災害への「お金の備え」、防災グッズだけでは足りない理由
地震大国・日本では、いつ災害が起きてもおかしくありません。「お金の備え」と聞くと防災グッズを思い浮かべる方も多いですが、実は生活を立て直す段階になって本当に必要になるのはお金です。東日本大震災では、住宅再建費用の平均約2500万円に対し、公的支援は約400万円にとどまり、約2100万円もの自己負担が生じました。本記事では、保険の見直し・生活防衛資金・家計改善・長期的な資産形成という4つの視点から、災害時にも暮らしを守るための「お金の備え」を整理します。
地震はどれくらい起きている?最新の発生状況を確認
日本地震学会によると、日本・日本周辺では例年、1年間で2000回程度の有感地震(震度1以上の地震)が発生しているそうです。大きな地震が起きたときなど、地震活動が活発になったときには増加する傾向にあります。
2020年以降の有感地震の回数(震度別)は、以下のようになっています。
<2020年以降の有感地震>

参照:気象庁「震度データベース」より(株)Money&You作成
有感地震の回数は、2023年までは確かにおおよそ2000回前後となっています。2024年は震度7を記録した能登半島地震がありました。加えて、2024年〜2025年は鹿児島県の南西、トカラ列島周辺での群発地震の影響もあり、地震の回数が多くなっています。
2026年は7月13日までのデータと考えると、地震の回数はほぼ例年並みですが、震度5弱以上の大きな地震は比較的多く感じられます。島根県、長野県、岩手県、北海道、沖縄県、茨城県、山梨県など、震源の位置もさまざまです。日本に住む以上、いつ地震に遭ってもおかしくないといえるでしょう。
9月1日は「防災の日」。1923年9月1日に発生した関東大震災の教訓を忘れないようにするために制定されました。防災の日を前に、備えを見直しましょう。
地震への備えとは?「発生直後」と「その後」の2段階で解説
地震の備えには、「発生直後の備え」と「その後の備え」の2つがあります。
●発生直後の備え
地震が起きたときに何より大切なのは、身の安全を確保することです。揺れを感じたときや緊急地震速報を受信したときには、落ち着いて揺れに備え、安全確保を最優先に行動しましょう。
電気・ガス・水道といったライフラインが寸断される可能性もあります。防災グッズはあらかじめ用意しておきたいところです。首相官邸のウェブサイトでは、非常時に持ち出すものをリュックサックに詰めて、いつでもすぐに持ち出せるようにしておくことを勧めています。
<備えておきたい防災グッズ>

参照:首相官邸「災害の「備え」チェックリスト」より
リストにないものでも、家庭で必要なものは日ごろから備えておくとよいでしょう。
災害時には、スマホなどの通信回線もつながりにくくなる可能性があります。伝言を記録できる「災害用伝言ダイヤル(171)」や「災害用伝言板(web171)」を利用することで家族などと連絡を取り合うことができます。以下の期間は「体験期間」で、実際に試すことができますので、万が一に備えて使い方を確認しておくと安心です。
- 毎月1日、15日 00:00~24:00
- 正月三が日(1月1日00:00~1月3日24:00)
- 防災週間(8月30日9:00~9月5日17:00)
- 防災とボランティア週間(1月15日9:00~1月21日17:00)
地震に限らず、どんな災害が起こるリスクがあるのかを確認しておくことも大切です。お住まいの自治体のウェブサイトなどには、地域の防災マップやハザードマップが用意されています。前もってチェックし、避難場所や避難経路を確認しておきましょう。
地震の被害に遭い、避難所の生活を余儀なくされる方もいます。生活環境を整えるとともに、困っていることがあれば自治体や支援者などに詳しく相談してみましょう。
●その後の備え
地震の規模や被害の状況にもよりますが、地震から数週間〜数ヶ月後には、生活を元に戻すための動きが始まります。学校や仕事が再開したり、住宅などを再建したり、復興に向けてやることは山積みです。このフェーズになって必要になるのは、やはりお金です。
内閣府のウェブサイトによると、2011年の東日本大震災で全壊した住宅を新築する際の費用は平均約2500万円でした。しかし、公的支援として受給できた金額は善意の義援金を含めても約400万円。住宅の再建だけで約2100万円が不足していたのです。これに加えて家財道具を用意したり、引っ越しをしたりすることもありますので、必要な金額はもっと多くなります。災害の「その後の備え」として、生活を立て直すためのお金を用意しておくことはとても大切です。
災害時のお金、こんなときどうなる?よくある疑問Q&A
地震をはじめ、災害が起こったときに気になることをまとめて紹介します。
●災害時に現金が必要でも、被災でキャッシュカード、通帳、印鑑がなくなってしまった…どうすればいい?
災害時にはキャッシュレス決済が使えなくなることもあります。現金が必要になるかもしれません。しかし、キャッシュカードや通帳、印鑑などがなくなってしまったという場合は本人確認書類を見せて、印鑑がわりに母印を押すなどの手続きをすれば、10万円程度であれば引き出しができます。
●紙幣が破けた!燃えた!交換してもらえる?
災害に遭って紙幣が破れたり燃えたりした場合、お近くの銀行で交換に応じてもらえますので、問い合わせてみましょう。
表・裏両面があって面積が3分の2以上あれば全額として交換してもらえます。1万円なら1万円に交換できます。面積が5分の2以上3分の2未満の場合は半額として交換してもらえます。1万円なら5000円に交換できます。5分の2未満の場合は、残念ながら失効してしまいます。
灰になってしまったお金は、その灰がお金だと確認できれば面積に含めてもらえますので、箱に入れるなどしてなくさないようにしましょう。
●被災中にケガや病気をしたもののマイナンバーカードや資格確認書がない…病院は3割負担になる?
大きな災害であれば、「災害救助法適用地域」に指定されます。この指定がある場合、マイナンバーカードや資格確認書がなくても医療機関の窓口で氏名・生年月日・連絡先・加入している医療保険の名称・勤務先などを口頭で伝えるだけで、保険診療を受けられます。住居が全壊・半壊などしている場合や、病状が重い場合などには、3割の医療費(自己負担分)の支払いの猶予も受けられることがあります。
●損害保険を申請する際の注意点は?
損害保険の申請をするときには、被害に遭ったことを証明しなくてはなりません。すぐに片付けて掃除したいと思うかもしれませんが、その前にお手持ちのスマホなどで被害の状況を写真に収めておきましょう。1枚だけではなく、全体を写したもの、アップにしたもの、角度を変えたものなど、たくさん撮っておきます。小さな傷であっても証拠があれば対象になる場合があるので、こまめに撮影しておいたほうがよいですね。
写真は保険だけでなく、自治体に提出する罹災証明書にも必要になる場合がありますので、冷静に対応しましょう。
災害に強い「お金の備え」、押さえるべき3つのポイント
万が一被災した場合に、生活を立て直すために必要な「お金の備え」のポイントには、次のものがあります。
●保険に正しく入っているかを確認
災害によって自宅に住めなくなってしまうこともあるかもしれません。火災保険では、家が火事・洪水・落雷などの被害に遭ったときに補償を受けられます。家財の補償もつければ、家電や家具が損害を受けた場合に保険金を受け取ることができます。
ただ、火災保険は地震の被害では保険金が出ません。地震の被害をカバーするには地震保険が必要です。地震保険は、火災保険とセットで加入します。地震に備えたいのであれば、地震保険にも加入しているかを確認しておきましょう。
保険証券をなくしてしまったという場合も、保険会社や保険代理店に連絡すればどんな保険契約だったかを確認できます。今、とくに被害に遭っていないという場合でも、平常時から自分がどんな保険に入っているのかを把握しておくのは大切ですので、もしわからないのであれば確認しておきましょう。
●生活費の6ヶ月分の預貯金を準備
災害が起きると、まとまったお金が必要になることがあります。公的支援が受けられたり、保険金がもらえたりするケースもありますが、実際に支給されるまでには時間がかかるものです。まずは最低でも生活費の6ヶ月分程度のお金を預貯金で確保しておきましょう。
●家計の見直しや固定費の削減
生活費の6ヶ月分の預貯金を準備するには、家計の見直しや固定費の削減が欠かせません。お金を貯めるために最優先で取り組むべきは「支出を減らす」こと。支出削減には限度こそありますが、1万円減らせればすぐに使えるお金が1万円増えることになるので、効果がすぐに得られます。
上手に節約するポイントは、金額の大きなもの・効果が持続するもの・我慢が不要なものを優先することです。
節約はまず、毎月決まって支払う固定費から。固定費には、家賃、スマホ代、電気・水道・ガス代、生命保険料などがあります。これらの費用はそれなりに高額になることも多いので節約効果も大きくなります。また、節約すればその効果がその後ずっと続きますし、我慢することなく節約効果を得続けられます。
固定費の削減ができたら、次は無駄遣い。コンビニ・ドラッグストア・自販機などのちょこちょこ買い、カフェ代などの「ラテマネー」を削れば、さらに支出を抑えることができるでしょう。ひとつずつ見直して、確実に減らしていきましょう。
災害に負けない資産形成、NISA・不動産投資はどう活きる?
「お金の備え」ができたら、次は暮らしを守るための資産形成にも取り組みましょう。十分な資産があることは、災害時の精神的な安心につながるだけでなく、災害後の選択肢を広げてくれます。
毎月の支出を抑え、生活費の6ヶ月分の預貯金を準備できたら、使う予定のないお金を先取りで投資に回すことで、毎月確実に投資することができます。
投資を始めるならまずはNISAから。NISAは投資の利益にかかる20.315%の税金がゼロにできる制度です。つみたて投資枠と成長投資枠という2つの投資枠を利用して一生涯にわたって運用益非課税の投資ができます。
NISAで投資を行う際には、長期・積立・分散投資を心がけることが重要。NISAなら生涯にわたって非課税の投資が可能。コツコツ積立投資ができます。投資信託を利用すれば1本で複数の商品に分散投資したのと同様の効果が得られます。個別株も今や1株単位で購入できますので、自分で分散投資してもよいでしょう。NISAを利用すれば長期・積立・分散投資が簡単にできます。
NISAで投資をするときには「低コスト」の商品を選ぶことも大切です。投資の成果は事前にわかりませんが、手数料は安い商品を選べるからです。投資信託の場合は保有中の「信託報酬」がなるべく安いものを選ぶようにするとよいでしょう。つみたて投資枠の商品は信託報酬が一定水準未満のものが揃っていますが、そのなかでもさらに安いものを選ぶのがポイントです。
長期の目線で考えれば、NISAだけでなく不動産投資にも取り組んでおきたいところです。不動産投資は、投資用の物件を購入して貸し出すことで賃料を得る投資です。
不動産から得られる家賃収入は、簡単に減るものではありません。不動産はマーケットの暴落にも強い資産です。暴落したからといって、みんな引っ越してしまうわけではないからです。ですから株式のように大きな値動きはなく、投資商品の中では比較的安定しています。
不動産投資は、「他人資本で投資ができる」ので手元資金を大きく減らさなくて済むのがメリット。自分のお金で投資するよりも、10馬力・20馬力になって資産形成ができ、そのスピードも増します。ローン返済が終わった不動産があれば、それを担保に借り入れも可能で新たな物件に追加で投資するという方法を取ることもできます。
不動産投資は、ローンの返済中のキャッシュフロー(家賃とローン返済額の差額)はないか、よくてもわずかにプラス程度です。しかし、ローンの返済が終われば、家賃収入が丸ごと収入となります。一気にキャッシュフローがプラスになるため、安定した収入が手に入ります。
災害への備えは、防災グッズだけではありません。生活防衛資金を確保し、長期的な資産形成にも取り組むことで、もしものときにも暮らしを守る力を高めることができます。普段から「お金の備え」と「資産形成」の両方を意識しておくことが、将来の安心につながるでしょう。
参考情報:
・内閣府「防災情報のページ」
・気象庁「震度データベース検索」
執筆:高山 一恵(たかやま かずえ)
(株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
(株)Money&You取締役。中央大学商学部客員講師。一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。NHK「日曜討論」「クローズアップ現代」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「マンガと図解 はじめての資産運用」(宝島社)など書籍110冊、累計200万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
X(旧Twitter)→@takayamakazue
お金の備えの考え方が掴めたら、次は資産形成の視点も広げてみませんか。
- NISAだけで大丈夫?
→ NISA一本で備えることの限界を振り返れます。 - 不動産投資が生命保険がわりに!
→ 団信の仕組みが備えにもなることを学べます。 - 資産の分散について考えよう
→ 生活防衛資金と運用資金の分け方を学べます。 - iDeCo(イデコ)と不動産投資で節税しながら将来に備えよう
→ 長期の備えを税制面からも学べます。