新NISAのデメリットや注意点は?やめたほうがいい人の条件は
新NISAは、投資で得られる利益にかかる税金が一生涯にわたってずっとゼロになるお得な制度。2024年に制度が改正されたことに加えて、日経平均株価が史上最高値を更新するなど好調なこともあり、個人投資家に注目されています。
でも、新NISAがどんな人にもおすすめできるかというと、そうではありません。中には、新NISAをやめたほうがいいと考えられる人もいるのです。今回は、新NISAの制度をおさらいしたうえで、新NISAのデメリット・新NISAの注意点を解説。新NISAをやめたほうがいい人の条件を紹介します。
新NISAの制度をおさらい
新NISAは、日本に住む18歳以上の方なら誰でも、一生涯、運用益にかかる税金をゼロにしながら投資・運用ができる制度です。新NISAでは、積立投資専用の「つみたて投資枠」と、積立投資に加えて一括投資もできる「成長投資枠」の2つの投資枠を使って、非課税の投資ができるようになっています。新NISAの改正点については、以前の記事で紹介しています。ここでは簡単に、新NISAの要点や変更点を紹介しておきます。
【新NISAの要点・旧NISAからの変更点】
①制度が恒久化され、いつでも非課税の投資がスタートできるようになった
②非課税期間が無制限なので、いつまでも運用益に税金がかからない
③1年間に非課税で投資できる金額(非課税投資枠)が増えた
・一般NISA:年120万円→成長投資枠:年240万円
・つみたてNISA:年40万円→つみたて投資枠:年120万円
④つみたて投資枠と成長投資枠が併用できる
⑤1人あたり1,800万円の生涯投資枠が設定された
・つみたて投資枠だけ利用して1,800万円投資できる
・成長投資枠だけ利用する場合は1,200万円まで
⑥新NISAの資産を売却すると、翌年に売却した分の非課税投資枠が復活する
・復活する金額は投資元本ベース
・非課税投資枠を使い切っていなくても、売却した分の非課税投資枠は翌年に復活する
新NISAのデメリット・注意点は?
新NISAの「税金ゼロ」のメリットは、投資をするならばぜひ優先して利用したい大きなメリットです。しかし、だからといって新NISAが万能な制度というわけでもありません。ここでは、新NISAのデメリット・注意点を紹介します。
新NISAのデメリット・注意点①:元本保証がない
新NISAを使ったとしても、投資は投資です。投資には、元本保証がありません。
確かに新NISAのつみたて投資枠の商品は「金融庁の基準を満たす投資信託・ETF」です。しかし、いくら金融庁の基準を満たしたからといって、この商品を使えば必ず儲かるというわけではありません。
成長投資枠にしても同じです。投資対象の株や投資信託からは、長期の資産形成に向かないと考えられる商品があらかじめ除外されています。しかし、「除外されていない商品だから絶対に儲かる」というわけではありません。
投資の成果は、あくまで自己責任です。新NISAであっても、お金を減らす可能性があるので、投資先を適当に選ばないように注意しましょう。
新NISAのデメリット・注意点②:数年以内に使うお金を貯めるのには向かない
お金は、目的別に分けて、適した金融商品・制度で貯めることが重要です。
お金を貯めるときには、お金を「日々出入りするお金」「5年、10年以内に使い道が決まっているお金」「10年超の将来のためのお金」の3つに分けて、それぞれ別の口座や金融商品、方法で貯めていきます。
このうち、新NISAで行う「長期・積立・分散投資」で元本割れせずに堅実にお金を増やすには、15年以上がひとつの目安になります。
投資の名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)には、米国の株価指数「S&P500」に1年〜25年投資した場合の年平均リターンのブレ幅が示されています。
<株式投資(S&P500)と年平均リターンのちらばり方(1950年〜2020年)>
「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)をもとに(株)Money&You作成
投資期間が1年間だと、50%以上のリターンを出す年もあれば、37%も下落する年もあることが示されています。つまり、短期間の投資ではリスクが大きいのです。しかし、5年・10年間の投資となると下落のリスクが少なくなり、15年以上だとリターンが少ない場合でもプラスになっています。
また、金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」や「はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック」では、毎月同じ金額ずつ国内外の株式と債券に分散して積立投資した場合の年間収益率が紹介されています。これによると、1985年以降、保有期間20年の場合は投資収益率が年2%~8%の間に収まっていて、この期間では元本割れとなっていません。
これを反対にとらえると、いくら新NISAであっても数年程度の投資では元本割れをする可能性があるということです。数年以内に使う予定のお金を新NISAで用意しようとして、損失を抱えてしまったら困ってしまいます。数年以内に使う予定のお金を貯めるのには、元本割れをせず普通預金より増やせる定期預金や変動国債10年のほうが向いているでしょう。
新NISAのデメリット・注意点③:「損益通算」や「繰越控除」ができない
損益通算は複数の課税口座(特定口座または一般口座)で生まれた利益と損失を合算するしくみ。繰越控除は損益通算しても損失があるときにその損失を最大3年間繰り越して翌年の利益から差し引くことができるしくみです。
<損益通算の例>
(株)Money&You作成
図のように、課税口座Aの損失と課税口座Bの利益を損益通算することで、先に支払った税金約6万円を取り戻すことができます。また、課税口座Aの損失20万円は翌年以降3年にわたって繰り越し、期間内に生じた利益と相殺できます。
しかし、NISA口座の利益や損失は、損益通算や繰越控除に利用できません。NISA口座の利益に税金がかからないのは、NISA口座では利益も損失も「なかったもの」と見なされるからです。利益や損失がないのですから、損益通算もできなければ、繰越控除もできません。
新NISAのデメリット・注意点④:スイッチングができない
スイッチングとは、これまで運用してきた商品を売却し、そのお金で他の商品を購入するしくみです。
投資をしていると、資産の値上がり・値下がりによって、当初投資した資産配分が偏ってしまうことがあります。たとえば、「日本株投信:世界株投信=50%:50%」だったのが、両投信の値下がり・値上がりによって「日本株投信:世界株投信=20%:80%」などと資産配分が偏ってしまったとします。このままだと、世界株投信が暴落したときにお金が大きく減ってしまいます。
こんなとき、スイッチングをすれば、偏ってしまった資産配分を元に戻せるので、暴落時のリスクを抑えることができるというわけです。
老後のお金を貯めるのに役立つiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)にはスイッチングの仕組みがあるのですが、新NISAにはこのようなスイッチングの仕組みがありません。
新NISAの商品をいったん売却して、得られたお金で他の商品を購入することはできます。しかし、もしもその時点で新NISAの年間の非課税投資枠を使い切っていたら、他の商品を購入できません。また、売却した分の非課税投資枠が復活するのも翌年ですので、年内は投資ができなくなってしまいます。
新NISAのデメリット・注意点⑤:海外に転勤・移住するとNISAを続けられない
旧NISAでも新NISAでも、利用できるのは「日本に住んでいて、口座を開設する1月1日時点で18歳以上の方」。NISAを利用するには日本国内に住んでいる必要があります。
海外転勤・赴任すると、「非居住者」となるため、NISA口座の資産は全額払い出しになり、その後帰国しても、払い出した資産を以前利用していたNISA口座に戻すことはできませんでした。しかし、2019年の制度改正で「最長5年の海外転勤等」であれば、NISAの資産をNISA口座で保有できるようになりました。
海外転勤・赴任後もNISA口座で資産を保有し続けたい場合は、出国の前日までにNISA口座を開設している金融機関に「継続適用届出書」を提出して手続きを行います。また、5年以内に帰国した後も、「帰国届出書」を提出します。
<海外転勤・赴任でも5年間はNISA口座で保有可能>
金融庁「平成31年度税制改正について」より
ただし、ルール上は上記のとおりなのですが、この制度に対応している金融機関は少ないのが現状。本稿執筆時点では、楽天証券で「1年未満の保有であれば手続き不要(米国の場合、前年の米国滞在数の1/3、前々年の米国滞在数の1/6、出国年の滞在数の合計が183日以上の場合には手続きが必要)」となっているほか、野村証券・みずほ証券では最長5年の保有ができるようになっています。
新NISAのデメリット・注意点⑥:米国株・米国ETFの配当金への10%課税は非課税にできない
新NISAを利用すると、米国株や米国ETFの利益にかかる国内の税金をゼロにできます。しかし、米国株や米国ETFに投資して得られた配当金には、米国内で10%の税金がかかります。
課税口座(特定口座または一般口座)で投資した場合、配当金にはまず米国で10%の税金が引かれ、残った金額から日本で20.315%の税金が引かれます。しかし、これでは1つの所得に対して2つの国で課税される「二重課税」になってしまいます。そこで、確定申告で「外国税額控除」を申請することで、米国で支払った税金を取り戻せるのです。
一方、新NISAを利用して米国株や米国ETFの配当金を得た場合、日本の20.315%の税金はかかりません。しかし、日本での税金がなくなることで二重課税ではなくなるため、米国での10%の税金は支払う必要がでてきます。
新NISAやめたほうがいい人は?
以上を踏まえると、新NISAをやめたほうがいいのは、
・短期間で利益が欲しい人
・短期間で資産を用意したい人
・6か月分の生活費を貯めていない人
・損益通算や繰越控除で税金を減らしたい人
・すでに海外に転勤したり移住したりする予定のある人
だといえます。
新NISAは長期・積立・分散投資でお金を増やすことを目指す制度です。元本割れのリスクをなくすには、15年以上は投資したいところです。つみたて投資枠でも成長投資枠でも、短期間で利益が欲しい人や短期間で資産を用意したい人には向きません。
また、新NISAを使えば絶対に大丈夫という元本保証はありません。投資でお金を増やすより前に確保したい、まず確保すべきはいざというときの生活費です。生活費に困るくらい余裕資金がないのであれば、生活費を確保するのが優先です。生活費まで投資に回してしまったら、大きく値下がりしたときに生活が立ちいかなくなってしまうからです。したがって、まず6か月の生活費を確保しましょう。もっとも、6か月の生活費が貯まるまで投資をまったくしないと、年単位で時間がかかる人もいるでしょう。そこで、生活費が3か月分貯まったら、月数千円程度の少額で投資をスタートさせ、値動きになれていくのがよいでしょう。
反対に、「新NISAやめたほうがいい人は?」に該当しない人は、「新NISAをやったほうがいい人」です。できるだけ新NISAを活用するのがおすすめです。
新NISAは生涯にわたって投資の利益にかかる税金がゼロにできるお得な制度ですから、これから投資をするのであれば最優先で活用しましょう。
高山一恵 (株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計150万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。