日本が利上げをしたらどうなる?
日本では超低金利の環境が長く続いていますが、世界の国々ではインフレを抑え込むために、金利を上げて景気の舵取りを行っています。世界的に債券市場で長期金利が上昇しており、将来日本でも金利が上がるのではないかという懸念が強まっています。
日本は過去20年以上にわたって低金利だったため、私たちは金利が上がる環境に慣れていません。それに加えて2022年からの食料品やエネルギー資源の値上がりは、家計に大きな打撃を与えています。この先金利が上昇した場合、私たちの生活にどのような影響が出るのか、金利と生活との関係性について具体的に考えていきましょう。
そもそも利上げとは
金利は、お金の貸し借りのときに発生する手数料の割合のことです。その金利は一定ではなく、景気やお金に対する需要と供給のバランスによって変動しています。
利上げとは、日銀や米国のFRB(米国連邦準備理事会)などの中央銀行が金融政策として金利を引き上げることをいいます。中央銀行は、景気や物価の安定のために自国の経済の状況を見ながら金利を上げ下げします。中央銀行が利上げを行うと、民間銀行も連れて金利を引き上げることになります。
利上げは、景気の回復期や拡大期に実行されることが一般的です。市場の景気の過熱を抑制するために行われますが、行き過ぎると景気の低迷につながる可能性があります。また、利上げに踏み切れずにいると、インフレを抑えることができず、景気動向が不安定になります。
一方、利下げは世の中の金利を引き下げることで景気を刺激して、経済を活性化させるために行います。中央銀行は、利上げと利下げをうまく使い分けながら、景気をコントロールしているのです。
日本と世界の利上げの動向はどうなっている?
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、景気減速をくい止めるために世界各国はさまざまな金融緩和政策・財政政策を打ち出しました。その後だんだんと景気が回復してくると、今までの縛られた生活の反動から消費が拡大し、物価が上昇する傾向がみられるようになりました。
この状況に加え、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が起こり、食料やエネルギー資源が高騰し、物価がどんどん上がっていくので、インフレを抑える姿勢を強めています。
海外の利上げの動向(米国・欧州など)
コロナショックの影響から、米国は2020年3月に政策金利を1.75%から0.25%に金利を引き下げる政策をとりました。この政策により世の中にお金が多く出回ることになり、仕事を離れる労働者や早期リタイアするシニア層が増えました。コロナ禍から景気が回復してくると、働き手が確保できないため、賃金がさらに上がり物価がどんどん上がる状況になります。そして、折しもウクライナ侵攻による物価高が重なる結果になってしまったのです。急激にインフレが加速したため、米国では2022年3月に0.25%から0.5%へ0.25%の利上げが行われました。
それ以降2022年から2023年にかけて、急速なペースで利上げが行われることになります。これは歴史的にも非常に高い水準で推移しています。FRBによる利上げは、米国のインフレを抑えるだけではなく、度重なる利上げによって経済的に基盤が弱い国にも被害を及ぼしています。利上げを行うことで米国の金利水準は上がります。
為替は、金利が低い通貨から金利の高い通貨へ資金が流れやすい特徴があるので、お金は新興国から安定した米国へと移っていきます。同じように金利が上がらない日本円に対して、利上げが続く米国ドルが買われるため、急激な円安がもたらされました。
利上げは、米国だけではなく、世界中の他の先進国にも連鎖しました。度重なる利上げは、世界経済が低迷するのではないかと懸念されています。特にインフレが続く期間や金利の上昇幅、中央銀行が金融緩和に転じる時期について、FRBと投資家との間で意見が異なっています。市場が楽観的にとらえていると、中央銀行では利上げを行うなど思わぬ展開になることもあり、利上げの動向に敏感にならざるを得ません。米国の政策金利がどの時点でピークアウトするかは、世界の注目が集まるところです。
・米国の政策金利
・欧州(ユーロ圏)の政策金利
引用:https://zai.diamond.jp/articles/-/401200#pagelink02
日本の利上げの動向
日本では国内の景気が回復しなかったため、企業の貸出や投資にお金が回るように2016年に政策金利(短期金利)にマイナス金利(-0.1%)を導入しました。これは銀行が日銀に預けるお金にマイナス金利を付け、銀行間で貸し借りする短期金利を押し下げるものです。さらに、10年物長期国債の金利(長期金利)もゼロ%程度で推移することを目標としていました。
2020年には、新型コロナウイルスによる景気の低迷から脱却するために、さらなる金融緩和を強化する政策がとられました。日銀が国債を買い入れることで長期金利の上昇を抑えていましたが、政策金利の変更はありません。
2022年になると、ウクライナ侵攻によるインフレの加速から、世界各国の中央銀行は利上げを行います。特にハイペースで利上げを行う米国との金利差はどんどん拡大する一方だったので、為替は円安が進みました。世界の中でも日銀は利上げを行なわなかったので、「利上げの欧米、動かない日本」といわれました。
しかし、2022年12月に事実上の利上げと見られる動きがあり、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%程度からプラスマイナス0.5%程度まで広げることを決めました。さらに2023年7月には長期金利の変動幅を1.0%上限とすることを認めました。
日銀はこのように、利上げを行わず、金融緩和政策を継続しています。
・日本の政策金利
引用:https://zai.diamond.jp/articles/-/401200#pagelink02
利上げされると私たちの生活はどうなる?
