アメリカFRBが利下げを実施…日本にどう影響する?
投資を意識していると、経済関連のキーワードが自然と目に入ってくるようになります。
アメリカFRBのニュースも、「そういえば、よく目にした」と感じているのではないでしょうか。
アメリカは2022年3月以降、利上げを続けてきていましたが、2024年9月にはついに利下げに踏み切りました。
アメリカの経済は、世界に影響を及ぼすため大きなニュースにもなります。多くの人の注目を集めたことは記憶に新しいでしょう。
今回は、アメリカFRBの利下げと、日本への影響について、わかりやすくお伝えします。
そもそも利上げ・利下げってなに?
お金のやり取りをするとき、中心になるのは、銀行などの金融機関です。個人も、企業などの法人も、金融機関を利用して、お金を預けたり、送金したり、借りたりして、スムースな金融活動を行っています。
民間の金融機関をまとめる組織が、中央銀行です。中央銀行は、「銀行の銀行」と言われることもあります。実際に、民間の銀行が中央銀行にお金を預けたり借りたりしています。
日本の中央銀行は日本銀行です。
中央銀行の最も重要と言われている役割は、物価の安定と、経済の発展です。
物価が安定していれば、安心して暮らすことができます。また、経済の発展を実感できれば、将来への希望を持つことができます。
これらの役割を果たすため、中央銀行はさまざまな経済政策(金融政策)を実施して、物価の安定と経済発展を誘導します。
あくまでも、誘導であることがポイントです。いくら物価の安定が大切だからといって、モノやサービスの値段を日銀が決めることはありません。経済活動は自由なものだからです。
物価の安定と経済発展の誘導のために中央銀行が実施する代表的な政策が、利下げ・利上げです。
中央銀行は、民間の銀行からお金を預かったり貸したりします。その金利=政策金利を上げることが利上げ、逆に下げることが利下げです。
利上げをすると、民間銀行の貸出金利が高くなります。
すると、お金を借りたい企業や個人が減って、経済活動が停滞します。
インフレ(物価が上昇すること)の抑制をするべき局面では、有効な政策です。
逆に利下げをすると、民間銀行の貸出金利が低くなり、お金を借りやすくなります。
個人なら、住宅ローンの金利が下がるので住宅購入に積極的になれるでしょう。
企業でも、借入れをして事業の拡大をはかり、さらに大きな収益を目指せます。
デフレ(物価が下落すること)から脱却して景気を上向かせるには、利下げが有効といわれるゆえんです。
アメリカFRBが利下げを実施
FRB(The Federal Reserve Board・連邦準備制度理事会)は、アメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関です。FRBが開くFOMC(Federal Open Market Committee・連邦公開市場委員会)は年8回開催され、その時の景況判断や、政策金利の方針が発表されます。
2022年3月以降、FRBは政策金利を引き上げ続けていました。それは、景気が過熱してきたとの判断があったからです。
好景気は良いのですが、加熱してしまうと、物価上昇に収入が追い付かない人が増え、国内の分断が起きてしまいます。
また、物価上昇のスピードが速すぎると、経済への信頼が揺らいでしまいます。
安定した経済成長であれば、投資家の投資マネーを呼び込むこともできますが、経済不安を感じさせるようであれば、リスクを避けたい投資家の投資マネーが、アメリカから遠ざかってしまうことにもつながりかねません。
FRBは、2022年2月には0.25%だった政策金利を、3月には0.50%、5月は1.00%、6月には1.75%、7月には2.50%・・・と上げ続け、2023年7月には5.50%まで引き上げました。その間、日本はずっとマイナス金利だったことを考えると、まったく逆の政策だったことがわかります。
その後2024年8月まで、FRBは政策金利を5.50%で据え置いていました。
それは、物価上昇をまねいているインフレが落ち着いてきていること、失業率が低下して雇用など労働市場環境が安定していることが主な理由です。
安定しているので、現状維持で様子を見ていたような状態といえるでしょう。
しかし、アメリカのFRB議長を務めるパウエル氏は2024年7月、インフレ率の低下を示す指標が続けば、利下げを始めることができるという認識を明らかにしました。2年続いた、高水準の政策金利による金融引き締めは最終局面にあり、2024年内には利下げが始まるという観測が市場で広まりました。
そして2024年9月、FRBは政策金利を0.50%引き下げ、5.00%にしました。
利下げの決定の要因には、インフレ率の安定があります。インフレ率が持続的に2%に向かいつつあることで、安定した経済成長が実現していると判断されました。雇用に関して、当面の失業率が上方修正されたこともまた、利下げ判断の一因です。
一方、2024年の日本ではアメリカとは逆の政策金利の流れが起こりました。
日本は長らくマイナス金利政策を続けてきましたが、デフレ脱却のきざしを受けて、2024年3月に-0.10%から0.10%へ利上げをしました。その後、7月には0.25%へさらなる利上げでを行なっています。
