最新金利動向とマンション投資への影響は?【プロが教える不動産投資コラム】
金利の動向は日本経済を始め不動産価格や不動産投資にも密接な関連があります。日銀の金融緩和政策は続いていますが、米国の金利上昇などの影響もあり日本の長期金利は上昇傾向にあります。
首都圏のファミリーマンション価格は上昇傾向にあり平均で1億円を超え過去最高となっています。
では、今後のワンルームマンションなどにはどのような影響が出てくるのでしょうか。今回のコラムではこうした金利動向やマンション価格と不動産投資について検証してみたいと思います。
長期金利は上昇傾向に
日銀はデフレ克服と経済発展のために金融緩和政策を実施しており、これは消費者物価が安定的に2%の上昇を達成するまで継続する意向です。
長期金利の許容上限は2022年12月に0.25%から0.5%と拡大されました。さらに2023年7月にはさらに0.5%超え、事実上1%をキャップレートとする考えを表明しています。
これを受けて長期金利は上昇傾向にあり、この原稿を執筆している時点でも2023年10月23日に0.860%、10月25日に0.865%、26日に0.885%、30日に0.890%、さらに31日には0.955%と日々上昇しています。長期金利は約10年ぶりの高水準となり上限の1%に近づきつつある状況が続いています。
さらに日銀は2023年10月の金融政策会議で1%を一定程度超える事を容認しました。今後も長期金利は上昇の可能性も高くなっています。
日銀の長期金利許容変動幅
時期 | 金利許容範囲 |
---|---|
2021年03月 | 変動幅0.25%を明確化 |
2022年12月 | 0.25%から0.5%へ |
2023年07月 | 0.5%超えを容認、事実上の上限1%へ |
2023年10月 | 1%を一定程度上回る事を承認 |
金利差と円安の関係は
米国ではインフレが進行しており金利が上昇傾向にあります。その背景には米国における力強い経済動向があります。
例えば高金利にも関わらず消費者物価が高い水準で推移し雇用情勢も堅調となっているようです。また欧州各国でも金利は上昇傾向にあり、先進国では日本のみが低金利政策を続けている状況です。
こうした金利差から円安も加速し、2023年10月には一時150円台になるなど円安が続いています。円安では主に輸出企業などの収益が増え、主要企業では大きな利益が出ると予想される反面、輸入企業はコストが増加、またエネルギー、資源などを始め輸入物価の上昇により国内物価の上昇にも繋がっています。
これがいわゆるコストプッシュ型のインフレにつながっている訳です。
ファミリーマンション価格は上昇傾向に
ファミリーマンション価格に目を向けると、不動産経済研究所の調べによると東京都区部の新規ファミリーマンション価格は2023年1~6月には1億572万円と1億円の大台となり、1991年度の9555万円を32年ぶりに上回り、過去最高となりました。
国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」では、日本人の給与所得者の平均年収は約457万円となりました。
この平均年収と都区部のマンション価格の倍率を見ると、なんと約23倍となります。東京カンテイの発表した2021年の新築マンションの年収倍率は全国平均で8.93倍となっており、東京都区部のマンション価格が大きく上昇している事が分かります。
価格が上昇している要因として、地価・建築費の上昇など様々な要因がありますが、大きな要因の一つとして「低金利」によるマンション購入力の拡大からの需要増が挙げられます。
住宅ローン金利は史上最低水準にあり、金利が低ければ同じローン返済額でもより高額のマンションが購入できる事になります。さらに共働き夫婦による、いわゆる「パワーカップル」が増加し、世帯収入が多くマンションの購入意欲も旺盛となっています。
また円安も続いており、有利に購入できる事から外国人などの都心タワーマンションの購入も多くなっています。
長期金利と住宅ローン金利の関係は
マンション購入に利用される住宅ローンのうち「固定型」の金利は長期金利の影響を受けます。長期金利は10年ものの国債の値動きに連動します。市場の長期金利が上昇していますので、住宅ローンの固定金利も上昇傾向となっています。
米国は中東情勢を受けて長期金利が上昇しており16年ぶりに一時5%を超える事態となっています。日米金利差が開く中で国内の金利上昇圧力も高まってくる可能性もあります。
但し現在の上昇幅は10年固定型で0.05~0.1%と小幅であり、返済額の大幅な上昇には至っていません。フラット35(借入期間:21年以上35年以下、融資率9割以下)の10月は最も多い金利で1.880%と低く、このため低金利を背景としたマンション購入意欲は依然続く可能性もあります。
変動金利と不動産投資ローンの関係は
投資マンション購入などに利用される不動産投資ローンは「変動型」が多く、これは短期金利に連動して動きます。住宅ローンの「変動型」の金利も短期金利に連動します。
短期金利は政策金利となっており、日銀によって低く抑えられています。長期金利が市場の動きに連動するのに対して短期金利は低い水準のままとなっています。
特に現在は「マイナス金利」政策が取られており、短期金利は過去最低水準となっています。日銀の発表している公表データによると、短期プライムレートの最頻値は2009年に1.475%となり現在まで変わっていません。
今後の短期金利の動きは
では今後は「短期金利」も上昇するのでしょうか。
日銀は10月の金融政策決定会合で、大規模金融緩和の継続を表明しています。金融緩和の終了の条件として安定的な2%の物価上昇や賃金水準の上昇などを上げています。
日米金利差による円安や、それに起因する物価の上昇が続いており、日銀の金融政策への批判も高まってきています。
現在の物価上昇は円安や世界情勢による要因が多く、国内の安定的な物価の上昇とは言い切れない部分があります。賃金の上昇が広まってきていますが、まだ実質賃金はマイナスの状況です。
しかし、連合では2024年の春闘で5%以上の賃上げを目指す方針である事が報道されています。給与水準の上昇が続けば金利上昇の下地も形成されてくると言えます。
但し過去の金利水準から見ると、現在は史上最低水準の金利の低さとなっており、少々金利が上昇してもまだ金利は低水準の圏内にあると言えます。もし短期金利が上昇しても、上昇幅は小幅で、長期的に経済の動きを見極めながら上昇するので大幅な金利上昇の可能性は低いと筆者はみています。
今後のファミリーマンション価格の動きは
東京都都区部のマンション価格は高水準にあり、一般のサラリーマンから見ると「高嶺の花」となってきています。地価・建築費の上昇、低金利、そして東京の新線・再開発、人口の集中などで東京の不動産のポテンシャルは高く、世界的な不動産価格、特にNYやロンドンなどと比較するとまだ割安感があると言え、海外からの購入・投資も多くなっています。
住宅ローン金利のうち固定型は上昇傾向にありますが、また上昇幅はそれほど大きくはありません。つまり低金利による需要増が続く可能性もある訳です。
但し平均価格上昇の要因として高額物件の発売もあり、価格は二極化が進む可能性もあります。
金利上昇が投資マンション市場へ与える影響は
金利上昇の影響は居住用マンションと投資用マンションでは異なると言えます。
居住用のファミリーマンションなどにおいては居住者本人がダイレクトに影響を受けます。それは毎月の返済金額が増加するからです。
投資用マンションにおいては多少金利が上昇し返済金額が増加したとしても、下記など影響は少ないと考えられます。
- インフレによる賃料アップによりある程度カバーできる
- 金利上昇により年間の返済金額に占める利息割合が増え節税効果が増す
- インフレ⇒金利上昇により物件の資産価値も上昇する
投資用ワンルームマンション価格については、地価・建築費などの影響もありますが、その物件の収益、つまり賃料から算出される事が多くなっています。これを収益還元法と言います。このため投資用のワンルームマンションなどは居住用のマンションのように大きく価格が上昇する可能性は少ないと言えます。
つまり金利の上昇には、居住用マンション購入にとってはローン返済額上昇など不利な条件となりますが、マンション経営にとっては景気上昇など有利な点も多いと考えられます。
不動産投資は物件選択が重要
このように不動産購入においては金利の動きは極めて重要です。但しこれからは物件の立地、将来性、収益性も含め「金利上昇をカバーしやすいマンション」と「金利上昇のダメージを多く受けるマンション」との差が拡大する時代となりますので、改めて物件選択の見極めが重要となると考えます。
今後も金利上昇の傾向もありますが、マンション投資にとってはまだ影響は少ないと考えても良いのではないでしょうか。
<ご注意>執筆内容は2023年10月31日時点の情報を基にしており、その後の情勢は変化する可能性もあります。