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日本の物価は世界と比べてどうなっているのか

毎日のように値上げのニュースが続く日本。あれもこれも値上げになって、買い物のときに悲鳴をあげている人も少なくないはずです。しかし、それは日本だけのことではありません。世界中で物価が上昇するインフレが起こっています。では、日本の物価は、世界と比べて高いのでしょうか、安いのでしょうか。さまざまなデータをもとに、日本の物価の現状に迫ります。

日本の物価は確実に上昇している

わたしたちが普段購入する物やサービスの価格を知るためのデータに、総務省が発表する「消費者物価指数」があります。

消費者物価指数には、すべての商品をまとめた「総合」のほか、天候などによる価格変動の大きい生鮮食品を除いた「生鮮食品を除く総合」、原油価格の影響を受けやすいエネルギーを除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の指数もあります。

ニュースなどでよく利用されるのは、生鮮食品を除く総合の指数です。

生鮮食品を除く総合の2000年からの年次推移は、次のとおりです。

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合・2000年〜2022年・年次)

総務省「消費者物価指数」より(株)Money&You作成

この指数は、2020年の物価を100とした場合の物価の上下を示しています。2020年を基準として、100より下だと2020年より物価が安いこと、100より上だと2020年より物価が高いことを表します。

2000年以降、2020年より前に100を上回った年は、2019年のみです。2019年といえば、10月に消費税の税率が10%に値上がりした年です(食料品や新聞など、一部の品は8%に据え置き)。しかし、それ以前は100に届いていません。それに対して、直近の2022年は102.1と、一気に上昇しています。

もう少し細かく見てみましょう。同じく消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)を2021年12月から2023年8月まで、前年同月比の割合で見てみると、次のようになります。

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合・2021年12月〜2023年8月・月次)

総務省「消費者物価指数」より(株)Money&You作成

2023年8月分の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.7となり、前年同月比3.1%上昇しています。消費者物価指数は2021年12月以降上昇基調が続いており、2022年4月以降は2%、10月以降は3%を超えて上昇しています。

世界の物価はもっと上昇している

このように見ると、日本では急激に物価高が進んでいるように見えます。しかし、物価高は、日本に限ったことではありません。今やどの国を見渡しても、物価が上昇しています。しかも、日本よりも急速に進んでいるのです。

IMF(国際通貨基金)が公表している「世界経済見通し(World Economic Outlook Database)」によると、G7各国のこの10年ほどのインフレ率は、次のように推移しています。

G7各国のインフレ率(2013年〜2025年)

2023年(フランスは2022年)以降は予測値

IMF「World Economic Outlook Database 」より(株)Money&You作成

この10年ほどのインフレ率の推移を、順を追って見ると、日本では2014年に物価が少し上昇していることがわかります。もしかするとお気づきの方もいるかもしれませんが、これは2014年4月に行われた消費税増税(5%→8%)の影響が大きいと考えられます。

その後2020年までは各国大きな変化はありませんが、他の国に比べて、日本のインフレ率は低い状態が続いています。

この状況が大きく変わるのが2021年。2021年のインフレ率は、日本はわずかに下がっているのに対し、他のG7各国は急上昇しています。さらに2022年は最初に紹介したとおり日本もインフレ率が上昇していますが、他のG7各国はいずれも2021年を超える勢いで上昇しているのです。つまり、確かに日本も物価は上昇していますが、他の国はそれ以上に上昇しているのです。

2023年以降のデータは各国の予測値なので、今のところ2022年よりもインフレ率は下がっていますが、それでも日本のインフレ率は世界の上昇率ほどには高くならないと予測されています。もちろん、物価高がずっと続いている現状を考えれば、予測を超えて上昇する可能性も十分にあるでしょう。しかし、それは他の国も同じです。

今回はG7諸国を比較しましたが、その他の国で比較しても同様の結果が出ます。日本の物価は、世界的に見ると上がっていないのです。IMFによると、2022年のインフレ率ランキングはデータのある193の国・地域のうち187位というのですから、驚きです。

日本のインフレは景気が悪くなるインフレ?