世界の金利上昇の波は、いずれ日本でもどこかのタイミングで及んでくるでしょう。経済環境が好転してくれば、日本でも利上げが行われ、私たちの生活にもその影響が出てきます。
景気回復局面では、企業活動は活発になります。しかし、利上げによって貸出金利が上昇するので、返済負担が大きくなり、個人・法人ともにお金を借りにくくなります。個人はローンなどの借入れを抑える傾向になり、法人は設備投資を抑え、研究開発などにお金を回すことがむずかしくなります。そのため、加熱する景気を抑えることができます。
為替
相対的に金利が高い国の通貨は買われる傾向があるため、日本が利上げをすることによって、現在よりも円高に振れることになるでしょう。日本は多くの食料や資源を輸入によってまかなっているので、円高になることで国内の物価が押し下げられる可能性があります。また日本円の価値が高くなると、海外製品を安く買うことができます。
株価
利上げによりお金を借りる金利が高くなると、企業は借り入れがしにくくなり、新しい製品や商品の開発がむずかしくなります。そうすると、個人の消費が減少してきます。そのため消費が減り、売上が減ることによって、企業の業績悪化が予想され、株価は下落傾向になります。
物価
物価は供給と需要のバランスに影響を受けます。欲しい人が多く、人気があれば高い値段のものやサービスでも売れるでしょう。しかし、お金を借りなければ購入できないような住宅や車などの高額商品は、資金を借りづらくなるので購入を控えるようになります。購買意欲が低くなり売れなくなると、物価は下落することになります。
住宅ローン
すでに長期金利の上昇を受けて、大手銀行が10年固定金利型の基準金利を引き上げています。住宅ローンは、固定型は長期金利に、変動金利型は短期金利に連動します。
今後長期金利が上昇すると、新規で固定型を借りる人は金利が上がりやすくなります。また、日銀が短期の政策金利を見直す場合には、金利が上がりやすくなります。マイナス金利政策やゼロ金利政策がなくなれば、政策金利に連動して動く可能性が大きいといわれています。そうすると、すでに変動型を借り入れしている人は、住宅ローンの金利が上がりやすくなります。ローン金利が上昇すると、変動型は返済額が増えることに注意が必要です。
財政問題などへの影響
金融緩和を続けている間は、日銀は10年物国債利回りが低水準で推移していますが、金利が上昇すれば、国債の利払いは一気に増えます。内閣府の試算によれば、長期金利が3.2%まで上昇すると、国債費は13.2兆円(そのうち国債の利払費は9.9兆円)も増加する結果になっています。 今まで低金利で国債の利払いに意識が向かなかったかもしれませんが、今後の政府の歳出を圧迫するのは社会保障費より、国債費のほうが増えていきそうです。今後大きく税収が増えなければ、財政そのものを圧迫する可能性もあります。
ただし、すでに利上げを行った海外の国々が経済低迷してくれば、日本が利上げを行うかどうかにかかわらず日本の経済も低迷する可能性があります。イタリアの財政赤字が欧州の経済リスクとして意識されるなど、景気低迷に警戒感を強めています。
景気後退もチャンスにできる投資の方法は?
お金をただ預けているだけでは増えない時代になりました。利上げで銀行預金金利も多少は上がるかもしれませんが、物価の上昇に追いつけず、利下げになれば資産は増えていきません。超低金利の時期を経て、貯蓄だけでは資産が増えないことは十分身に染みたはずです。
投資というと、価格が上がったり下がったりするので、怖いと感じる方もいらっしゃると思いますが、下がったときこそチャンスです。リスクがあるからこそ、お金が増やせるのです。短期的には景気後退局面になるかもしれませんが、安いときに仕込んでおかなければ、大きく資産を増やすことはできません。長期・積立・分散投資でコツコツ投資していくことで、高値つかみをすることなく安心して投資を続けることができます。
長い目で見ると、景気後退や暴落があったとしても、自分から退場しない限り、過去のデータからは十分な投資の効果が得られています。今後も世界経済は人口増加を伴いながら、少しずつ成長していくことでしょう。目先の価格の上げ下げに一喜一憂することなく、淡々と投資を続けていける人こそが大きな成果を手にできるのです。
池田幸代 株式会社ブリエ 代表取締役
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー