししました。このうち最大のメリットといえるのが、掛金を出すことでできるようになる「所得控除」です。

iDeCoで出した掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象です。所得控除とは、税金の計算のもとになる「所得」から掛金の分を差し引く(控除)こと。税金の額は、所得控除をしたあとの所得(課税所得)に税率をかけて計算します。ですから、所得控除に算入することができることで課税所得が少なくなり、毎年の所得税や住民税が安くできるのです。

たとえば、ある会社員がiDeCoで毎月2万円の掛金を出した場合、年間の掛金の合計額24万円が所得控除できます。仮に、この会社員の所得税率が5%(住民税率は一律10%)だとしたら、所得税が年1万2000円、住民税が2万4000円、合計3万6000円安くできます。これを30年間続けたら、自分の老後資金を貯めながら税金を108万円も減らせます。

銀行の定期預金にはこのような所得控除のメリットはありませんので、この点ではiDeCoのほうがお得です。

運用益非課税の恩恵はあるが…

定期預金で得られた利息には、20.315%の税金がかかります。銀行の定期預金の場合は、あらかじめこの割合の利息が引かれたうえで口座に振り込まれます。一方、iDeCoの場合は、運用で得られた利益は全額非課税ですので、利息からは税金が引かれません。iDeCoの定期預金の利息は満期を迎えると自動的に元本に組み入れられ、引き続き運用が行われます。したがって、運用益非課税の面でもiDeCoの定期預金のほうがお得だといえます。

ただ、iDeCoの場合、投資信託で得られた利益にかかる税金もゼロにできます。定期預金の利息はこのところ多少上がったとはいえ年0.1〜0.3%程度ですから、それほど多くありません。一方、投資信託には元本保証はなく、商品によっても異なりますが年数%程度の利益を上げる期待もできます。この利益にかかる税金もゼロにできることを考えると、定期預金では運用益非課税の恩恵を少々生かしきれていないという側面もあります。

掛金を出せる期間にも限りがあり、60歳まで引き出せない

iDeCoに加入して掛金を出すことができるのは、原則20歳以上65歳未満の方です。会社員・公務員・国民年金の任意加入者(60歳〜65歳の間に国民年金保険料を支払い、保険料の納付月数を増やそうとしている人)は65歳未満、その他の人(自営業・フリーランス・専業主婦(夫)など)は60歳未満までとなっています。今後「70歳」などに延長することも検討されていますが、現状はこのとおり、掛金を出せる期間に限りがあります。

また、iDeCoの定期預金のお金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。iDeCoの資産を60歳から引き出すには、iDeCoへの加入期間(iDeCoの掛金を納付した期間+掛金の拠出をしない運用指図者だった期間)が10年以上必要。60歳時点で加入期間が10年未満なら、加入期間に応じて受け取り開始のタイミングが遅くなります。

一方、銀行の定期預金は年齢制限なく何歳でも利用できます。そのうえ、満期になればお金を引き出せるのはもちろん、中途解約もしようと思えばできます。お金の自由度が高いという面では、銀行の定期預金に分があるでしょう。

手数料がかかる

iDeCoは、口座開設時に2829円の口座開設手数料、口座開設後に毎月原則171円の手数料が必ずかかります。さらに、金融機関によっては月数百円の運営管理手数料がかかる場合もあります。銀行の定期預金は手数料がかかりませんので、銀行の定期預金の方がお得といえそうです。

ペイオフの合算対象

定期預金の資産もiDeCoの定期預金の資産も、金融機関が破綻した場合にペイオフの対象となります。ペイオフとは、金融機関が破綻した場合に預金保険機構が銀行に代わって保険金を支払う制度です。ペイオフによって、1人1金融機関あたり元本1000万円とその利息まで保護されます。なお、1000万円を超える部分については戻ってこない可能性があります。この条件は、銀行の定期預金でもiDeCoの定期預金でも同じです。

iDeCoで定期預金、やったほうがいい?

 以上を踏まえて、iDeCoで定期預金をやったほうがいいのか、それともiDeCoを使わず銀行の定期預金を利用したほうがいいのかを考えてみましょう。

iDeCoの定期預金を利用すれば、所得控除で手数料をカバーできる

iDeCoの最大のメリットは、所得控除が受けられて所得税や住民税が安くできることでした。その金額は年間に出した掛金の金額によっても異なりますが、iDeCoの毎月の手数料を差し引いてもiDeCoで定期預金を利用したほうがずっとお得にできるでしょう。

iDeCoの定期預金を利用しても、老後資金以外の資金を用意できない

一方、iDeCoの最大のデメリットとされるのが、60歳まで引き出せないことです。iDeCoはあくまで公的年金の上乗せを作ることができる制度ですので、貯めたお金を使う用途は「老後資金」です。

ですから、iDeCoは結婚・出産・住宅購入・子育て・余暇資金などといった、老後資金以外のお金、数年以内に発生するライフイベントにかかわるお金を用意するのには向きません。そうしたお金を用意するのは、銀行の定期預金のほうがよいでしょう。

長期間時間が取れるなら投資信託のほうがおすすめ

iDeCoは、老後資金を用意するのにとても向いています。デメリットとしてお話しした「60歳まで引き出せない」という点も、老後資金を確実に用意するという観点でみれば、むしろメリットになります。ただ、長期間時間が取れるのであれば、定期預金よりも投資信託を利用するのがおすすめ。投資信託は、運用のプロが運用方針に沿って私たちの代わりに株・債券・不動産といった商品に投資してくれる商品。もちろん、元本保証はないので今回の趣旨からはずれてしまいますが、長期・積立・分散投資といった王道の投資に取り組むことで、お金を堅実に増やす期待ができます。定期預金よりも大きく増えれば、その分老後に使えるお金も増やせます。

「リスクを取らずにお金を増やしたい」という観点で、銀行の定期預金とiDeCoの定期預金を比較してきました。お金をより効率よく増やし、老後資金にあてたいというのであればiDeCoがおすすめ。その他のライフイベント、特に数年以内に使うお金を貯めるのであれば銀行の定期預金が向いています。両者の特徴を踏まえて、より自分にあった方法を利用していきましょう。

高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー

一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計170万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

関連記事

【はじめよう、お金のこと】72ってなに?