日本では長らくインフレを目指していたのだから、今の状況はむしろよいことなのではと思う方もいるかもしれません。

確かに、日本経済はバブル崩壊後の1990年代からデフレ(デフレーション)になり、景気が低迷していました。デフレ下では物価が下がります。一見、物価が下がることはよさそうに感じますが、物価が下がると企業の業績が悪化し、給料が下がり、消費をしなくなり、さらに物価が下がるという「デフレスパイラル」の状態に陥ってしまいます。

それを防ぐために日本は、適度なインフレによって景気をよくし、給料を増やし、需要が増え、消費を増やすというインフレを目指していました。こうした好景気・需要増のインフレを「ディマンドプルインフレ」といいます。

しかし、今のインフレはディマンドプルインフレではなく、商品を作るためのコストが上昇することで、企業が商品価格を値上げする「コストプッシュインフレ」です。これでは、景気は一向によくならず、給料も増えません。

実際、国税庁「民間給与実態統計調査結果」(2021年)によれば、2021年の給与所得者の平均給与は443.3万円で、前年よりも10万円ほど増えています。しかし、振り返ってみると2000年時点の平均給与は461万円でした。平均給与は上昇しているどころか、いまだに2000年の水準よりも少ないのです。給料が上がらないにもかかわらず、物価が上昇すれば、日本人の暮らしは苦しくなることが目に見えています。

給料だけではありません。老後の暮らしを支える年金も、物価の上昇ほどには増えないのが現状です。2023年度の物価変動率は2.5%だったのに対し、年金額の増加は2.2%(67歳以下)・1.9%(68歳以上)となっています。年金も増えてはいるものの、年金が増えるよりも早いスピードで物価が上昇してしまえば、やはり暮らしは厳しくなってしまいます。

日本は「安い国」になっている

世界のインフレ率にくらべて、日本のインフレ率が低いということは、外国からみた日本の物価は、どんどん安くなっていることを表します。

わかりやすい指標のひとつに、英国の経済紙エコノミスト(The Economist)が発表するビッグマック指数 があります。マクドナルドの定番メニュー、ビッグマックは世界中どこで注文してもほぼ同じものがでてきます。この価格を各国で比較することで、物価の水準を比較しよう、というわけです。

基準となる米国のビッグマックは5.58ドルなのに対して、日本のビッグマックは43.2%も安い3.17ドル。54カ国中44位です。つまりそれだけ、日本の物価が安くなっているといえるのです。ちなみに、トップはスイスで7.73ドルです。

マーサー「2023年世界生計費調査(Cost of Living Survey)」によると、世界でもっとも物価の高い都市は香港。シンガポール、チューリッヒ…と続き、東京は19位になっています。さらに、東京以外の都市も軒並みランクダウン。大阪が56下がって93位、名古屋が62下がって113位、横浜が65下がって115位となっています。

物価が安いことを受けて、訪日外国人による消費も増えています。観光庁の資料によると、2023年4−6月期の訪日外国人旅行消費額は1兆2052億円で、新型コロナウイルスが広まる前の2019年同期比で95.1%まで回復しています。

また、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と公益財団法人日本交通公社(JTBF)が共同で行った「DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2022年度版)」によると、日本は外国人にとって、次に旅行したい国の第1位なのだそうです。

訪日外国人にとっては、円安も日本旅行を後押ししています。円安になると、外国人は日本旅行が安くできます。そのうえ、日本はサービスの質が高く、治安もよいのが「旅行したい」の要因になっています。

ただ、訪日外国人にはありがたい円安ですが、たとえば「円安ドル高」というように、円安は外国の通貨が高くなることがセットで起こります。つまり、円安が進むと海外からものを輸入して売る企業は輸入コストが上がってしまいます。日本はさまざまなものを輸入に頼っていますので、円安が進むことで物価高が進むという側面もあります。訪日外国人が増え、日本を楽しんでいただくのはよいことですが、行き過ぎた円安によって、日本に住むわたしたちの暮らしが苦しくなってしまうのは避けてほしいものです。

さまざまなデータから、日本の物価が上がっていることを紹介しました。ただ、日本の物価の上昇率は、世界と比べるとかなり低いため、相対的に日本の物価が安くなりつつあることもお分かりいただけたと思います。

緩やかなインフレが続けば会社の売上があがり、会社の売上があがれば給与が増え、給与が増えれば生活に余裕が生まれる…と言われてきたものの、肝心の給与が増えているという実感がない方が多数でしょう。

政府には物価高対策、給与アップの対策をしていただくとともに、わたしたちも節約する、投資する、収入を増やすなど、生活を守るためにできることに取り組んでいく必要があるでしょう。

高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー

一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計100万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

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