バフェット、ソロス、ロジャーズ…世界三大投資家に学ぶ投資術
ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズ。「世界三大投資家」と称されるこの3人は、投資によって大金持ちになったことでよく知られています。しかし、「投資で大金持ち」は共通していても、投資に対するアプローチは三者三様です。
そこで今回は、バフェット、ソロス、ロジャーズの3人の投資術を紹介します。
ウォーレン・バフェットの投資術
1930年、米国のネブラスカ州オマハで生まれたバフェット。小さな頃からビジネスに関心があり、6歳のころには6本25セントのコーラをばらして1本5セントで売っていたそうです。11歳で初めて株式投資を経験し、大学進学後は「割安株投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアムから投資について学びました。そして卒業後は証券会社や資産運用会社で働き、資産を増やしていきました。
1963年、当時繊維業を営んでいたパークシャー・ハザウェイの筆頭株主になり、1965年に経営権を取得。会長に就任します(現在は会長兼CEO)。会長就任後もさまざまな投資を行い、資産を増やしますが、本業の繊維業の動向は思わしくありませんでした。そこで1985年に繊維業を廃業。以後、バークシャー・ハザウェイは投資会社となりました。
以後、さまざまな会社への投資や買収を手がけてきたパークシャー・ハザウェイ。今や資産総額50兆円を超える大企業に成長しています。また、米国の経済誌「フォーブス」の世界長者番付(2023年版)[ty2] によると、バフェットの個人資産額は1060億ドル(約14.3兆円・1ドル=135円として計算)。これだけの資産を株式投資で築いたバフェットは、今や「投資の神様」「オマハの賢人」として多くの投資家の尊敬を集めています。
そんなバフェットの投資術は、次のようなものです。
バフェットの投資術1:長期投資を行うこと
バフェットの投資術で一番大切なことは、長期投資を行うこと。「バイ・アンド・ホールド」、つまり買ったらそのまま保有し続けるというわけです。
プロの投資家といえば、市場の値動きに合わせて頻繁に買ったり売ったりを繰り返すデイトレーダーのような姿をイメージする方も多いでしょう。また、デイトレーダーとまではいかなくても、1ヶ月、1年といった短期間で多少値上がりした段階で、売却して利益を得てしまう方もいるでしょう。しかしバフェットは違います。バークシャー・ハザウェイはアップル、コカ・コーラ、バンク・オブ・アメリカといった米国の有名企業にずっと投資し続けた結果、資産を大きく増やすことに成功しています。
市場の短期的な値動きにとらわれると、どうしても投資がギャンブル的になってしまい、値下がりしてしまうこともあります。しかし、長期的な視点で投資し続けることで、そうした市場の短期的な値動きの影響を軽減して、資産を安定的に増やせる、というわけです。
バフェットの投資術2:価値のある企業に投資すること
バフェットは、企業の価値を調査して、将来にわたってその価値を高め続けられるかを考えます。そして、その企業の株が割安だとみたときに投資をします。極端にいえば、1000円の価値があると判断した株が200円で売られているときに買う、ということです。こうした投資を「バリュー株投資」といいます。
バフェットのいう「価値のある企業」は、他社に真似できない魅力があるような、独自性のある企業です。独自性のある企業は、業界内でもオンリーワンの製品やサービスを生み出すため、長期的に成功する可能性があります。そうした企業に早くから投資して、長く投資を続けることで、やがてくる株価上昇のときに大きく資産を増やせます。
バフェットの投資術3:よく知らないものには投資しないこと
いくら稀代の投資家、バフェットであっても、はじめから投資が上手だったわけではありません。姉と共同ではじめて購入した株は一時値下がりしたものの、結局6ドルほどの利益を得ることができました。しかし、実はその株はその後大きく値上がり。もう少しその株を持ち続けていれば、500ドルほどの利益を得られるはずだったのです。
この経験からバフェットは、
①買った時の株価にこだわってはいけない
②よく考えずに慌てて小さな利益を得ようとしてはいけない
③家族・友人のお金で投資してはいけない
という3つの教訓を得たといわれています。
たとえ一時的に株価が低迷していても、自分がよく知っている企業であれば、やがて株価が上昇するのを待つことができます。しかし、よく知らないものに投資してしまうと、株価が下がることで慌ててしまい、少しの利益を得ようとしてしまいます。
ですからバフェットは、自分が理解できない、よくわからないものには投資しません。よくわかる分野にのみ、値上がりを信じて投資を行います。
たとえば、バフェットは仮想通貨(暗号資産)を買いません。投資をするうえで、知らないことは最大のリスク。思わぬ値下がりで損失を被る可能性がある、というわけです。実際、バフェットは仮想通貨に批判的な意見を持っていることで知られ、今後も購入することはないと公言しています。
ジョージ・ソロスの投資術
バフェットと同じく1930年にハンガリー・ブダペストで生まれたジョージ・ソロスは1973年、次に紹介するジム・ロジャーズ氏とともに「クォンタム・ファンド」を立ち上げました。
クォンタム・ファンドは、今でいうヘッジファンドです。ヘッジファンドとは、通貨・株式・債券などに投資するときに、先物やオプションなどの手法を組み合わせて買いと売りを同時に行い、確実に利益をあげることを目指すファンドです。まだヘッジファンドという言葉ができる前から、ソロスはヘッジファンドを運用していたのです。
1992年、ソロスは固定相場制のなかで割高とされていた英国の通貨、ポンドに100億ドルもの大掛かりな売りを実施。これによりポンドは急落しました。1992年の「ポンド危機」と呼ばれる事件です。
英国はポンドの急落を阻止しようとしたものの結局下げ止まらず、イングランド銀行は破綻寸前に。英国が変動相場制に移行するきっかけになりました。これにより、10億ドルとも20億ドルとも言われる利益を叩き出したソロスは「イングランド銀行を潰した男」と呼ばれるようになりました。
以後、2000年代のサブプライム問題、2010年代のアベノミクスの際にも空売りを仕掛けて巨額の利益を出したことがたびたび報じられています。
そんなソロスの投資術は、次のようなものです。
ソロスの投資術1:市場の歪みをとらえること
市場の価格は、世間のあらゆる情報を織り込んで形成されるという考え方を「効率的市場仮説」といいます。もし本当に効率的市場仮説が正しければ、普通の情報を得て投資する投資家は、利益を上げられなくなってしまいます。
しかし、現実の市場はどこかに「歪み」が生じています。その歪みをついて投資ができれば、必ず利益を上げられる機会があると考えています。ソロスをはじめ、今のヘッジファンドの多くが採用する「グローバル・マクロ運用」という投資手法は、世界の金融市場をマクロ経済の視点からチェックして妥当と判断できる価格を算出し、それと市場の価格が大きく乖離したときに投資を行う手法です。先に紹介したポンド売りも、ポンドの妥当な価格と市場の価格が大きく乖離していたところをソロスが突いた、というわけです。
ソロスの投資術2:リスクを管理すること「ロングショート戦略」
市場の歪みをとらえることは大切ですが、そうそう簡単に市場の歪みを見つけることはできません。そこで、リスクを管理して投資するために、ソロスは「ロングショート戦略」という投資手法を取りました。割安と考えた資産を買うポジションと、割高と考えた資産を売るポジションの両方を一度にとるようにします。買いと売りのポジションの比重を変えることで、思惑どおりいけばリスクを抑えて利益を得ることができます。
トレンドは、上昇と下降を繰り返します。ロングショート戦略でリスクを管理して、確実に利益を積み増していきます。
ソロスの投資術3:投資の「仮説・検証サイクル」を細かく回す
ソロスは「史上最大の相場師」と呼ばれることもありますが、無謀なギャンブラーとして大きな賭けをし続けていたわけではありません。
ソロスは、投資をするときには必ず仮説を立てて小さな取引を行います。仮説が正しいと思ったら、一気に大きな投資を行います。しかし、仮説が間違っていたと思ったら、仮説を検証して見直し、修正して再度投資をしたり、あるいは間違いを認めて損切りしたりします。ソロスは市場がいつも自分の予測通りには動かないことを踏まえて、きちんと検証した上で大きな投資を行うのです。
ジム・ロジャーズの投資術
1942年、米国アラバマ州に生まれたジム・ロジャーズ。バフェットと同じく幼少期からビジネスに興味を持ち、5歳のときにはピーナッツを売り歩いていたというのですから驚きます。大学で歴史学を学び、アナリストとしてウォール街で働きながら、投資家としての経験を積みました。
1973年にはソロスとともに「クオンタム・ファンド」を立ち上げ、大きな利益をあげました。しかし、ソロスとロジャーズの間でファンドの運営方針をめぐって争いが発生。1980年にロジャーズは引退しました。
引退後、ロジャーズは世界を車やバイクで旅行しながら投資を行う「冒険投資家」に転身。バイク初の6大陸横断を成し遂げた様子は、書籍などで読むこともできます。それとともに、投資家としても注目を浴び、さまざまな言動が報じられています。
そんなロジャーズの投資術は、次のようなものです。
ロジャーズの投資術1:「トップダウンアプローチ」徹底的に調べて投資
ロジャーズは、投資対象を国→業種→個別企業という段階を踏んで絞り込み、徹底的に調査します。マクロ的な視点から調査する、トップダウンアプローチと呼ばれるやりかたです。世界中を見てきたロジャーズらしく、これから活気が出る国や業種を肌で感じて、投資に生かしています。いくら他人が正しいと信じていることでも必ず疑い、自分で調べて答えを導き出すことを大切にしています。
また、企業を調査する際には、各企業が公表しているアニュアルレポートから読み込みます。投資に値する投資先かどうかを考える時に、より生の情報が載っている記事をもとに判断するというわけです。今は、ウェブサイトでアニュアルレポートを読むこともできる時代ですから、投資先のことを深く知るのに役立ちます。
ロジャーズの投資術2:長期的な視野をもって投資すること
バフェットと同じくロジャーズも、長期的な視野をもって投資を行います。世界中の経済の発展や資源の需要と供給といった情報に注目し、数年〜数十年先までの将来を予測します。そうした中長期的なトレンドに合わせて投資することで、利益が大きくなると考えています。
ただ、典型的な「バイ・アンド・ホールド」ではなく、市場の変化で今後の成長が見込めないとなると売却して次の投資先を見つけるなど、やや機動的です。
ロジャーズの投資術3:割安投資をすること
ロジャーズは株式だけでなく、金・原油・食物といった商品にも投資しています。1970年代、原油価格は多くの人が「値下がりする」と予想していました。しかしロジャーズは自分で調査して「値上がりする」と判断して投資。10年後には、原油価格は約10倍になっていました。このころになると、多くの人が「原油は値上がりする」と投資を始めていましたが、ロジャーズは原油を売りました。原油価格が割高になると見込んだからです。
ロジャーズは世界中の割安な投資対象を探して投資し、長く保有することによって、資産を増やすことができるとのことです。
「割安」なモノに投資をすることは重要なのは理解できますが、何を持って「割安」と判断するかは正直難しいところだと思います。それがわかったら皆お金持ちですからね。
ロジャーズは、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)のような指標で「割安」と単純に判断する訳ではなく、長年の分析・経験・直感など総合的に判断しているようです。
自分の頭で考えることが大切
「世界三大投資家」のウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズの投資方法を見てきました。生い立ちも手法もそれぞれ異なりますが、共通していることは、自分の頭で投資先を選び抜き、投資先を決めたら原則「長期投資」を続けることにあります。
折しも、2024年からは「新NISA」がはじまることで、非課税の投資を無期限で続けられるようになります。これまで以上に長期投資がしやすい環境が整います。世界三大投資家のような資産はなくても、株式や投資信託などを利用することで、長期投資をすることはできます。将来の資産形成のために、ぜひ取り組みましょう。
頼藤太希 (株)Money&You代表取締役/経済ジャーナリスト
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計100万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。