過去は「利下げ&景気後退」で株価下落(暴落)が起きている
さて、アメリカが利下げをすると、金融市場にどのような影響が起きるでしょうか。
特に今回のアメリカの利下げは0.50%と比較的大きな利下げ幅です。影響も決して小さくないでしょう。
過去には、アメリカの利下げと景気後退により、株価の下落が起きています。
S&P500の株価指数を見てみると、湾岸戦争が起きた1990年、6月に実施された利下げの3カ月後には、-19.8%も落ち込んでいます。また、ITバブルが崩壊した2001年、1月に実施された利下げの3カ月後にも-18.1%の下落。アメリカで不動産バブルが崩壊した2007年、9月に実施された利下げでも、6カ月後にはマイナスです。
これらの利下げは、景気後退を伴っていることが特徴です。
つまり、今回の利下げについても、景気後退が伴うかどうかを見極めることがポイント。
景気後退の指標には、失業率、GDP、個人消費などが挙げられます。
株式投資をしているなら、株価の変動に先立って動く指標は要チェックです。
ただし、利下げの3年後、5年後を見てみると、株価は戻っているケースが多いのも事実。
株価が暴落したからといって慌てて売ってしまうのは、決して得策ではないようです。
投資は、じっくり腰を据えて続けることが、結果的にはよい結果につながります。
株価下落の損失を回避するには、分散投資がセオリーです。
株価と逆の動きをする国債にも投資することで、株価変動のリスクを抑えることができます。
投資信託では、株式と債券にバランスよく投資できる商品を選ぶなど、工夫をしましょう。
また、個別銘柄の株式投資であれば、不況に強い銘柄を複数選ぶのもよい方策。
生活必需品や、一般消費財・サービス、ヘルスケアなどの業種は、ディフェンシブ銘柄といって、不況に強いと言われています。
たとえば、食品や、社会インフラである電力・ガス・鉄道・通信、医薬品の企業です。
暮らしに不可欠な業種なら、好不況にかかわらず、事業の継続が見込めます。
アメリカの利下げは日本にどう影響する?
アメリカが利下げをすれば、日本にも影響が及びます。
具体的に見ていきましょう。
株価への影響
アメリカの利下げに景気後退がともなうと、株価が下落することが過去の事例からわかりました。
今回のアメリカの利下げは、景気の過熱が落ち着いてきたためになされた判断です。
過熱が落ち着くだけならよいのですが、このまま不景気にシフトしてしまうと、株価下落につながりかねません。
アメリカの株価は日本の株価と連動することが多いので、その場合には日本と株価も下落するでしょう。
とはいえ、一般的には、利下げは企業の業績アップにつながります。
資金の借り入れがしやすくなり、設備投資などで事業拡大ができるからです。
その場合には株価は上昇、日本の株価も上昇傾向になると思われます。
為替への影響
アメリカが利下げに転じると、投資家はアメリカでの投資にメリットを感じなくなり、投資マネーはアメリカから離れます。しかしそれは「アメリカよりもメリットの大きな投資先があれば」という条件があります。
アメリカが利下げをしたとはいえ、それでも先進国のなかでは高水準の利率です。
日本では、アメリカとは逆に利上げをしましたが、2024年9月の利上げで0.25%と、アメリカの5.00%とは大きな違いです。
そのため、ドルが強い状態は今後も続くでしょう。一時的に円高のニュースが入る時もありますが、全体的には円安ドル高の傾向だと考えられます。
物価への影響
円安ドル高の状況では、海外からの輸入品価格が高くなり、国内物価も上がります。
日本では、食料品やエネルギー資源を輸入に大きく依存しているので、円安は物価高に直結し、生活費が苦しくなります。
その一方、輸出産業はドル高の状況で売るので、利益が大きくなります。
自動車、電機、精密機器、機械などの輸出産業は業績アップになる企業が増えると思われます。このような業界から賃金アップの流れができれば、物価高に収入が追い付くのですが、このあたりは今後の状況を見ていきたいところです。
物価高だからといってモノ・サービスの値段を下げるのではなく、収入をアップして高くなった商品を買えるようになることが、景気をよくしていくと考えられます。
今後も利下げは続く?
さて、アメリカFRBの利下げは、今回限りではないようです。
政策金利は5.00%に下がりましたが、依然として金融引き締めの水準にあります。報道によると、2024年11月と12月のFOMCでも利下げするという観測が多くあります。今後好景気と物価の安定、雇用の安定を目標にしつつ、バランスのよい政策金利として、3%程度の水準まで引き下げると見られています。
FRBでも利下げは十分に時間をかけて行う方針ですが、利下げの時期や、下げ幅によって、金融市場は敏感に反応します。利下げの予想がなされる時、利下げになった時、そして、その後に発表される利下げを決めた議事要旨が発表される時などには、為替が大きく変動することが考えられます。
これからアメリカでは大統領選があり、中東情勢には目が離せません。そして利下げのニュースも、日本に影響があるという点では、注目すべきでしょう。ぜひ今後の動向を確認して、投資判断に生かしていきましょう。
タケイ啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー